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記録された力の輪郭

ルーファウスは武器屋の扉を押して外に出た。

鍛冶場特有の熱と金属の匂いが遠ざかり、街の雑踏が戻ってくる。


石畳の路地はまだ午前の日差しに照らされ、影が短く落ちていた。

商人や行き交う人々の声が、森の前のひとときの静けさを引き立てる。


街の中層区は、職人街と商店が入り混じる活気のある一角だ。

屋台の野菜や果物、革製品の匂いが混ざり、歩く足をゆっくりさせる。


ルーファウスは軽く息を整え、手にした短剣の感触を確かめた。

代わりの武器とはいえ、森での作業には十分だ。


先日の魔力草採集での危険を思い返し、慎重に足を運ぶ。

森へ入る前に、気配察知で周囲の物音や風向き、地面の様子を注意深く確認する。


路地を抜け、城塞都市ラドニアの外縁へ向かう。

道はやがて、森へ続く緩やかな丘へと変わっていく。

木々の匂いが混じり始め、街の喧騒は遠くなる。


風に乗って、森の湿った土と樹液の匂いが鼻をくすぐる。

ルーファウスは、これから始まる作業に向けて、自然と背筋を伸ばした。


午前の森は静かで、まだ日差しは柔らかく、木々の間を淡い光が揺らめく。

ルーファウスは腰に提げた革袋を軽く揺らしながら、アイテムボックスから

倒した森狼を出して横に膝をついた。


一頭目の狼は、体に樹影鬼の触手による裂傷が残っていた。

剣傷とは違う、浅くも不規則な傷が皮膚に走る。

毛皮はやや乱れているが、まだ十分に価値のある状態だ。

ルーファウスは手際よく刃を入れ、必要な部位を取り分けていく。


「牙は少しかけてるけど、毛皮は大丈夫だな。魔石も回収しよう」


残る二頭も、樹影鬼の追撃で多少傷があり、戦闘中に致命傷を受けていたため抵抗は少なかった。

ルーファウスは刃を入れる感触を確かめつつ、必要な素材だけを正確に取り出す。


森狼の魔石も慎重に取り外す。大きさは小ぶりだが、売却すれば十分な価値がある。


「よし……全部揃った」

大き目の革袋に牙、毛皮、魔石をまとめると、思ったより手間もかからず作業は完了した。


ルーファウスは静かになった森を見回す。

血の匂いや裂傷の跡が残るが、不思議と嫌悪感はなく、過去の戦闘経験が淡々とした作業と

して受け止めさせている。


「少しは、慣れたのかもしれないな……」

そう呟き、革袋の重みを手に感じながら、足取りを整えた。


ふとルーファウスは考える。


「それにしてもあぶなかった。ガルドさんに咄嗟に森で素材の解体っていわなくて本当によかった。」

(アイテムボックスが表にだせない以上、素材の保管場所ってのが問題であり。森でたまたま魔物

に出会い今日のこの装備で倒したことにも少し違和感がある。

しかも明日装備品がもどってから倒して素材回収して換金するってことになると、持ち込みで不自

然じゃないのは明後日だ。後、いうまでもなく、樹影鬼の扱いは保留にしておく)

