王子様は悪役令嬢の従者とルームメイト
ジークとレギンは、共に『従者枠』として学園へ入学している。
貴族や王族の生徒とは違い、従者に個室などという贅沢なものは与えられない。
故に――二人の部屋は相部屋である。
授業を終えて宿舎へ戻ったジークは、そんな自室で紅茶を嗜みながら、向かいに座るレギンへ今日の出来事を話していた。
「えっ!?あれってお前だったのか!?」
レギンが素っ頓狂な声を上げる。
(まさかベルンの野郎と決闘してたのが、ルームメイトだったなんてな……)
決闘をしていた男が同室のジークだとは気づいていなかったようだ。
「紅茶、いるか?」
「あぁ、頂くよ。」
貰った紅茶を一気に飲み干した。
「熱っ!?」
「何やってんだ、お前」
「う、うるせぇ!」
口元を押さえながら涙目になるレギン。
少しの沈黙を挟んで――。
「……あー、おほん!」
わざとらしく咳払いをする。
「なぁ、ジーク」
「ん?」
「お前……聖女のことが好きなのか?」
「は?」
何を言ってるんだ、この可愛らしい俺っ娘は。
「だって、聖女を懸けての決闘だったんだろ?」
「さっきも説明したとおり、俺はその聖女様に無理矢理戦わされたんだ」
「ふ、ふーん……」
「それで、『a』組の調子はどうなんだ?例の女貴族様とは上手くやれてるのか?」
「クリー――げほん、げほん!」
「…………?」
「女貴族様との関係は良好だぜ!」
露骨に誤魔化すレギン。
「むしろ『雇って良かった』ってベタ褒めされてるくらいだ! それにな、この前なんて俺が『a』組の三番手を取ったんだぞ!」
レギンは勢いよく三本の指を突き出した。
「三番?」
「そう!三番!」
目がキラキラと輝いている。
「俺が三番目だ!がははは!どうだ、凄ぇだろ!俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇよな!」
「へぇ、凄いじゃないか」
「だろぉ!」
『a』組ではクラス内で個人戦闘能力を測る模擬戦が毎週行われている。そして教師による判定を受け、序列が確定される。
「俺達は『a』組だ。全員が最上の戦闘職を選定されてる。その中での三番手。へへ、自慢もしたくなるってもんだ」
「なるほど」
この学園では、学術面以上に戦闘能力が重要視されている。
故に模擬戦で上位に君臨すれば、それだけ周囲から一目置かれる事になる。
実力至上主義――この学園はそう出来ている。
「ちなみに、一位と二位は?」
「一位はク――」
レギンの口が止まる。
「ク?」
「…………俺の雇い主」
「今、名前を言いかけなかったか?」
「気のせいだ」
「そうか?」
「そうだ!」
妙に必死だな。
「そんでもって二位が、聖女のブリュンヒルデだ」
「あいつ二位なのか」
「おう。可愛い顔して、やってることは狂戦士そのものだけどな」
「…………否定できん」
一位が女貴族様。
二位がブリュンヒルデ。
そして三位がレギン。
どうやら『a』組の上位三名は、全員女性で固まっているらしい。
「ん?それじゃあ、スノッリとディートリッヒは何番手だったんだ?」
「ベルンの野郎は確か五位。ストゥルルソンは七位だったな」
「スノッリ君が七位か……」
意外と言えば意外だ。
戦闘面では、そこまで突出していないらしい。まあ、職業適性が『宰相』なのだから、納得のいく結果ではあるが。
「っても、ストゥルルソンの奴は頭がいいからな」
「というと?」
「総合成績なら二位だ」
「そんなに高いのか?」
「ああ。司令塔としての指示は的確だし、博識で、人に教えるのも上手い。戦闘能力だって飛び抜けて強いわけじゃねぇが、決して弱くもない」
レギンが腕を組む。
「何より、授業であいつと同じチームになった連中は、俺達を抑えて一位を取るんだよ」
「へぇ……」
いかにも頭脳派のスノッリ君らしい。
ブリュンヒルデのせいで俺を目の敵にしている節はあるが、能力そのものには好感が持てる。
宰相故に策略に長けている。敵に回したら、かなり面倒そうだ。
「そういや、『a』組って何人いたんだっけ?」
「十二人だ!」
レギンが待ってましたとばかりに胸を張る。
「知ってるか、ジーク。この十二人ってのは、主要十二神になぞらえてるらしいぞ!」
「へぇ」
「この前、授業で習ったんだ!」
「そうかそうか。偉いな」
「だろ?」
また目を輝かせている。
……褒められるのが好きなんだろうか。
そこで、ふと一つの疑問が浮かんだ。
「じゃあさ」
「ん?」
「レギンの総合成績は何位なんだ?」
個人戦闘力の序列は第三位。だが、学術面や戦術、集団行動での総合評価はどうなのだろうか。
「…………」
ピタリ。
レギンの動きが止まった。
「レギン?」
「…………ジーク」
「なんだ?」
先ほどまであれほど輝いていた瞳から、光が消えている。
レギンは静かにカップを置くと、どこか遠い目をして窓の外を眺めた。
そして――。
「人にはな……」
「うん」
「向き不向きってものがあるんだぜ?」
「…………さいですか」
戦闘順位、三位。
総合順位――黙秘。
どうやらこれ以上は、彼女の名誉のためにも聞かない方が良さそうだ。




