傲慢なる優しさ
雷鳴が、耳の奥で木霊している。
血管を血が通う度、呼吸をするたびに肌を裂くような激痛が全身に走る。当然だ。限界を超えた強化を施している。
胸を叩く。感じるのは、ログマと開発した治癒魔法。これがなければこの法力による強化で身体が千切れていただろう。
隣を見れば、魔法を連射しているリモルさんの姿。
僕を見ると、鼻を鳴らして魔法の制御に意識を戻した。
——源流能力、【倶舎慾】。魔力を貯蓄することのみに特化した、リモルさんの強さの源流。
透明な管から際限なく魔力が注がれ、総身にかつてないほどの魔力が漲る。
リソースは気にするな。好きに暴れろってか。
「すう――」
手札を整理する。
魔力を貯蔵した符は尽きた。だが、魔力問題は解決済み。
リモルさんの源流能力からの魔力の無尽の供給。
法力を仮想の法則とした、けた外れの強化。――蒼輝魔法、<蒼輝強化>とでも名付けよう。
愛刀である『亡星』。
<紅蓮砲殲火>をはじめとする火炎魔法は使えない。海の上をわざわざリモルさんが凍らせて渡れるようにしてくれている意味がなくなる。
今使える手段としてはこんなところか。
肺を法力の稲妻が灼き、<生命賛歌>で治療される。
……っと、制御をミスれば死ぬな。まあ、仮想法則といえばかっこいいけど、法力を無理やり定義して、エネルギー源にしてるだけ。
法力の安定性が下がれば一発でドカンだ。
魔物の群れが海の奥から押し寄せていた。
再度、後ろを《蒼眼》で視る。
皆、凛々しい表情をしている。戦士の目ってやつだろうか。
人間性は信じるには不足も不足だが、それでもその目は信じる価値がある。
大きく息を吸う。
肺が膨張し、大量の空気を吸い上げ、体内に回し。
「続けェェエ!!!」
海の全域に聞こえるくらいの声量を吐き出し、氷に足をかけた。
※※※
氷の大地を踏みしめる。
氷の層は相当に厚い。魔力ではなく、その余波で凍ったものだから、海水による退魔の影響は薄いのか。
雷光を全身に纏わせ、魔物との距離を一息で詰める。
ウツボの魔物。口が開き、首元まで四つに裂けた。加速した僕を正確に捉え、丸のみにしようという魂胆。
視れば、ログマの指先がこちらに向いていた。
そうか。彼の高度な思考すら奪われているのか。
一歩を越える。
僕に食らいつく、その一点。無防備な捕食を躱すことなく、加速し。
両断。
『亡星』を振るい、唐竹に目の前の魔物へ一刀を振るった。
氷の大地を一気に跳躍。地面すれすれを飛ぶように駆ける。
少し大きなタコも、剣先を持つイカも、毒を吐きかけるウミヘビも、すべて無視する。
触れた瞬間に青い稲妻によって灼き焦がされ、続く加速の衝撃で魔物どもが砕け散る。
遅れて、後方からは鬨の声。
僕が続け、と叫んでからの加速についてこれなかった武士たちが、一斉に魔物へと飛び掛かった。
「者ども、行くぞ!」
「「「応!」」」
槍を、刀を、弓を構えた武士たちが迫りくる魔物の群れへと反撃する。
水陰村の村民たちも鍬や銛を構え、武士に負けない速度で魔物を狩っていた。
……いや、すごいな漁師。だてに海の魔物を相手に漁業をしていないってことか。
武士たちの強弓が引き絞られ、僕の側背から迫る魔物の群れを吹き飛ばし、前へ進めるように援護をくれた。
すぐに次の矢玉を構えなおし、武士たちではなく僕の後ろや横から殺到する魔物の群れの頭蓋や急所を射抜いていく。
しかし、武士たちめがけて魔物が迫る。
「どいてな」
そこへ、コレトーさんが割り込む。両手には拳大の鉄の筒――。拳銃と呼んでいたそれを持っていた。