ルーファウスはそのまま、革袋ごとアイテムボックスにしまい、再度気配察知で周囲の状況を確認

した後、朝のトレーニングのように自然に街にかえることにした瞬間ふいに思い出す。


「……あ、道具融合スキル、まだ使えるはずだ」


道具融合スキルを意識する。

アイテムボックスの奥へ、手を伸ばす感覚。


――引っかかる。


「……あるな」

引き出したのは、革表紙のメモ帳と細身のペン。だった。


中身を確認する。ペン先にわずかに残るインクの匂いが、使いやすそうな実用品

であることを示している。

ルーファウスは手に取り、軽くページをめくる。しっかりとした作りで、いろんな

用途で使えそうだ。

「鞄なんか売っている雑貨屋で市場であつかっている革の材質については確認しておくか。

 ペンがあるので人前で使用するのは無理だなあ。あとは……。」


早速、メモ帳に今日の暦と金額を書こうとした瞬間、

「暦って何だ?ちぃ、剣にしてもぬけているところが多くて嫌になるな。」

先ほどの黒炉の鍛冶場でのやり取りで鑑定スキルを剣に使用するって

意識がなかったことに少し後悔という名の罪悪感をかかえていた。


1回目としてメモ帳に書こうとしたところで手をとめる。

「しかし、転生4日目までで何度か死ぬ思いしたり、死にかけたり、で結果レベル3上がって、

 基本金策に追い込まれるって……。後、俺何気に昼飯とか食ってないよな。転生生活の中身

 やばくね。」

ルーファウスは転生してからのこれまでの記憶を振り返りながら余裕のなさにあらためて

愚痴をいいながらため息をつく


気をとりなおして思いつく事を日本語で箇条書きする。

残高 銀貨十五枚。銅貨百七枚。

剣、防具メンテ済

道具融合 塩残3瓶、釘、測定器具、メモ帳


「とりあえず、思いつく限り、現状これでいい。戻ろう。」


メモ帳一式をアイテムボックスにしまい、森での作業を終え、ルーファウスは静かに

ギルドの資料室へ戻った。

書架に並ぶ報告書や文書の間を歩きながら、ふと思い立って王国キルシュタインの暦を確認する。


国では、アルドリエル暦という独自の年号を用い、暦の仕組みも細かく決められている。

一年は12ヶ月に加え、大王即位記念日という祝祭日がある。

各月は30日で構成され、さらに一年は四つの季節に分けられている。


春月(3〜5月)

夏月(6〜8月)

秋月(9〜11月)

冬月(12〜2月)

それぞれの月の中旬15日ごとに中旬祭、30日ごとに末日祭が行われ、人々の生活リズムを形作っている。


書類を手に取りながら、ルーファウスは資料を眺める。

幼い者たちは5才の段階で簡易測定を受け、魔力量を年齢平均と比較して「高・中・低」で判定される。

さらに使用可能な魔法属性の種類も記録され、王国やギルドは将来有望な人材を見定めるのだ。


素質のある者で、家庭の事情がある場合は奨励金制度を通して修練の環境が整えられ、希望者には

国が指定する学園に入学することもできる。

入学の目安とされるのは、魔力量が中以上であり、

かつ三系統以上の属性魔法を扱える素養を持つ者。

これは、座学と実地の双方に耐えうる最低基準として定められている。

ただし――回復魔法に適性を示す者については、この基準は適用されない。

属性数や魔力量が基準に満たなくとも、将来性を重視して受け入れられる例がある。


この国で魔法を覚える方法は、基本的に魔法書を用いた詠唱習得が主流とされている。

魔法書には術式の構造、完全な詠唱文、そして魔力の流し方の理論が記されており、

それを繰り返し唱え、魔力の流れを身体に刻むことで、魔法は“使える技”になる。


ただし――

魔法書はあくまで知識だ。

才能そのものを補ってくれるわけではない。


素養が足りなければ、

どれほど正確に詠唱しても、魔法は発動しない。

だからこそ魔法職は広く存在し、

同時に、越えられない差もまた、はっきりと残されている。


なお、詠唱を必要としない――いわゆる無詠唱魔法についての記録も存在した。

だが王国発足以来、正式に確認された例は数えるほどしかなく、

一世紀を超える記録の中で、無詠唱魔法の使用が確認された例は、両手で

数えられるほどに留まる。

その多くは、記録上「魔女」と総称される存在によるものだが、

個々の実態や共通点については、いずれも不明確である。


出自、寿命、魔力構造――

正確な情報は残されておらず、現在も研究対象に留まっている。


「……魔女、ね。研究対象……なんだよ、それ」

資料にはそれ以上の説明はない。名前だけが、ぽつりと残っている。

ルーファウスは思わずつぶやき、ため息をつきながら再び資料に目を通す。


こういった若くから教育・訓練を提供する人材救済的な仕組みは、単なる金銭支援ではなく、

王国全体として有望な人材を広く求めていることがわかる。


魔法学園・王立学舎を卒業した者の主な進路は:

