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第57話 継続スナイプと、理の集大成

 アストライアの兵装修復の工房。


 毒結晶に覆われた岩肌の空洞に、似つかわしくない金属ケーブルと、生々しい培養液の匂いが混在するその異様な空間で、死闘の幕が再び上がった。


「ギガァァァァッ!!」


 工房の中央、複雑な魔法陣の上に陣取るヒュドラの『二本の頭脳首』が、高度な魔法詠唱を完了させる。


 展開された魔法陣から射出されたのは、無数の巨大な岩の弾丸――『ストーンバレット』と、それをレールガンのように加速させる強烈な『風魔法』の複合攻撃だった。


「結界展開! キューブ、最大出力で防壁を構築!!」


 彩斗美の鋭い声が響く。


 即座に彼女の周囲に浮遊していた魔導キューブが、青白い光の防護壁を前方に何重にも展開する。


 ズガガガガガンッ!!!


 超音速で飛来する岩の弾幕が結界に激突し、凄まじい衝撃波と粉塵を巻き起こした。


 分厚い光の壁がミシミシと悲鳴を上げ、亀裂が走る。


「くっ……なんて理不尽な火力と手数なの……!」


 彩斗美は歯を食いしばりながら、自身の魔力を限界まで注ぎ込んで結界の崩壊を防ぐ。


 さらに厄介なことに、二本の頭脳首を守るように、残った五本の『自律首』が全方位から猛毒のブレスと巨大な質量による噛みつきで襲いかかってきた。


 知的な魔法弾幕による面制圧と、本能的な物理攻撃による波状攻撃。


 それは、アストライアの軍事システムによって統括された、隙のない完璧な防衛の陣形だった。


 だが、よろず屋パーティーもただ防戦に回るつもりはなかった。


「ふゆ! 自律首の軌道予測と、魔法のタイミングをナビゲートして! 魔法の射線は私が限定させるわ! 狙えるタイミングで口腔に毒弾発射!!」


「はいッ! 右から来る二本、三秒後に噛みつき! 左の三本は毒ブレスの構え! お姉ちゃん、右の首からいって! 撃ち込むよ!!」


 インカムから飛ぶ、ふゆの完璧なナビゲート。


「了解ッ!」


 結羽は『点』と『面』の歩法を瞬時に切り替え、彩斗美が限定させた射線を縫うようにして、飛来するストーンバレットの雨を如意棍棒で弾き落としながら、滑るように敵の懐へと肉薄していく。


「シィィィィッ!」


 鋭い呼気と共に、結羽は牛刀をジョイントした如意棍棒に仙気を流し込む。


 右から迫る自律首の動きは、ふゆの予測通りだった。


 結羽は極限まで身を沈めて巨大な顎を躱すと、ふゆの毒弾が着弾する。


 毒弾の効果を確認することすらなく、妹の腕を信じ、首の関節の隙間、魔法金属の装甲が薄くなっている部分めがけて、仙気を帯びて赤熱する刃を振り抜いた。


 ズパァァァンッ!


 鮮やかな一閃が、一本の自律首を根元から完全に切り飛ばす。


「お姉ちゃん、次! 左から来るよ!」


「任せて!」


 結羽の流れるような剣舞とインファイト。


 それを支える彩斗美の的確な結界支援。


 そして、安全な後方から戦況を完全に俯瞰し、猛毒のブレスや噛みつきのタイミングを見逃さず、口内をスナイプし、次の一手を指示するふゆ。


 三人の息の合った連携が、本能で暴れ回る五本の自律首を次々と切り落としていく。


 だが、ヒュドラもただやられているわけではない。


 切り落とされた首の断面からは、ドス黒い猛毒の血が噴き出し、床に展開された工房の魔法陣が青白い光を放って、再び首を修復しようと魔力のパスを繋ぎ始めたのだ。



 ◆◆◆



「やっぱり、この工房の魔法陣で修復しようとしてる……! でも、させないよ!」


 最後尾で『魔導シリンジガン・改』を構えるふゆの瞳には、『魔力視』によってヒュドラの体内の魔力循環と、魔法陣からのエネルギーの流れがはっきりと見えていた。


 ふゆの狙いは、最初から「首を落とすこと」だけではなかった。


「お姉ちゃんが落とした首の『断面』……そこが、今のあいつの一番の弱点!」


 ふゆはシリンジガンに、赤黒く変色した『極大腐食弾』を次々と装填していく。


 ガシャン、という重厚な装填音。


 ふゆはスコープを覗き込み、結羽が切り飛ばしたばかりの自律首の断面――生々しい肉と金属フレームが剥き出しになった傷口めがけて、迷いなく引き金を引いた。


 シュガァァァンッ!


