表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

王子様と決闘の決着

従者のレギンと庭園でお茶でもしようと歩いていると、闘技場の方がやけに騒がしい。


「……何事だ、レギン?」


群衆が一斉に闘技場へ集まっている様子を見て、クリームヒルトは眉をひそめた。


「多分、決闘じゃないっすかね〜」


レギンは興味なさげに肩をすくめる。


クリームヒルトは近くで背伸びをしながら観戦している男子生徒へ声を掛けた。


『おい、そこのお前』


「あ? 今いいところ――」


振り返った男子生徒は、目の前に立つ公爵令嬢を見た瞬間、顔色を変える。


「も、申し訳ありません!クリームヒルト様!な、何用でしょうか?」


背筋を伸ばし、何度も頭を下げる男子生徒を手で制すると、クリームヒルトは静かに問い掛けた。


「誰が戦い、何故戦っている。簡潔に答えろ?」


「は、はい!」


男子生徒は慌てて事情を説明する。


闘技場では、『ζ』組の生徒が『α』組の剣帝へ決闘を申し込んだらしい。


「しかも、聖女様を懸けた決闘だそうです!」


(確か、ブリュンヒルデだったか)


平民出身ながら聖女の称号を持ち、同じα組に在籍する少女。誰にでも分け隔てなく接する、穏やかな性格で知られている。同時に奇行も目立つ。


「あー確かに聖女の奴、すっげぇモテてるっすもんね。かわいいし。」


「私もかわいいぞ?」


「かわいい以前に、クリームヒルト様は怖がられてるっすね……」


クリームヒルトは心底理解できないという表情を浮かべる。


「それにしても、剣帝にζ組の奴が挑むなんて、度胸ありますよね。あいつ、α組でも上位の実力っすよ。それで、見に行きます?」


クリームヒルトは闘技場へ視線を向ける。


群衆はますます熱気を帯び、歓声が響いていた。


だが、彼女は興味を失ったように踵を返す。


「無用だ。どちらが勝とうと私には関係ない。放っておけ。」



---


「ジーク……ここからは本気でいくッ!死んでも文句は言和ないでくれよッ!」


ディートリッヒは愛剣エッケザックスを両手で構えた。


ラグナロク以前、小人族が鍛えたと伝わる名剣。


数多の戦場を無傷で駆け抜け、いかなる堅牢な鎧すら貫いたという伝説を持つ。


(さっきまでとは闘気がまるで違う……ようやく、本気ってことか)


先ほどまでの戦いは、あくまで『試合』だった。


しかし今からは違う。


互いに一切の手加減を捨てた、本物の決闘だ。


「ふぅっ!!」


一気に間合いを詰め、下段からエッケザックスが斬り上げられる。


「ぐっ……!」


凄まじい膂力。


さすが剣帝だ。純粋な腕力では、冒険者である俺とは比較にならない。


(受け流せねぇ!)


槍で軌道を逸らそうとする。


だが剣筋は微塵も揺るがず、そのまま俺を両断せんと迫る。


「魔法袋――小麦粉!」


破裂音と共に白煙が舞い上がる。


ディートリッヒが斬り裂いたのは、俺ではなく魔法袋から取り出した小麦粉の袋だった。


「これで視界を潰したつもりか、ジーク!」


ディートリッヒはエッケザックスを振るい、煙を吹き飛ばしながら前へ突進する。


(……いない!?)


未来予知では、煙の向こうにジークがいるはずだった。


しかし剣は虚空を貫く。


「――背中が、がら空きだ」


「しまっ――!」


ザシュッ!


背中を斬り裂かれたディートリッヒはよろめきながらも、エッケザックスを地面へ突き立てて倒れるのを防ぐ。


「速さもある。力もある。七英雄に届く素質があるのは認めるよ。」


(同学年でこいつに勝てる奴なんて、そうはいない。)


――だけど、相手が悪かった。


(俺とディートリッヒには、決定的な経験の差がある。)


剣帝の力を完全に覚醒させていない今のお前では、まだ俺には届かない。槍をディートリッヒの首元に当てる。


「……うぅ、そんなぁ、クソ、僕の負け、あり得ない、」


ディートリッヒは剣を両手から手放し、膝を着く。そして涙目で拳を地面へ叩きつけた。


「僕だって修行頑張ってきたのに!」


そして、そのまま本気で泣き始めた。


「それなのに、なんでぇ!剣帝なんだよぉ、僕はぁ……うぅ、ひっぐ……」


(子供みたいに泣くなよ。)


仮にも元王族だろ。


しかも、大勢の観衆が見守る闘技場のど真ん中で。


「泣き止んでくれ。悪かったって、な?」


勝ったはずなのに、猛烈な罪悪感が襲ってくる。


「……じゃあ、教えて欲しい。」


体操座りのまま、涙で潤んだ瞳をこちらへ向けるディートリッヒ。


「……何を?」


ディートリッヒは鼻をすすりながら、小さく口を開いた。


「ジークみたいに、強くなる方法を。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