騎士団(魔法騎士・支援兵科)

王国研究機関(魔法理論・魔道具)

行政官僚(魔法管理・監査)

冒険者ギルドへの登録(自由契約)

商業ギルド・工房(魔道具関連)などが挙げられる。


魔法素養は、個人の才能であると同時に、国家にとっての戦力資源だ。

だからこそ王国は、それを早く見つけ、逃さず、適切な場所へ流す。


だが、戦える者は魔法使いだけではない。

剣を振る者、盾を構える者、前に立てる者――

近接戦闘者もまた、失えば二度と戻らない資源だった。


そのため、一定年齢に達した希望者は、身分を問わず試験を受ける。

通過した者は一度、騎士団へ仮入隊となる。


そこでは「騎士になる」こと自体が目的ではない。

実戦訓練の中で、素質、レベル帯、スキルの伸び方を見極め、

その者が最も生き残れる配置を決めるための選別だ。


結果として、多くは前線警備、街道護衛、辺境防備、魔物討伐部隊――

平民が多く就く、現実的な近接職へと回される。

騎士団に残るのは、ごく一部。才能と実績が揃った者だけだ。


理想ではない。だが合理的だ。

王国は夢を語らず、人を使い切る。


さらに書類をめくると、冒険者のレベル帯とランク一覧の項目(目安)が目に入った。

Lv1〜7:Fランク 初心者、日常冒険者向け

Lv8〜15:Eランク 冒険者見習い、駆け出し

Lv16〜25:Dランク 一人前の冒険者。冒険業務に支障なし

Lv26〜35:Cランク 中級冒険者。ハードルはやや下げて若手も活躍可能

Lv36〜45:Bランク 上級冒険者。到達できる人間は限られる、素材・魔法熟練者向け

Lv46〜55:Aランク 超上級冒険者。希少な存在、王国レベルの人材

Lv56以上:Sランク 伝説級の冒険者、ほとんど例がない

なお、冒険者登録をして依頼を正式に受けた際、折を見て簡易講習を受ける必要がある。

講習内容は戦闘よりも、野営・処理・衛生といった実務寄りのものだ。


ルーファウスは一覧をじっと眺める。

「なるほど、個人でレベル上限があるのか。ん?簡易講習うけてないよな。ま、次依頼を受けた

 時にでも確認するか。で一般の者でもCランクまでは比較的到達可能であるがBランク以上は、

 やはり才能や経験が必要になる……か」

静かな資料室で、王国が冒険者の力量を体系的に管理できていることを理解した。


 資料を閉じた、そのときだった。


 ――ゴォン……。


 低く、重い音が、街の上空を渡ってくる。

 鐘楼の鐘だ。昼と夜の境を告げる合図。


 ルーファウスは無意識に顔を上げ、息をひとつ吐いた。

 まだ確認したい項目はいくつもある。

 だが――約束の時間だ。


(防具の回収……今日の夕刻だったな)


 名残を断ち切るように席を立ち、資料を元の棚へ戻す。

 そして受付の方へ向き直った。


「ありがとうございました。

 参考になる資料が多くて助かりました」


 形式的ながらも、きちんと頭を下げる。

 そのまま一歩引き――ふと思い出したように、念押しする。

「念のため、確認させてください。

 今日は……確か――」


 一拍。


「アルドリエル暦一八七年、春月の……何日でしたか?」

 受付の担当者は、迷いなく答えた。


「春月二十三日です。末日祭までは、あと七日ですね」


 なるほど、と小さく頷く。

 今日中に防具を受け取る――それで問題はない。

 時間と暦を確かめ、これから夜に入ることを実感する。

 武具屋へ向かうには、ちょうどいい頃合いだった。


 ルーファウスは資料室を後にする。

 静かな知識の匂いを背に、次の用事へと足を運びながら


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