異質⑤
「おいおいおい! なんだぁ、今のラリアットの破壊力は!」
「アカネちゃん、小柄なのにそのパワーは反則ッス!」
ラギとライノが、興奮冷めやらぬまま歓声を上げた。
「ターナーさん、どうでしたか?」
ロイスが満足げな表情を浮かべ、感想を求める。
黙していたターナーが、ゆっくりとリングに上がってくる。
「……完成度の高いスキルだな」
端的な評価。けれど重みがある。
その言葉を聞いて、私はぐっと拳を握りしめた。
「マナやスペルが加われば、相当な威力になるだろう。だが——」
ターナーの目が細まる。
「マナを扱えぬ者を、我が国の戦力と認めるわけにはいかない」
やはり。
この世界においては、マナこそが力の源なのだろう。
ロイスの現実離れした身体能力もそれで説明がつく。
「そこでだ」
一拍置いて、ターナーが告げる。
「五日間、時間を与えよう。その間にマナを体得してみせよ。アカネ、できるか?」
その声には厳しさと同時に、期待の色も混じっていた。
——五日間。
マナが何なのかもわかっていない私にとって、あまりにも短い。
でも、やるしかない。
この世界で生きるなら、挑むしかない。
「できます!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
ターナーの表情が和らぐ。
「いい返事だ! では六日後に再びロイスと試合だ。そこで成果を見せてもらおう」
「決まりですね。……ま、アカネならやってくれるでしょう」
ロイスがニヤリと笑う。
……簡単に言ってくれる。
——ん? ちょっと待って?
この国の兵士になる流れになっているけど、そうなったらどうなるんだ?
「あの、すみません……質問なのですが……」
「なんだい?」
「その試験に合格したら、私はどうなるんでしょうか……?」
「そうなれば、まずはリトルファイヤー——ユニット候補生として、さまざまなスペルの修得に専念してもらうことになる」
「スペル!」
スペル——つまり魔法だ。
思わず前のめりになった。
マギレンジャーのように、魔法が使えるようになる?
テンションが一気に跳ね上がる。
「そうだ。他にも剣術、馬術など、戦うためのすべてを学んでもらう」
「戦う……」
その言葉に、森での戦闘が蘇る。
短剣を手に突如襲いかかってきた仮面の男たち、彼らが放った氷槍。
明らかに殺意のあった行動だ。
「戦う、というのは……敵国の兵士と、ということでしょうか?」
「先ほども言ったが……我が国はグラシエルと長年の交戦状態にある。前線に立てばそういったこともあるだろう。……怖いかい?」
怖くないと言ったら嘘になる。
画面の中でしか見たことのなかった命の奪い合いが、他人事ではなくなる。
「怖いのは当然だ。別に隠さなくていい」
返事ができずにいる私を見かねて、ロイスが口を挟んだ。
「リトルファイヤーのうちは今日みてえな危険な任務はねえ。せいぜい格下の魔獣退治くらいだ」
「ま、魔獣!? それって、モンスターってやつですか!?」
「まあそうだな」
この世界にはモンスターまでいるのか!
つまり——。
基礎を積み、実習で魔獣と戦う。
卒業すれば前線に、というステップアップか。
いよいよ異世界らしい展開になってきた。
「……わかりました! やってみせます!」
「うむ。では、六日後を楽しみにしているよ」
「はい!」
騎士団長のターナーに言われ、気持ちが奮い立った。
——ただ、問題はもうひとつ。
「えっと……もう一個だけ聞いてもいいですか……?」
「何でも聞いてくれ」
「実は……色々あって、その……お金がなくて……。泊まるところとかご飯とか……」
「そうか。リトルファイヤーになれば寮生活だが。それは困ったな」
ターナーがそう言いつつ、ロイスに視線を送った。
「えっ、俺ですか? ターナーさんの力で何かうまいことできないですか?」
「ロイス。連れてきたお前がどうにかすることだろう。なんでもかんでもターナー様に頼るな」
「あぁ?」
ロイスとエレンが睨み合う。
その様子を見たターナーは、やれやれまたか、と言わんばかりに呆れている。
「うち空いてるッスよ!」
ライノが勢いよく手を挙げた。
「いやいや、それはダメだろ、ライノ!」
ラギが間髪入れずに突っ込む。
「えー! なんでッスか! 妹たちもいるし大丈夫ッスよ!」
「ライノさん、ダメです」
カノンも遠慮なく言い放つ。
「じゃあ、どうするか……」
ロイスは腕を組み、わずかに眉間にしわを寄せた。
だがすぐに何かを思いついたように顔を上げ、カノンへ目を向けた。
「カノンのところはどうだ?」
その言葉に、カノンが目を瞬かせる。
「私の家、ですか?」
「ああ。カノンの家ならアカネも安心して過ごせるだろ。クララさんやブルーノさんもいるし。どうだ?」
「そう、ですね……」
カノンは少し考え込んでから、私の反応を窺うようにこちらを向いた。
「……アカネさんさえよければ、私の家へ来てください」
「いいんですか?」
「はい。両親には、帰ったら私から話します」
「ターナーさん、それでいいですかね?」
ロイスが横から確認する。
「カノンの家なら問題ないだろう。頼めるかい?」
「はい、わかりました」
こうして、私の居候先が決まった。
「カノンさん、ありがとうございます。お世話になります!」
カノンと一緒なら、安心できそうだ。
同性で年も近そうというだけでも、今の私にはかなりありがたい。
「カノン、助かる。アカネをよろしくな。それと、試験までのマナの訓練も任せていいか?」
「私でいいのでしょうか?」
「ああ。基礎を教えるなら、カノンが一番向いてる」
「わかりました。どこまでできるかはわかりませんが……やってみます」
「頼んだ。予定はこっちで調整しておく。ところで……アカネの扱いはどうしますかね?」
「そうだな。遠征中にリトルファイヤー候補生としてスカウトしてきた、ということでいいだろう」
「了解です。体術は優秀だけどマナはからっきし。訓練のためフォティアに滞在中——って感じにしますか」
「それで問題ない。エレン、あとのことは任せてもいいかい?」
「承知しました。カノン、明日ユニットベースに来てくれ。諸々の準備をしておく」
「エレンさん、ありがとうございます。よろしくお願いします」
話は止まることなく、次から次へとまとまっていく。
……まあ、なんとかなりそうでよかった。
「じゃあ、ターナーさん。今日の報告もあるんで移動しましょう」
「ああ、そうだね」
「そういうことで、カノン。あとは任せた」
「わかりました」
「アカネ、今日はしっかり休んどけよ。明日から休む暇ねえからな」
「……はい!」
ロイスが軽々とリングから跳び下りる。
ターナーもロープをくぐり、そのあとに続いた。
「アカネ、期待しているよ」
去り際のターナーの言葉に胸が熱くなる。
二人の背中は大きかった。
エレンもそのあとをついていく。
「じゃ、オレたちも行くッス! アカネちゃん、まったねー!」
「アカネ、頑張れよ! 楽しみにしてるぜ、がっはっは!」
テンションの高いライノに、豪快に笑うラギ。
二人がいなくなると、途端に静かになった。
リングを下りて、カノンのところへ行く。
「カノンさん……改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私は深々と頭を下げた。