格闘のような動きでコレトーさんが割り込むと、魔物の腹に銃口を向ける。
「死にな」
乾いた破裂音。音を凌駕した弾が爆裂の圧力で押し出される。流線形の鉛玉が魔物の身体を粉砕し、血漿をまき散らした。
さらに迫る魔物の群れ。
コレトーさんは身を翻し、銃をやたらスタイリッシュな動きで次弾を装填。射線を敵の急所へ滑り込ませ、発砲。
「ローレッタやヴィータの猿真似だがなァ!」
コレトーさんが楽しそうに笑い、そこらの魔物を相手に無双していた。
……やるじゃん。悔しいけど、すごく頼りになる。
蹴りで数匹の魔物をまとめて爆ぜ殺し、再度踏み込む。
壁のような魔物の群れへ、迷うことなく正面から突っ込む。
鮫の骨に乗った人面ヒトデを『亡星』にて両断。跳躍し、大口を開けた海坊主の顔面を蹴りぬく。浮遊する怨念の錆び刃の背を握り、潰す。加速し、数十体の魔物を轢き潰す。
とぐろを巻き、大口を開けながら迫る鮫蛇めがけて『亡星』を投げつけ、両断。魔力を噴射するように再加速、投擲した刀に追いつき、片手で握る。
電気を発するウナギには法力の稲妻を飛ばして灼き殺し、足元から浮き出てきたイソギンチャクを足場に空へ跳ぶ。
「ほほ。精が出るな」
そこへ、雹砲が着弾する。
海が、魔物の群れ数百匹がまとめて凍てつく。瞬間、一帯が氷結する。
異形の海の怪物たちが動きを止めたと同時に、新たな魔法陣からほの白い光線が放たれた。
光線が、瞬時に海を凍り付かせた。魔物の群れを凍死させ、砕け散らせる。
一本の白線が、大将であるログマのもとへまっすぐに伸びている。
――いまだ。
リモルさんから供給される膨大な魔力を腰から放出。
強烈な圧が全身にかかるも、歯を食いしばって耐える。加速の圧すら足場とし、重力を味方につけ、超加速を決める。
「ほお」
リモルさんの感嘆に近い心音がパスを通じて聞こえてきた。
期待のような感情を背に負い、海の白線の上を駆け抜ける。
両側面から魔物が来る側から凍結していく。
少年から放たれる雹結の魔力砲撃が乱れ撃たれ、凍った海面から白雪の結晶が舞い上がる。
さらに、再加速。帰路を考えない威力の踏み込み、海面すれすれを飛翔するように駆け抜け。
「よ、待たせたね」
敵の司令部。ついには、その中枢へとたどり着く。
刀を鞘へ納める。両手に魔力を巡らせ、両腕から青い稲妻を抜く。
うっかり、ログマを殺してしまわないように。
「――ログマ」
血のように赤く濁った瞳。
変わり果てた姿の友に、僕は声をかけた。
※※※
「TSUNAAA……!」
先に仕掛けてきたのはログマ。
我を忘れたような勢いで拳を振りかざし、吶喊してくる。
「甘い、よッ!」
鋭い針のような打撃。ログマの手首に掌底を叩きこんで逸らし、がら空きの下段から這うような軌道の拳で胴体を打ち抜く。
「ツ……ッ」
マグロの鳩尾――。正確には、臓器と血管の隙間へ拳をめり込ませる。
「起きろ、ログマ」
そこへ、治癒魔法を流し込む。
<回帰原理>でもない。ログマが使っていた治癒魔法でもない。
僕とログマで開発した魔法。瘴気すら払うであろう、考えうる限り最高効率の治癒を誇る、僕らの友情。
「<生命賛歌>」
<生命賛歌>。
ふたりで考えた候補の中から僕が選んだ名を持つ魔法。
そこに、いつしかログマが僕に使った精神同調の術式を重ねた。
それをログマの魔力経絡を伝って、霊魂へ流し込んだ。
※※※
濁り切った、ログマの深層意識。
深海のように暗く、赤潮のように赤く生臭い。
