魔王、二番目の町に到着する 異世界百十八日目
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林に入ったカインの足取りに迷いはなく、三人は十数分で数十体のゴブリンの群れを発見した。既に、息をしている盗賊達は一人といなかった。
「あちゃあ、全員、喰われとるやないか。」
「食後に見る光景ではないな。くそ、腹一杯食わなきゃよかった。」
「ゴブリンは俺とギルスで倒す。トロンは討伐部位を取ったら、自慢の剣で斬れ。」
「あの数は脅威やで。わいも討伐に参加するで。」
「ゴブリン討伐は常設依頼だ。討伐部位の提出でクエスト達成。更に、ゴールドメーカーで斬れば、金がドロップする。二重で儲かる。」
「カインはん、天才やな。わいはカインはんに従うわ。」
ギルスは何かを言いたげにカインを見て、諦めた様に頭を垂れてから顔を上げた。その眼は戦士の光を放っていた。そんなギルスを見たカインの口元に、邪悪極まりない笑みが広がった。
「さあ、蹂躙の時間だ。」
カインは言葉を置いて走り出し、何とか着いて行こうとギルスも走り出した。カインが最初のゴブリンの横を擦り抜け、固まっている数体に横薙ぎを放った。全く勢いを落とさずに、近くに立っていたゴブリン達に銀光を走らせた。最初のゴブリンが血飛沫を挙げた頃、ギルスの槍が一体のゴブリンを貫いた。
「速すぎるやろ。」
「トロン。さっさと斬れ。日が暮れる。」
驚くトロンにカインの指示が飛んだ。驚異的な動きを見せる返り血一つないカインと、険しい表情で長い槍を振り回すギルスは対象的に映った事だろう。トロンは二人が通った後に残るゴブリンの尖った鼻を切り落としてから、その心臓にゴールドメーカーを突き立てた。剣を突き立てられたゴブリンは、破裂音と共に黒煙になって四散した。そして、乾いた音を立てて数枚の銅貨を残した。
「確か、組合の討伐報酬は一体につき、大銅貨一枚やったはずやのに。先月は銅貨七十枚やったのに。何で、今日は二十枚ぐらいやねん。ドロップが変動するんか。」
「トロン。瀕死のゴブリンをやれ。」
カインの指示が聞こえたトロンが顔を上げると、カインがゴブリンの鼻を切り落とすのが見えた。カインは両手のナイフを振るって、ゴブリンの両腕、両足の腱を断ち切った。次の獲物に走り出したカインと入れ替わりに、トロンが滑り込む様にゴブリンの首を薙いだ。先のゴブリンと同じく、黒い煙が四散する。再度、銅貨が乾いた音を立てた。
「おっ、今度は五十枚ほど落ちたで。」
「死体は二十枚、瀕死は五十枚。トロン、次だ。」
「おうよ。」
カインはトロンに言うや、鼻を切り落としたゴブリンをトロンの方へ蹴り飛ばした。飛んで来たゴブリンにトロンは、頭上高く振り上げた剣を叩き付けた。頭頂から縦に別れながら、ゴブリンは黒煙となった。先の銅貨より一回り大きな銅貨を落とした。
「よっしゃあ、大銅貨来たぁっ!」
「残ったHPと止めの一撃だろうな。クリティカルで倒すと、ボーナス判定が出る様だな。」
「よっしゃ、カインはん。今の調子で頼むで。ギルスはんも出来るだけ、痛めつけん様に鼻を落としてや。」
「俺はカインの様なピンポイントは無理だ。」
全てのゴブリンを討伐した時、トロンは荒い息を吐いていた。麻袋にゴブリンの鼻を持ち帰ったカイン達は、満面の笑みを浮かべるアデルとティアに合流した。
「結構、貯めていたわね。妙なアイテムも三つほど回収したわ。」
「ゴールドメーカーの性能も確認完了だ。」
「ん、ざっくざく。」
二組の話を聞いたニーナとミリアンは、露骨にその綺麗な流れる様な眉を寄せた。その後は、盗賊に遭遇する事もなく、ニーナ達は立派な都市壁に囲まれた町に到着した。
