食料問題
俺は思わず眉を潜める。
「食料を作り出すスキル? あんたらは魔核を食べてさえいれば生きていけるんだろ? 何故そんなスキルが必要なんだ?」
「いや、誰も彼もが魔核を食べれる訳ではないんじゃ。 ……一つ質問じゃが、お主は魔核とはなんだと思っている?」
人差し指を立てて村長は俺にそう問い掛ける。
魔核……そう言われれば、魔核ってなんなんだろうか。
魔物から取れる食材、みたいなものか?
豚で言う肉とか、そういう感じの。
いや、でもどうなんだ?
なぜ獣人たちは魔核を食べるんだろう。
どうせなら、魔物の肉を食べればいいのに。
そっちの方が数も取れるし、栄養もつく。
なのに、それでも魔核を食べる理由……。
いや逆に考えろ。
魔核ではないと食べれない、と。
村長は言っていた。悪樹の周りは濃密な魔素が漂っていると。
そんな空間で育てられた魔物が、悪影響を持っていないとは考えにくい。
「……わからんか? 予想でいいから言ってみよ」
「食料のなかで最も毒素が薄い、かろうじて食べれる物体……か?」
村長は「おお」と感嘆の声を漏らした。
「その通りじゃ、しかしよくそれに気づいたの。……しかし、それに気づいたのなら、儂がなぜ魔核以外の食料を欲しがるのか、お主にはわかるはずじゃ」
「待て。その前に一つ聞きたい」
俺の予想通りだとしたら……。
「それが理由でこれまで、何人死んだ?」
この村は、まず間違いなく壊滅する。
「子供が15、大人が2じゃ」
「━━ッ!」
やっぱり……か。
この村には子供の姿があまりにも少なすぎると思っていた。
恐らくだが、この島には他の大陸より多くの魔素が大気中に存在しているのだろう。
そのため、この島の植物や果実は魔素の毒に浸されて通常では食べることができない。
俺がケプの実を食べたときも、生死の境をさ迷ったしな。
死ぬ寸前に毒耐性が取得できなかったらたぶん死んでた。
だが、この村の住人は少なくとも数百年の間ここで暮らしている。この島の食べ物は食べられないと知っているのだろう。
かといって、全く毒のない食べ物は存在しない。
だから、苦痛覚悟で少しでも毒の少ないものを━━すなわち魔核を食べた。
生まれた時から何年も。
しかし、毒は蓄積される。
少量の毒でも毎日毎日取り続けたら、その被害は無視できないものになる。
そこで毒耐性を取得できれば問題ないが、もし取得できなかったとしたら。
耐性の低い子供から死んでいく。
つまり、この村では━━子供が生きていけないのだ。
「この村の未来のために、俺にそのスキルを取れってことか」
「……お願いしたい」
深く頭を下げて、村長はそう言った。
俺は技能書のスキルを発動させ、その効果━━食料を生み出す━━をもつスキル探す。
下の方にスクロールすると、それらしきものがあった。
『変換者』━━他の物体を代償を元に自分の望むものに変質させる。EXスキル 取得スキルポイント(400)
「一応それらしきスキルはあった」
「ほ、本当か……!」
村長は喜色を浮かべ、俺に詰め寄ってくる。
「だが、俺はいわばこの村を救うんだ。スキルポイントに、この村の滞在が条件だけじゃつりあわない」
「う、うむ。確かに。して、お主は何を求める?」
決まってる。
「何度もいうが、この世界の情報だ。それさえくれれば、この村の未来も、魔物からの被害も全部守ってやる」
俺はそう断言する。
村長は大きく目を見開いた。
その表情には驚愕の二文字が写っている。
何に驚いたのか、俺には少し理解できないが、村長の纏う雰囲気が心なしか和らいだような気がする。
「……お主、かなり損する性格じゃな」
苦笑しつつ、村長は言った。
本当にありがたいと思っているのだろうか。
俺は小さく嘆息する。
「して、もうすぐ夜が来る。一応魔物は入り込まないように準備しておるが、万が一の時がある。その時はお願いしても、大丈夫じゃろうか?」
「聞くまでもない。それに、こちらからもお願いしたいくらいだったしな」
村長は不思議そうな顔をする。
「食料を生み出すスキル━━『変換者』を取得するために必要なスキルポイントは400。俺の手持ちのスキルポイントは300なんだ。だから、スキルポイントを得るために魔物と戦わないといけない」
嘘だ。俺のスキルポイントは今現在で670。
充分に取得できる。
だが、もしここで考えなしにスキルを取得したら残スキルポイントは270になる。
もし万が一、俺の持ち札で倒せない敵が出てきたとしたら戦闘中に新しいスキルを取ることになる。
その時にスキルポイントがないというのは、わりとまじで洒落にならない。繰り返すようだが、ここは異世界だ。
俺の持つ常識なんて、軽々と飛び越えてくる。
保険なんて何重にかけても足りないくらいなのだから。
「残りスキルポイントは100……か。それを得るのにどれくらいの時間がかかるんじゃ?」
「ざっと一週間かな」
「ふむ。それくらいなら……まだもつじゃろう。して、本当にいいのか?」
村長が俺の目をまっすぐにみてそう問いかけた。
「何がだ?」
「繰り返す。本当にいいのか? お主がこの村にしてくれる貢献は、とても報酬とは釣り合わない。契約内容を変更したいというのなら、喜んでそうしよう」
頭の中で先程歩いた村の壮観を思い浮かべる。
所々崩れた家、塗装すらされていない剥き出しの大地。
人々の表情は暗く、その瞳には一筋の希望すらない。
閉鎖された空間で、外に出ることも叶わずこのまま一生を生きていく。
素直に、可哀想だと思った。
━━━この世界は、楽しいんだってことを知らないのは。
そうだ。この世界は楽しい。一歩外を歩けば未知に溢れている。
そう感じるのは、異邦人である俺だけじゃない。数百年この穴蔵で過ごしてきた獣人達も同じように感じる筈だ。
こういっちゃなんだが、俺はこの世界に来て━━初めて息をした気がした。
俺が生まれて育ってきた世界とは違ってても、ここが俺の居るべき世界だとそう直感した。
こんなにも楽しい世界を。
それも自分達の世界なのに。
━━楽しめないなんて、もったいないじゃないか。
それに、俺も嫌だ。
異世界の最重要ポジションと言っても過言ではない獣っ娘達が、こんな扱いを受けてるなんて。
俺の思い描いていた異世界は、元の世界よりも━━━
その時、頭の中で気配察知のスキルが警鐘を鳴らした。
この洞穴の外が赤い点々で埋め尽くされる。
夜が来た━━。
俺は立ち上がる。
「どこに行くのじゃ?」
村長は、まだ気づいていないらしい。
「ちょっと魔物を倒しに行ってくる」
俺はそう言い放ち、村の入り口に向かった。