そこに、ログマの意思は揺蕩っていた。
瘴気のような赤潮をかき分けながら、僕の放った<生命賛歌>の淡い光が彼の意識の底を照らす。
「………………」
ログマの瞼が震える。
魂を震わせ、ログマが起きた。
『ログマ!!』
その意識の底へ、僕は手を伸ばす。
ログマの目が小さくうるんだ。しかし、ログマは応えない。眩しいものを見たときのように目を逸らした。
『否定。エディン。そこへはいけません』
『どうか、あきらめてください』
その一言と共に、生臭い赤潮――イルゲルムの瘴気のようなものが僕の視界を包み込んだ。
僕の意識は弾かれるように深層意識の外へはじき出され、意識が僕の身体へ戻る。
視界が、果てなき魔物の巣窟たる海上へ戻る。
「ツナァァァアア!」
ログマが吠え猛る。
狂乱したように、まるで魔物のように襲いかかってきた。ログマは瘴気を身に纏わせ、鋭い牙を僕に突き立ててきた。
そのままの流れで身体を捻り、肩の肉を食いちぎらせる。
「ははあ――」
鮮血がまき散らされる。
周囲の魔物が一斉にこちらを向いた。おそらく、僕の血に狂ったのだろう。その目は真紅に濁り、陶酔したような笑みを浮かべていた。
「なるほど」
あくまでも、起きる気はないと。
僕の話を聞く気が、ログマはないというんだね。
なるほど、なるほど。そうか。なら、話は早いね。
「なら、徹底的にボコボコにしてから話を聞かせてやろうか」
拳を掌に当て、指を鳴らす。
海面に映った僕の口元には、少し物騒な形の弧が浮かんでいた。
※※※
<蒼輝強化>を解除する。
純粋な強化のみ。我流ながら拳を構え、ログマと対峙する。
潮風が肌を撫で、大きく息を吸っては吐き出す。
瞬間、ログマの身体が跳ねる。
拳が突き出される。重い一撃。ログマの魔力じゃなく、イルゲルムの瘴気も乗っているのか……!
ログマの打効を受け流し、彼の顔面へと拳を叩きつける。
ログマの動きに濁りが生まれた。
<蒼輝強化>がなきゃ受けきれない。だけど、<生命賛歌>と精神同調を拳に重ね掛けしているのが現状。
高度な制御を必要とする<蒼輝強化>で手加減しながらやり合うのは無理だ。
(一気に畳みかける――!)
息を吸い込む。
潤沢な魔力に身を任せ、魔法陣を拳に浮かべる。
想起するのはログマのもとの精神。元の霊魂。肉体情報。僕はそれを、正確に記憶している。
ログマの打撃を受け流し、彼の顔面に左拳を入れる。それをログマは魔物になって鋭敏になった本能で回避。身を屈め、バネのように突進。
「ぐふ……っ」
一瞬、僕の身体が浮いた。
胃が、肺が圧迫される。息が、できない。視界が明滅し、拳に纏わせていた術式が霧散する。
今使っている<生命賛歌>は元の術式より冗長性がなく、脆い。
改造を加えた結果だ。霊魂情報をもとに自動再生する仕組みではない。元あったログマの魂や肉体情報を脳内で演算し、それを元にマニュアルで術式を組みなおしている。
つまり、繊細な操作を必要とするもの。
「おうるぁっ!」
だからって、気を緩める理由にはならない。
鳩尾へ再度、縦拳を叩きこむ。<生命賛歌>を追加で使用し、ログマの身体を癒しながら精神へ接続する。
『起きろ、ログマ。もどってこい』
再び、あの赤潮を蹴散らして手を差し伸べる。
『否定。……今更、戻れません』
明確な否定と打撃が飛んでくる。
もろに顔面に食らった。額が割れ、派手に血が飛び散る。
頭がくらくらする中、ログマの声が頭に響く。
『今はまだ、意識の核である心核には侵食されていません。
