表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/14

異質②

 『加護』——。


 異世界転生ものの王道なら、私は特別な加護を授かっていて——。


 「こ、これは伝承に記されし英雄の加護……! そうとも知らず失礼を……!」


 なんて展開になって、王様に「よく来た勇者よ!」なんて迎えられて——。

 捕虜から一転VIP待遇、王宮暮らし……なんてことになるはずだ。

 現実はそう甘くないだろうけど、つい期待してしまう自分がいる。


 誰も口を開くことなく、時間だけが過ぎていった。


 ほどなくして扉が勢いよく開かれ、静まり返っていた空気が一瞬で吹き飛んだ。


「おう! 戻ったぞー!」


 豪快な声とともに戻ってきたのはラギ。

 その背後には、二人の男が並んでいた。


 一人は四十代半ばほど。

 柔らかく揺れる金色の髪は、まるでライオンのたてがみを思わせる。

 体格はさほど大きくないが、その眼光だけで場を支配した。

 それでいて不思議な温かさがある。

 この人を支えたい、隣で戦いたい——そう思わせる力があった。


 もう一人は対照的だった。

 身長二メートル近くありそうな男。

 短く切り揃えられたグレーの髪に、ピンと伸びた背筋。

 表情にはほとんど揺らぎがなく、常に状況を見極めているような冷静さがあった。


 その男は、手に何やら抱えている。

 あれが加護の鏡だろうか。

 正八角形の鉄製の枠は冷たく重そうで、中央にある乳白色の玉は鈍く光っている。

 八つの角にはそれぞれ赤、青、緑など色とりどりの玉が嵌まっており、どこか神秘的な輝きを宿していた。


「エレンも一緒か」


 ロイスの声にわずかな棘が混じる。


「一緒だと何か問題でも?」


 エレンと呼ばれた男が加護の鏡を机の上に置く。


「……チッ」

「ふん……」


 エレンはそれ以上何も言わず、扉横の壁際へと下がっていった。


「ターナーさん、来てもらってすみませんね」

「構わないよ。ラギッドから大まかな話は聞いている」

「なら話は早いですね。こいつがそうなんですが……」

「ふむ。まずは状況を整理しようか」


 ロイスが事の成り行きを説明する。

 ひととおり聞き終えると、ターナーは短く息を吐いた。


「つまり、身元不明の少女が、マナを使わずにグラシエル兵を制圧した、と」


 数秒の間、ターナーの指先が軽く机を叩く。


「ロイス、お前はこの娘を戦力にしたいと考えているんだな?」


 ロイスは迷いなく頷く。


「さすがターナーさん。お見通しだ。あれは才能というより——」


 一度言葉を切る。


「——戦闘の構造そのものが違う」

「なるほどな……」


 ターナーは顎に手を当てたまま動かなかった。

 沈黙と一緒に、場の空気が重くなる。


「——常識外だな」


 エレンが低く呟いた。

 振り向くとエレンの射るような視線がぶつかり、反射的に身構える。


 机上に置かれた加護の鏡。

 ターナーはそれを前に静かに口を開いた。


「アカネ、といったね。フォティア王国騎士団長のターナーだ。まずは突然の拘束と尋問、すまなかった。我が国は隣国グラシエルと十年近く交戦状態にある。軍として、身元不明の者を放っておくわけにはいかなくてな。加護の確認に協力してほしい」


 やはりただ者じゃない。雰囲気や言葉の端々から、その権威が伝わってくる。


「はい、もちろんです! それで何かわかるのであれば……」

「ありがとう。これは『加護の鏡』。対象に宿る加護を可視化する道具だ」


 転生者の特権——特別な加護が本当にあるのかも、という期待が膨らむ。

 だが一方で、敵国であるグラシエルの加護が顕現してしまったら……。


 大きく息を吸って気持ちを落ち着かせる。

 張り詰めた空気を破るように、ラギが手を叩いた。


「よし! まず俺がやってやるよ! なぁに、怖いもんじゃねえって証明してやる!」

「ちょっとラギさん! オレもやりたいッス! 実はこれやったことないんスよー」


 ライノがラギの返事を聞くより先に、加護の鏡の前に進み出た。


「これ、どうやって使うんスか?」

「中央の玉に手を置けばよい」


 ターナーがやれやれといった様子で答えた。


「了解ッス!」


 言われたとおりライノが加護の鏡の中央に手を置くと、中央の乳白色の玉が淡く光り始めた。


 そして、八つの角のうちの二つ、赤と緑の玉が同時に輝き出した。


 特に赤い光は強烈で、燃え立つ炎のように壁や天井を赤く染め上げた。

 緑色の光はその周りを静かに揺らめき、二つの輝きは幻想的な紋様を描きながら消えていった。


 その美しさに、私は思わず息を呑んだ。


 すごい……!

 こんなファンタジーな光景、プロレスの入場演出でも見たことない!


「おぉー、すっげー! めっちゃキレイッスね! 今のがオレの加護かぁ……!」

「おいおいライノ、やるじゃねえか! やっぱ赤はいいよなぁ、赤は! 燃えてくるぜ!」


 ライノは目を輝かせ、ラギは豪快に声を上げている。

 一方でロイスは眉をひそめた。


「ったく、いちいち騒ぐな」

「だってあんなド派手に光るなんて思ってなかったッスよ! オレってやっぱり情熱の男ッスね!」

「情熱で脳みそまで燃えてんだろ」

「ちょっ、ロイスさん、ひどいッスー!」


 ロイスの軽口に、ライノがおおげさに反応した。


 とりあえず、やり方はわかった。

 マナ無しで敵を倒した私。

 だから私にもきっとあるはず。

 何か特別な加護が……!

 隠された力、英雄の加護、そういうチートが……!


「ではアカネ。手をここに」


 いよいよ自分の番だ。

 鼓動が高鳴る。

 いつの間にか不安より、高揚感が勝っていた。


「は、はい!」


 拘束されたままの両手を加護の鏡の中央に置いた。

 先ほどライノがやってみせたのと同じように、中央の玉が淡く光り始める。


 来る……!

 きっと、凄いのが……!

 全部の玉が一斉に輝くとか、鏡が割れるとか……そういう展開……!


 ——しかし。


 玉はひとつも光らなかった。

 部屋が静まり返る。


「あ、あれ……おかしいな? も、もう一回!」


 首をひねり、慌ててもう一度、鏡に手を置く。

 だがやはり、何も反応がない。


「もしかして電池切れちゃったとか? すみません、ちょっと見てもらえますか!」


 口にした直後、自分でも何を言っているんだろうと思った。

 恐る恐る周りを見る。

 みな一様に、目を丸くしてこちらを見ていた。


「加護が……無い……」


 しばしの沈黙の後、ターナーが信じられないといった様子で口を開いた。


「え……? それって、つまり……?」


 その問いに誰も答えることはなかった。


 誰も笑っていない。

 誰も冗談として流してくれない。


 その様子を見て、嫌な予感が頭をよぎる。


 私には特別な加護どころか、何も無い……ってこと?


 いやいや、そんなわけない。

 だって私は、マナ無しで敵を倒した。

 何かあるはずだ。

 何か、普通じゃない力が——。


 ……でも、この反応は違う。

 この世界では、加護が無いということ自体が、ありえないことなのだ。


 リングに上がることすら許されない——。

 そんな宣告を受けたようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