魔王、世間を知る 異世界百十五日目
予告なく修正することがあります。
尚も後頭部をさするトロンの前にも料理が並び、ニーナが手を合わせて唱和し食事が始まった。美味しいのか不味いのか、無表情に料理を口に運ぶカインとアデル。真逆のニーナはピーマンに露骨に顔をしかめ、ニンジンに無表情になり、大きなステーキに微笑んでいた。
食事している間に、トロンはアデルの質問を受けていた。そして、食後のお茶が運ばれてくると、客の少なくなって暇になった宿屋の娘も参加した。
「それで、アデルはん以外の種族を教えてや。アデルはんは人族やろ。」
「カインとティアも人族よ。のじゃ姫はエルフで、ミリアンはダークエルフ。ギルスとエレンはご覧の通り獣人族。」
「いやいや、そんな邪悪な赤い眼してんのに、人族の訳が無いやろ。ティアはんの髪色も人族には有り得ん色やで。魔人族やろ。」
「カインの眼は呪いを受けたの。ティアの髪色は染めているのよ。」
「ふうん。今は信じとくわ。わい、アイテムの鑑定は出来ても、人物鑑定はでけへんからな。」
トロンは人族と魔人族とのハーフだと明かしたのち、世間では大半を占める人族がその他の亜人種を差別していると話し始めた。
「始まりの町では、そんな差別は無かったのじゃ。」
「いえ、お嬢様。時折、酔った狩人が他種族の方を言葉汚く、罵っているのを見かけました。」
「私も悪口を言っているのだと思っていたけど、中々に深刻な問題だったのね。」
「トロンさんの言う通りです。この辺りはまだましな方ですが、場所によっては奴隷扱いされると聞いた事があります。」
トロンの話では、王都での差別が一番ひどく、王都から離れる程に差別意識が希薄になるらしい。それは、離れればモンスターの徘徊するダンジョンがあり、力を合わせなければ生きていけない環境だからと宿屋の娘が語った。
防御系魔法を得意とし、身体能力も高いエルフ達は王国より自治が認められていた。攻撃系魔法を得意とするダークエルフも自治を認められ、優れた鍛冶技術を持つドワーフ達も同様だった。その他にも、精霊族や神人族が存在し、自分の領域を守護しながら人々から敬われていた。桁外れの戦闘能力を有する竜人族や魔人族も自治を認められ、幾つかの土地に住んでいると語った。
「一騎当千の力有る種族は優遇して、そうでない種族は蔑視すると言う事なのね。」
「そやで。まあ、エルフや竜人族かて差別対象やで。やり返されたら怖いから、表だってやらんだけの事や。ドワーフなんか穴人とか言われるんや。面と向かっては言わへんねん。武器や防具を売って貰えん様になったら困るからな。わいもハーフやから、混ざり者ってよう言われたわ。言うた奴はしばいたったけどな。」
「唯人族は何処でもそうだ。自分達より見た目や能力が優れている者を妬み、嫉妬する。」
「そして、その者達を貶める事でしか、自分達の存在意義を見出せない。憐れね。」
吐き捨てる様に言うカインに、呆れ果てた様にアデルが言葉を続けた。トロンはギルスとエレンを見てから、大きく息を吐いてから話し始めた。
「一番の差別被害者は獣人族や。ギルスはんやエレンはんの様な強い種族はましや、鼠人族や兎人族みたいな弱い種族が最悪や。」
ギルスの様な狼人族やエレンの様な闘猫族は個人の身体能力が高いが、鼠人族や兎人族は素早い動きだけで戦闘の力は低かった。そんな種族は無理矢理、奴隷にされて扱使われていた。
「うにゅう、魔人族にも戦闘能力を持たない種族も居るのじゃ。」
「王都周辺では、魔人族や兎人族の奴隷を持つのが、流行っているんやで。吐き気がするで。」
「奴隷は合法なのかしら。聞いた事は無いのだけれど。」
「一応、王国の法では奴隷は禁止や。せやけど、獣人族を奴隷にしててもお咎めなしも事実や。」
重たい空気が漂う中、宿屋の娘が何かに気づいた様に顔を上げた。そして、口早に語った内容を聞いたカインの顔に、邪悪ともいえる不気味な笑みが広がった。
それは、決闘と呼ばれる法律についての話だった。宿屋の娘によると、対立が起こった場合によくもちいられ、勝った方の言い分が通ると言ったものだった。ある意味、理不尽極まりないが、王国では広く認知され採用されていた。そのルールは貴族どころか、王族まで適用される驚きのルールだった。
「実際、王族が決闘を申し込むとか、受けたとかは無いけどな。」
「でも、次の町の領主は、決闘を頻繁に申し込んでいると聞きます。」
「ああ、あれはそやな。あそこの領主の息子は屑やな。気に言った女がおったら決闘を申込み、相手を殺して奪う鬼畜や。」
「ふふっ。カインに挑めば死ぬ以外の選択肢は無いのだけれど。トロン、明日は私達の実力が知りたいでしょ。朝食前に町はずれの森の前に来てね。」
翌日、朝食の前にトロンが町から遠くない森の入り口に来ると、朝の訓練を終えたニーナ達が優雅にお茶を飲んでいた。
「貴方、お金が好きだったわね。ここに白金貨があるの。カインに勝ったら、これを貴方にあげる。」
「その言葉、憶えたでっ!」
アデルの提案を満面笑みで受けたトロンは、次の瞬間には鬼の形相でカインに斬り掛かった。木剣とはいえ当たれば大怪我間違いなしの力の乗ったトロンの唐竹割は、神速で下から切り上げられたカインの木刀に斬られた。斬られた。何が。トロンの振り下ろした木剣は、握った手の直ぐ上で綺麗な切断面を光らせていた。
「わい、王都の正統派剣術修めとんのに。」
「カインも幾つかの流派を修めて、自分流にアレンジしているの。それに、実戦経験がね。」
「年はわいの方がちょっとだけ上やろ。実戦経験がそこまで変わる事は無いやろ。」
「そうなのじゃ。しかし、カインはサイクロプスを瞬殺していたのじゃ。」
「凶暴なキメラも一刀両断していました。」
「ん、ヘカトン殴った。」
ニーナだけでなくミリアンとティアの呟きに、ギルスとエレンはトロンと共に大きな驚きの声を挙げた。始まりのダンジョンの最深部で繰り広げられた救出劇が、ニーナの身振り手振りを交えて説明された。徐々に、熱が入って来たのか、ニーナとティアが木剣で打ち合いを始め出した。溜息を吐いたギルスとエレンが止めに入って、荒い息をして睨み合うニーナとティアが引きはがされた。
その後、トロンはギルスとエレンとも模擬戦を行い、地面に手を付いて何事かを呟いた。
「ふっふっふ、次は妾の出番なのじゃ。うにゃ、前にも言った様な気がするのじゃ。」
空♂:ふう、一年掛かって序盤なのだ。
ア♀:のんびりし過ぎるからでしょ。
空♂:これからはちょっと速くなるかも。
ア♀:期待しないでおくわ。
空♂:まだまだ、続きます。