大きな門は半分程開かれ、門番の質問が終わると町へと入ることが出来た。長い行列が進み、ニーナ達の番になった。
「エルフに獣人、魔人か。新年に交代した新しい領主に気を付けてくれ。」
「差別が激しいと。」
「そうだ。絶対に、決闘を挑まれても、受けてはならんぞ。」
「決闘であれば受ける。合法的に殺せる機会だ。俺が受けてやる。」
「お前達は知らないだろうが、貴族に決闘で勝ことの意味を。」
門番は大きな溜息と共に話し始めた。住人同士の決闘では武器の使用は無く、殴り合いで勝敗を決する事が常だった。そして、決闘に至る理由も、他愛の無い理由が多かった。しかし、相手が貴族になるになると、どんな強者でも貴族を傷付ける事は出来なかった、決闘はお互いの合意の元で行われると言えど、貴族が負ければ周辺どころか中央の貴族達も黙っていなかった。露骨に特別税を課せられ、時には暴力に晒されることもあった。中には、暗殺された者もいたらしい。
「何とも理不尽だが、決闘に勝っても権力に負ける。」
「それなら、私達に手を出した貴族は思い知ることになるわね。」
「だから、貴族の決闘を受ければ、必ず報復があると言っているだろ。」
「だって、素手で殴り返しても罰は付かないでしょ。暗殺者を返り討ちにしても同じ。暗殺を依頼した者も、殺されても文句が言えない。」
「相手は貴族だぞ。騎士団を持っているのだぞ。ここの領主も常時二百人を待機させているのだ。」
今まで、腕を組んで壁に背を預けていたカインが、静かに一歩を踏み出した。
「俺は百万までは検証済だ。」
「はっ、何の事だ。」
「彼、百万の騎士を単騎討伐出来るの。」
「はあっ。」
さすがに、門番どころかニーナ達まで揃って、大きな声を挙げた。しかし、門番とニーナ達では、込められた気持に違いがあった。疑念と驚愕。
そんな周りの反応を気にした風も無く、アデルは涼しい顔でカインを見た。
「カイン。国を滅ぼすのはなしよ。この世界は一つの王国が統べているのだから。」
「それは王国次第だ。」
門番はカインとアデルの会話を、苦笑を浮かべながら聞いていた。個人が国と戦えるどころか、国を滅ぼせるなどと思う者はいないだろう。何処か微妙な表情を浮かべているニーナ達。ニーナ達を救出する際、騎士団ですら倒せないモンスターを単騎討伐カインを知っていた。ニーナ達は心のどこかで、カインなら国相手に戦うのではないと思っていた。
ニーナ達よりカインとアデルの事を知る者が、光りが満ちた空間で無数のモニタを眺めていた。
「ねえ、国王に神託を降ろした方が良いのでは。」
「既に、二人の事は教えたよ。死神と魔神の化身が地上に降り立ったとね。」
「それでは、あまり信じていないかも知れないな。」
「大丈夫。あの二人が滅ぼした国や文明の記録を見せた。国王以外にも、宰相に大司祭、宮廷魔法師に、統合騎士団長。王族関係の他に、魔法師組合を始めとした各種組合の責任者にも告げた。」
「それはそれで、神託を与え過ぎでは。」
「二人を子どもにしたのは私だからな。」
二つの人影の片方から驚愕したと判る気配がした。もう片方の持つティーカップが、乾いた音を立てて震えていた。しかし、その中身は既になかった。
「これだけの大きな町なのじゃ。色々と買い物をするのじゃ。」
ア♀:今回は固有名詞が少ないのね。
空♂:にょっ、そこに気付くとは。
ア♀:そういう物語かと思ったら、違ったのかしら。
空♂:管理が大変なのだ。
ア♀:まっ、そこは気にしないわ。でも、色々と出て来るのでしょ。
空♂:出て来るのだ。シェリーナは絶対に出すつもりなのだ。
ア♀:レディ・テンペスト。楽しみね。
空♂:まだまだ、続きます。




