表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/201

第195話 システム修理完了と、よろず屋の引き際(後編)

 新宿ダンジョン深層、かつての死闘の痕跡が生々しく残る、広大な円形広場。


「……本当に、魔素異常の波形が完全に正常値に戻っている。……終わったのね」


 氷室怜華は、過負荷によってノイズを吐き出していた戦術デバイスの画面が、一滴の警告データもない、清らかな緑色の安定シグナルへと書き換えられたのを見て、震える声で呟いた。


 防衛線を死守していた『白銀の軌跡』と『機巧の番犬』の面々は、ボロボロにひしゃげた防具を身に纏い、血と煤にまみれた顔で、ただ呆然とボス部屋の巨大な金属扉を見つめていた。


 数万の魔獣の波が沈静化し、地脈が嘘のように凪の状態へと移行している。


 ズゴゴゴゴゴォォォォ……ッ。


 扉が、ゆっくりとスライドして開いていく。


 堂島誠は傷だらけの大盾を地に置き、葛城我門も過熱した魔導砲の銃身を下げた。


 開かれた扉の向こうから現れたよろず屋パーティーの四人は、あれほどの深淵に挑んだはずだというのに、やはり傷一つ負っていない。


「お待たせしました、堂島マスター、葛城マスター、氷室さん!」


 結羽が、如意黒閃を担ぎ直して元気に手を振る。


「……よろず屋ドレイク。お前たちは、本当に底が知れないな。……地脈の魔素異常が、完全に正常値に固定されている。最下層の『お掃除』とやらは、完了したのだな?」


 堂島が、深く、感慨の入り混じった息を吐き出しながら問う。


「ああ。地脈を狂わせてた大元は綺麗にスクラップにして、システムの調整も済ませた。もうここがパンクする心配はねえよ」


 ドレイクがニヤリと不敵に笑う。


 葛城は、手元の測定器の完璧な安定数値を凝視しながら、信じられないというように彩斗美に向き直った。


「本当に、魔素の暴走が完全に沈静化している。……だが、佐修院さん」


 葛城は、メガネ型のゴーグルをギラリと光らせ、彩斗美へと向き直った。


「先ほどの合意通り、この新宿ダンジョンの正式な『マスター登録』の権利や、そこから得られる開発利権、通常魔石やドロップ品は、すべて我々二つのギルドで山分けにして良いのですね?」


「ええ、その約束通りよ、葛城。そんな面倒な管理権や利権は、私たちには邪魔なお荷物でしかないわ。……ただし、約束通り、最下層の淀みの中心にあった『今回の異常を引き起こした元凶の異物』だけは、私たちが回収・処理させてもらったわ。……および、もう一つ約束していた『お土産』よ」


 彩斗美が、隣に立つふゆを優しく促した。


「葛城マスター! これ、マッパーの怜華さんにデータお渡ししちゃっていいですか?」


 ふゆが、スマートフォンを操作しながら無邪気に尋ねる。


 『機巧の番犬』のサブリーダーでありマッパーでもある氷室怜華が、位相崩壊からよろず屋と歩んだ、未踏破領域の完璧なマッピングデータ。


 それだけでも黄金以上の価値があるというのに、ふゆはそれを当たり前のことのように「最下層までのマッピングデータ」を無償で渡そうとしていた。


「あ、ああ……。君たちが本当にそれで良いのなら、よろしく頼む」


 葛城が、そのあまりの物欲のなさに目を丸くしながらも、傍らに立つ氷室に指示を出す。


「氷室。マッピングデータは、我々探索者の命そのものだ。それはお前自身が一番よく分かっているはずだ。……ふゆ君の、よろず屋の魂を預かるのだと思って、しっかりと受け取りなさい」


「はい、葛城マスター。……ふゆちゃん、本当に、ありがとう……!」


 氷室は、震える手で自身の戦術デバイスを操作し、ふゆから送信されてくる。一欠片のノイズもない極上のマッピングデータを受信した。


「怜華さん、今回のマッピング、とっても綺麗に取れたんです! 魔力ソナーでロケーション確認もしたから抜けはないと思います!」


 よろず屋パーティーの圧倒的な強さと、あまりにも高潔なその心意気に、彼女は心の底から深く心酔していた。


 すると、ドレイクがタバコの煙を細く吐き出しながら、ケラケラと笑った。


「まぁ、管理だの利権だのを、俺たち『よろず屋』が持ってたって、タバコ代の足しにもならねえからな。なぁ、結羽?」


「はいッ! わたしたちは、最下層で欲しかったものはしっかりもらえましたので! あとの細かい色々は、堂島マスターたちにお願いできればと思います!」


 結羽が、満面の笑顔で親指を立てる。


 それを見た堂島は、傷だらけの大盾を地に置き、心底、感服したように首を横に振った。


「……それにしても、これほど巨大な新宿の利権をあっさりと手放すほどの拾得物か。……一体、最下層で何を手に入れたんだ?」


「そう遠くないうちに、あなたたちを招いて席を設けるわ」


 彩斗美は、背中の大剣を軽く叩きながら、含みを持たせた不敵な笑みを浮かべた。


「私たちが回収したものは、とても私たちだけでは手に余るものだから。……堂島、葛城。あなたたちトップギルドにとっても、そしてこの世界のダンジョン探索の常識にとっても、今日という日を起点に、歴史が大きく変わるかもしれないわよ」


「なんと……。それほど、凄まじいものなのか……」


「ええ。だから、招かれる日を心待ちにしていることね。……さあ、上の連中を待たせすぎてもいけないわ。還りましょう!」


 彩斗美の凛とした号令に、堂島も、葛城も、深く頷いて前を見据えた。


「ああ。新宿ダンジョンのスタンピードは完全に鎮圧され、魔力波形は完全に安定した! 魔素の危険レベルは深層領域まで『条件付き共生』レベルに落ち着いた! オールグリーンだ!」


「総員、我々の誇り高き『防衛線』の成功を地上へ示し、凱旋しよう!!」


 葛城、堂島の力強い勝利宣言が、広場に響き渡る。


 よろず屋パーティーの四人は、傷ついたSランクギルドの精鋭たちとともに、世界の危機を完璧に『修理』した英雄として、光の差し込む地上へのゲートへ向けて、威風堂々と歩みを進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