ですが、身体の制御は戻せない……っ、戻せないんです、エディン』
揺らいだ僕の身体に、ログマの拳が突き刺さる。
腹へまともに入った。喉元まで、胃の内容物が上がってくる感覚が胸を焼いた。
『これ以上、エディンを。皆さんを傷つけたくない。どうか、ワタシを――』
『うるさい』
魔法を籠めない打撃を、ログマの顔面に差し込む。
拳打がログマの顎先をかすめ、彼の脳が揺れるのを感じた。
言わせない。それ以上先を、言わせてはならない。
『僕も今、君に一発殴り返した。これでフェアだね』
上がってきた内容物を吐き捨て、蹴りをログマの腹へ叩きこむ。
『否定! フェアなどではありません』
鼻にログマの拳が刺さる。
熱いものが鼻から噴出し、口の中を鉄の味で染めた。
『ワタシは、エディンを。……殺そうとしました。イルゲルムと戦っている最中に、アナタの脇腹をえぐった』
右頬に鋭い打撃。
口の中が擦られ、頬の内側から血が出る。
好機と見たのか、ログマが本能のままに一歩迫る。
『もう、ワタシにアナタの仲間を名乗る資格なんて――』
『だったらどうしたァ!』
そこへ、頭突きを見舞う。
ログマの口から血が出て、僕の顔に返り血が付く。
『それならイルクは僕を鍛錬で一度、ぶっ殺しかけてるぜ! リリアだってそうさ! 真剣での試合で、何度死ぬかと思ったか!』
『ですが、それはエディンを――』
『やっかましい!』
顔を掴み、逃げられないようにして拳を振りかぶって殴りつける。
『結果的に僕の傷は治った! ログマ、君の傷もだ! 仲間の攻撃程度で死ぬ僕じゃないぞ! 君の友は! エディン・イラ・リステリアは! そんな軟弱だったか!?』
ログマの身体が、大きく震えた。
その間隙を見逃さず、頬を打ち抜く。
『そもそも、君は加害者を装っているけどね! 君が頑張って制御を取り戻そうとしてることくらいわかるんだ!
視ればわかるんだ!』
そうだ。
ログマは今も、戦っている。それでも彼が届いていない。仲間が努力して、頑張っている。
なのに、彼が信じる僕がそれをあきらめちゃいけないだろう。
瞬間、ログマが指を傾けた。
背後から迫る二匹のランニングマグロ。一匹が放射した水圧の槍を躱すも、後ろから迫るもう一匹に対処ができず、羽交い絞めにされた。
そこへログマが助走をつけ、拳をねじ込む。
『……懇願。仲間を、ワタシの身体を止められないのです。さっきから頑張っても、エディンを傷つけることを、やめられないのです』
連打が僕の顔を打ち据える。
右頬、左頬。鼻柱、こめかみ、腹、肩。殴るのに適している場所を、ログマは殴り続けている。
息を吸う間もない、連続攻撃。血が、打撲が、内出血が全身に斑点のように傷をつけていく。
ログマの目が、ほんの少しだけ悲痛に歪んだ。
瞬間。
「――<蒼輝強化>」
青い閃光が、魂から身体に落雷する。
激烈な強化が全身を駆け巡り、羽交い絞めにしていたランニングマグロを強制的に振りほどく。
振りほどいた隙を見逃さず、<蒼輝強化>を解いた蹴りを後ろのランニングマグロに入れ、意識を刈り取る。
同時に<生命賛歌>を流し込み、傷の一切を残さない。
前傾姿勢、距離を詰める。ログマの肩に打撃を徹し、<生命賛歌>を流し込む。
少しずつ、ログマに残った赤潮が——。魔族の血が抜けていく。
だが、それでもまだ足りない。ログマの対抗が邪魔している。
後方から銃声と鬨の声が近づいてきている。
『かまわない』
口に残る血の塊を吐き出し、笑みを深める。
『安心して、みんなを僕へ仕向けろ。
僕が全員返り討ちにして、まとめて救ってやる。
