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第160話 前線基地の混沌と、特例Dランクの提示(後編)

 堂島は、息を呑んで立ち上がった。


「そのバトルスーツ姿を現場で見ると、改めて感慨深いものがあるな……彩斗美君、おかえり」


 かつての戦友の完全復活と、最前線への帰還。


 堂島の厳つい顔に、心からの安堵と敬意の入り混じった笑みが浮かぶ。


「ただいま。それにしても、随分と部屋(ダンジョン)が散らかっているみたいね。お掃除の手伝いに来てあげたわよ」


 彩斗美は、かつてのSSランク・コマンダーとしての絶対的な威厳を放ちながら微笑んだ。


「彩斗美さん……会議に出席した氷室から聞いてはいたが、まさか本当に最前線へ復帰されるとは」


 葛城もまた、彼女の姿を認めて歩み寄る。


 だが、生粋の兵装マニアである葛城の視線は、彩斗美の帰還そのものよりも、彼女の背に帯びられた『大剣』や、周囲を浮遊する『阿羅漢』へと強烈に吸い寄せられていた。


「……その大剣、以前貴女が使用していたものとは、魔力回路の構造が根本的に異なりますね。地球上の技術とは思えないほど、異常なまでに最適化された魔力伝導率を誇っている」


 葛城はUIゴーグル越しに大剣の構造を解析しようと目を細め、さらに結羽の背負う『如意黒閃』にも視線を向ける。


「そちらの少女の棍棒もだ。ミスリルとオリハルコンの合金に、あのような異質な金属を充填して言霊を刻み込むなど……。まるで、素材の『理』そのものを完全に理解し、一切のロスなく魔力を通すための経路が焼き付けられているかのようだ。……一体、どこのスミスの技術かね。紹介して欲しいものだ」


 葛城の感嘆と探求心が混ざった問いかけに、彩斗美は困ったように、しかしどこか誇らしげに微笑んだ。


「気難しいスミスなのよ。……紹介には向かないわね」


 そう言って彩斗美がチラリと視線を向ける先では、当のスミスであるドレイクが、ジャージ姿で「俺は知らねえよ」とばかりに首をボキボキと鳴らしていた。


「……なんとも、規格外なパーティーのようだな」


 堂島が苦笑しながら、彩斗美の後ろに立つ結羽とふゆへと視線を向ける。


 その時、テントの入り口に立っていたダンジョン協会の男性職員が、慌てた様子でふゆの前に立ち塞がった。


「お、お待ちください! 佐修院様のご同行者とはいえ、未成年の子供をこの前線に入れるわけには……!」


 職員の真っ当な制止に、堂島も腕を組んで深く頷いた。


「佐修院君が連れてきたということは、無論ただの子供ではないのだろうが……。今回の事態は通常のダンジョンアタックとは危険度の次元が違う。その子の護衛にまで回せるリソースも、安全を担保できるかもまるでわからんぞ」


 堂島の言葉に、ふゆはニコリと笑って一歩前に出た。


 そして、自分の首から下げていたカードホルダーを、職員と堂島の目の前にスッと突き出した。


「心配ご無用だよ、堂島マスター! わたしは特例Dランク探索者の、前山田ふゆです! お姉ちゃんとおやっさん、彩斗美さんの、専属オペレーターだよ! ダンジョンアタックの経験もあります!」


 そこには、燦然と輝くダンジョン協会の正規ライセンスカードがあった。


 年齢制限の壁を特例で突破した、彼女が「規格外の天才」であることを証明する絶対のパスポート。


「特例Dランク……だと!? こんな幼い子供が……!?」


 堂島や氷室が絶句する中、ドレイクのポケットから飛び出した黄龍の宝珠本体から風雅な声の念話が響く。


『ふゆ殿の演算能力と『魔力視』のサポートがあれば、いかなる迷宮の深淵であろうと、私が完全にナビゲートを保証いたしましょう』


「AI……? いや、この魔力波長、インテリジェンス・アーティファクトか!?」


 兵装マニアの葛城が驚きに声を上げる。


「カッカッカ! そういうこった。俺のことはドレイクとでも呼んでくれや。まぁこいつらの姉妹の保護者ってとこだ。基本的にゃあ、ふゆは俺が担いで移動する。護衛もそれで十分だ。俺たちのパーティーに死角はねえ」


 ドレイクが、指先でパチンと火花を散らして新しいタバコに火をつけ、紫煙を燻らせながら獰猛に笑う。


「お前さんがた本隊が防衛線を維持してる間に、俺たちが最下層までブチ抜いて、元凶のバグを修理してきてやるよ」


 その圧倒的な強者の余裕に、S級探索者たちの間に漂っていた重苦しい絶望の空気が、少しずつ晴れていくのを感じた。


「S級の旦那方にばかりいい格好させられるかよ! 野郎ども、俺たちも意地を見せるぜ!」


 テントの奥から、全身包帯だらけの男が巨大なバトルアックスを担いで現れた。


 A級ギルド『赤銅の牙』のリーダー、剛田だ。


 かつて那須ダンジョンで洗脳波によって野心に狂い、よろず屋パーティーにその身と魂を救われた男が、今は泥臭く浅層の防衛線を死守するために立ち上がっていた。


「剛田さん! 『赤銅の牙』の皆さんも! 来てくれたんですね!」


 結羽が嬉しそうに手を振る。


「へへっ、特級のお嬢ちゃんたちには負けられねえからな! 浅層は俺たちが死んでも食い止める。だから……最深部、頼んだぜ!」


「はいッ!!」


 結羽が力強く頷き、背中の如意黒閃を握り直す。


「行くわよ、結羽さん、ふゆちゃん。おやっさん」


 彩斗美が阿羅漢のキューブを展開させ、コマンダーとしての鋭い視線を闇の奥へと向ける。


 日本最大の魔境の底へ。


 世界のバグを修理するため、新生よろず屋パーティーの最強のダイブが、今まさに始まろうとしていた。

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