 放たれた腐食弾が、無防備な切断面に寸分の狂いもなく着弾する。


「ギガァァァァァァァッ!?」


 ヒュドラの頭脳首が、激痛に狂乱の声を上げた。


 魔法陣からの修復エネルギーが傷口に到達するよりも早く、腐食弾の猛毒が細胞と金属を内側からボロボロに崩壊させ、魔力のパスを完全に阻害していく。


 だが、ふゆの攻撃は一発では終わらない。


「まだだよ! もっと、もっと深く!」


 ふゆは冷静に、そして冷徹に、切り落とされたすべての首の断面に向かって、継続して腐食弾の精密スナイプを撃ち込み続けた。


 それは、毒の専門家である彼女だからこそ思いつく、えげつないまでの超戦術だった。


 切断面から侵入した強烈な腐食毒は、ヒュドラの血流に乗り、確実に、そして深く体内へと侵蝕していく。


 ふゆの魔力視が、その毒の進行を克明に捉えていた。


(……よし! 毒が首の付け根を越えて、胴体の奥まで回ってる!)


 ヒュドラの巨大な心臓。


 そして、魔力を供給している中枢の魔石。


 ふゆの撃ち込み続けた毒は、ついにその『心臓部』にまで到達し、巨大な生体兵器の機能を内側から致命的に狂わせていた。


「いける! お姉ちゃん、彩斗美さん!」


 ふゆがインカム越しに、勝機を確信した進言を飛ばす。


「わたしの毒が中枢まで回って、あいつの装甲と魔法陣の出力がガタ落ちになってる! お姉ちゃんは胴体への攻撃を! 彩斗美さんは、魔法を撃ってる頭脳首の両断を!」


「了解!!」


 彩斗美が即座に応えた。


 彼女の瞳には、かつてのSSランクコマンダーとしての冷徹で気高い光が宿っている。


「これ以上、好きにはさせないわよ……!」


 彩斗美は結界キューブの出力を攻撃の踏み台に転用し、自らの手にある大剣へと全魔力を注ぎ込んだ。


 大剣の刀身が、眩いほどの闘気を纏って輝き出す。


「ふっ……!」


 彩斗美は地を蹴り、自ら前線へと飛び出した。


 二本の頭脳首が迎撃のためにストーンバレットと風魔法を放とうとするが、中枢を毒に侵蝕されているため、その魔法陣の展開と詠唱は明らかに遅かった。


「遅いわ!」


 彩斗美の大剣が、空気を切り裂くような鋭い軌道を描き、二本の頭脳首の根元を完全に捉えた。


 そして、渾身の力を込めた一閃が、見事に頭脳首を深々と薙ぎ払い、その動きと魔法詠唱を完全に封じ込めた。



 ◆◆◆



 彩斗美が大剣で頭脳首を抑え込んだその一瞬の隙。


 結羽は、決してその好機を見逃さなかった。


『点』の歩法で大地を爆発的に蹴り、ヒュドラの弱体化した巨大な胴体(中枢)めがけて弾丸のように肉薄する。


 右手に握りしめた漆黒の如意棍棒を、限界まで大きく振りかぶる。


 その瞬間だった。


 極限の死闘の中、結羽の魂と仙気が、棍に刻まれた異世界(アストライア)の魔術回路と完全に共鳴を果たした。


 ドレイクから教えられたわけでもない。


 ただ、闘気を極限まで高めた彼女の口から、無意識のうちに、熱く、澄み切った『言霊』が紡ぎ出されたのだ。


「『我が意と身体は常に闘魂と共にあり、闘魂が燃え尽きるまで決して屈することはなし。……我が体は我が意のままに!!』」


 その詠唱と完全に呼応し、漆黒の棍に刻まれたアストライアの光華文字――【意體同闘魂】【燃尽決不屈】【我體随我意】が、まるで太陽のように眩い黄金の光を放って発光した。


 結羽の丹田から引き上げられた仙気が、輝く文字と魔術回路を信じられない速度で駆け巡る。


 増幅。


 さらに増幅。


 さらに、さらに増幅。


 限界を超えて増幅に増幅を重ねた仙気が、如意棍棒の先端で極大のエネルギーの爆発となって収束する。


 彼女の身体を包み込む黄金のオーラは、ステータスという枠を完全に破壊した、破壊のための理の極致に至った。


「届けぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 少女のすべてを乗せた、一点突破の超質量粉砕。


 黄金の流星と化した如意棍棒が、彩斗美の一閃に合わせて、ヒュドラの中枢コアめがけて容赦なく叩き込まれる――!!

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