ログマ、君もね』
ログマの深層意識の海に、大きな波が起きた。
彼の瞳をのぞき込み、さらに拳打を入れ続ける。
『救われたいんだろ!? 人に戻りたいんだろう!? なら、そう言えよ!』
思い切り殴り、殴り返される。
血まみれになりながら僕は笑い、ログマの鳩尾へまっすぐ拳を叩きこむ。
「諦めろ? あきらめるわけないだろ! 僕が、一人のつらさを、君の善さを知るこの僕が!」
さらに、拳を振りかぶり。
「友人を救うのを、あきらめたりなんてしない!」
ログマの海が、大きく揺らいだ。
赤潮を押しのけ、ログマの意識が表層に出る。
「……ひ、てい」
ログマの口が、言葉を。統一言語を紡いだ。
「ワタシの……ような、異形が……人に受け入れられるはずがない……。受け入れてくれるのは、エディンだけ――」
「――そうでもねえさ!」
少女の声が海に響く。
いつの間にか近くまで前線を押し上げていたコレトーさんが武士を引き連れ、僕の後ろに立っていた。
その腕は、少し鉄のような色になっていた。
関節が、球体の者になる。うぃん、と機械の動くような音が響き、人体では不可能な方向へ腕が曲がった。
「俺はコレトー! <叡智の学堂>が祭主にして、この身はすでに人にあらず!」
神経が、霊子を固めて作られた人造の神経が露出する。
「ククリというオートマタと魂を共にする、お前の言う異形が!
聖教国の【叡神派】って人類組織の、トップにいるんだぞ!」
ログマの目が丸くなる。
体がこわばり、ログマの防御が弱くなった。
「そうだよ! 僕は、それを知っていた! ふたりの秘密を、最初から知っていた! そのうえで、一緒にいることを選んだ!」
ログマの、魔物としての習性の拳を受ける。
先ほどと比べて、その威力はひどく弱弱しい。拳は震えて、および腰になっている。
後ろで、まだ剣戟音が続いている。
全員、決死の形相だった。必死に、何かのために戦っている。
「きっと、ログマには酷だと思う! この人たちは、最低な行いをした! でも、見て!」
ログマの拳を躱し、首を固定して目を僕の後ろへ。
人の戦っているところを、見せる。
「みんな! 君を救うために、君に謝るためにきている!
許せなんて言わないさ! 許さなくてもいい。でも、ログマを排斥した人たちでも、もう一度受け入れようとしている!
なにより!」
ログマの揺らいだところへ、魔力を放出しながら突っ込む。
「僕が、ログマと一緒にいたい! だから!」
拳を腰だめに構える。
狙いは顎。打ち上げるような殴打! 見え見えの狙いをログマはとっさに腕を交叉して防ごうとした。
だけど、それはボロボロの防御で。
戸惑いと、守りの緩んだ拳で。
「あきらめて、僕に救われろ!!」
アッパーが、完全に通った。
彼は倒れ伏した。真紅に濁った彼の瞳が、薄く透き通った赤色に戻った。
ログマの体内に巣食うイルゲルムの血。変質箇所のすべてを<生命賛歌>の魔法でかき消していったのだ。
「――完敗」
倒れ伏したまま、ログマは大粒の透き通るものを、ぐずりながら流す。
「完敗ですよ、エディン。あなたの傲慢さ、わがままそして優しさ」
――ワタシが最初から、敵う相手ではありませんでした。
ログマは、泣いていた。でも、どこかで笑っていた。
僕は笑いながら、彼に手を差し伸べる。
「でしょ」
僕はニッと笑い、
「僕は、君の友達なんだから」
そう言ってログマの手を取る。
彼の少し湿った手が、僕の手を握り返した。
今度は、しっかりと握ることができた。




