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十年の眠りの間に、私の弟子は最強になっていた  作者: あさび
第一章

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第ニ十ニ話 静かなる企み

月が綺麗だ。


星も、よく出ている。


その中でもひときわ強く輝く双星。


ルクシオンとアルフェン。


アルフェンの象徴とされた英雄が失われても、その輝きは揺らがない。


玉座に腰掛けたまま、エドガルドは天窓から夜空を見上げていた。


星の伝説など、信じてはいない。


詳しいのは――幼い頃、アウレリアが語っていたからだ。


アウレリア・アルフェン。


強く、賢く、美しかった女。


王妃として隣に立っていたなら。


どれほど心強かっただろうか。


だが彼女は、英雄となる道を選んだ。


国を守り、そして――消えた。


そして今。


再びルクシオンに翳りが差し始めている。


……だが。


想定の範囲だ。


アウレリアがいなくとも、国は回る。


回してみせる。


静かに息を吐く。


その時だった。


人払いしたはずの謁見の間に、気配が差し込む。


「誰だ」


「国王陛下に、お目にかかります」


「ああ……王妃か」


ヴィオレッタは静かに礼をし、顔を上げた。


その所作は隙がなく、美しい。


淡い藤色の瞳が、まっすぐにエドガルドを見つめる。


「今夜は、寝室にお越しになりますか」


感情のない声音。


エドガルドは、わずかに間を置いて頷いた。


「ああ。すぐに向かう」


「かしこまりました。先に準備しておきます」


再び礼をし、ヴィオレッタは踵を返した。


――夜は、静かに更けていく。







ギシ、と寝台が静かに軋む。


月明かりが薄く差し込み、白い肌をなぞっていく。


触れられている。


その感覚だけは、確かにある。


けれど――


熱は、どこにもない。


指先が滑る。


重なる影。


絡め取るような距離なのに、心はひとつも近づかない。


口付けはない。


名を呼ばれることもない。


ただ、静かに。


逃れられない流れの中で、身体だけが委ねられていく。


ヴィオレッタは目を閉じなかった。


天井を見つめたまま、


そのすべてを、どこか他人事のように受け入れている。


——子を成すための行為。


それ以上でも、それ以下でもない。


それでも。


わずかに残る温もりが、肌の上を撫でていく。


消えかけた火のように。


掴もうとすれば、指の隙間から零れ落ちる。


やがて、気配が離れる。




やがてすべてが終わると、エドガルドは何も言わずに寝室を後にする。


その背を見送ることもなく、


ヴィオレッタはゆっくりと身を起こした。


メイドはすでに下がらせている。


呼ぶ気にもなれない。


このままでいい。


身を清めるのは、朝でいい。


月明かりが差し込む。


黒髪が、わずかに紫を帯びた。


母から受け継いだ、美しい髪。


だが。


あの人には、何の意味もない。


たとえ自分がどんな姿であろうと、


あの王は、見ようとしない。


――誰のことも。


ルクシオン始まって以来の賢王。


その治世で国は栄えた。


穏やかな微笑み。


整った容姿。


温厚な人柄。


だが、その奥は――冷えている。


十年前。


すべてが変わった。


国は救われた。


だが、王の心は凍りついた。


ヴィオレッタがこの城に嫁いだのも、その頃だった。


エルディア侯爵令嬢として。


王妃となるために。


幼い頃から、そう決められていた。


政略結婚。


愛など、最初から期待していない。


それでも。


時間が経てば、何かは変わるのではないかと――


そう思ったこともあった。


だが。


何も、変わらなかった。


あの人は、ずっと別の誰かを見ている。


愛を得ることなど、とっくに諦めている。


それでも。


子は、欲しい。


ヴィオレッタはそっと下腹に手を当てた。


今日こそは、と。


そんな期待を、何度繰り返しただろう。


世継ぎのためだけではない。


この場所で、自分が生きる意味を得るために。


けれど、その願いすら――叶わない。


十年。


この孤独を埋める術を、彼女はまだ知らない。







静かな廊下に、足音が響く。


「陛下」


低い声だった。


エドガルドは足を止める。


振り返ると、そこに立っていたのはイアン・グレイヴ。


「……まだ起きていたのか」


「少し、よろしいでしょうか」


「申せ」


「リオ・ヴァルノクスの件で」


わずかに間が空く。


「……何だ」


「非常に優秀です。あの年齢であの実力は、他に例を見ません」


「分かっている」


興味の薄い声。


だが、イアンは続ける。


「――それでも、信用なさらないのですか」


空気が張り詰めた。


エドガルドの視線がわずかに細まる。


「優秀だからこそだ」


短く、言い切る。


「信用はしない。だが、使う」


迷いのない声だった。


イアンは一瞬だけ沈黙し、やがて静かに頭を下げる。


「……承知いたしました」


それ以上は何も言わない。


それが、この男の役目だった。

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