王子様は決闘する
(剣帝の能力は強力だ。基本性能に擬似的な未来予知――数秒先を見通す《心眼》すら備えている。小細工やフェイントは通じない。ならば戦う前から盤面を整え、ジークが有利になるよう訓練場に罠を張り巡らせるしかない。)
ロキは静かに思考を巡らせる。
どうすれば親友を無傷のまま、数秒で勝たせられるのか。
(これは試合じゃない。決闘だ。必要なら殺しも罪には問われない。)
友となった男を必ず勝たせる。
その一点だけを考える。
僕には、彼が必要だ。
生涯を通して初めて得た、友人であり、親友なのだ。
ピクニック券などと巫山戯た景品を手にする為に死なれては困る。
「そう難しい顔をするな、ロキ……俺は正攻法で勝つよ。」
ジークはロキの肩に手を置き、穏やかに笑った。
「心配は杞憂か。それとも無謀なだけか……。もしものことがあれば、僕は彼奴を殺すよ?」
静かな声とは裏腹に、ロキから放たれる殺気は凄まじい。
おそらく現生徒の中で、ロキに真正面から対抗できるのは生徒会長くらいだろう。
それほどの実力を、彼は隠し持っている。
「いいさ。死んだら死んだで、ヴァルハラへ行けるだろ?」
「皮肉は嫌悪する。死は美学じゃない。ただの敗北だ。」
ロキは感情によって戦い方が変わる。
緊張や興奮に支配されれば、道化師のように嗤いながら策略を巡らせ、獲物を愉快に殺す。だが、怒りや悲しみに呑まれた時は違う。
一切の感情を捨て、冷酷に標的を始末する策略を思考する。
(今は後者……。ロキは友情に関して重いからな。)
誰も信頼できずに生きてきた反動なのだろう。
だからこそ、一度認めた相手への執着は深い。味方にできたことは大きい。
「俺を信じろ――」
◇ ◇ ◇
「ジークフリートの職業適性は《冒険家》だ。手数が多い。油断するな」
準備運動をしていたディートリッヒへ、スノッリが忠告する。
「へぇ、自分を応援してくれるなんて意外だね♪」
「勘違いするな。お前を応援しているわけじゃない。ただ、ジークフリートよりはマシというだけだ」
それだけ言い残し、スノッリはブリュンヒルデたちが待つ観客席へ向かった。
訓練場は、まるでコロッセウムそのものだった。
巨大な円形闘技場。
その中央で、決闘が始まろうとしている。
「よく来てくれたね、ジーク。僕に負ける準備は出来たかい?」
ディートリッヒは二本の宝剣を鞘から抜いた。
「右に宝剣、左に名剣。どちらも至宝の剣。ピクニックの券だけが君と戦う理由じゃない。僕は初めから君という男と戦って見たかったんだ。」
剣帝の職業に加え、二振りの名剣。普通に考えれば冒険家の職業適性を持つ自分が勝てる相手ではない。
(だが、勝算はある。)
相手は、剣帝として完成されていない未熟者。突くべき欠点はそこだ。
(職業適性の差は経験の差で埋める。)
伊達に冒険者をやってきたわけじゃない。
「君の武器は槍なんだね♪」
「かっこいいだろう。師匠から頂いた銀槍。君の持つ剣にも並ぶ名槍だ。」
そして兄シグルドから餞別として渡された《エギルの兜》。勝ちに行くための切り札だ。
「さぁ、始めよう!」
「言われなくてもッ!」
ガキィンッ――!!
刃と刃が激しく噛み合い、鍔迫り合いとなる。
その瞬間、ディートリッヒは空いている左手のナーゲルリングで股を狙い、鋭い突きを放った。
「ッ……やらせるか!」
ゴッ!!
ジークフリートの頭突きが炸裂し、ディートリッヒの体勢が大きく崩れる。
「ぐあっ!?」
その隙を逃さず、槍が追撃に走る。
「――剣帝を舐めるなァァッ!!」
身体の可動域ギリギリまで使い、槍を紙一重で回避。
さらに大きく後方へ跳び、距離を取る。
「はぁ……はぁ……」
(危なかった……)
剣帝には数秒先を見通す未来視がある。
だが、見えているだけでは意味がない。
身体が反応できなければ、未来は変えられないのだ。
「経験も鍛錬も足りない。たった数合で息が上がってる。それが何よりの証拠。」
その言葉が胸に突き刺さる。
C級冒険者。
その肩書きは、多くの死線を潜り抜け、生き延びてきた証だった。
「剣帝って職業に感謝するんだな。未熟なお前でも、俺とここまで打ち合えたんだからな。」
余裕に満ちた態度。
そのすべてがディートリッヒの神経を逆撫でする。
「自分は……ッ!! 剣帝なんだァァァッ!!」
激情に任せて剣を振るう。
だが、その一撃は最小限の動きで受け流される。
次の瞬間――
ドンッ!!
槍の石突が腹部へ深くめり込んだ。
「ぐっ……うぉぇっ!!」
胃液を吐き出し、その場に膝をつく。
「自分が……負ける……?冒険家の職業適性に……そんなこと……あっていいはずがない……!」
ディートリッヒはナーゲルリングを投げ捨てる。
そして気迫だけで立ち上がり、《エッケザックス》を両手で握り締めた。
その瞳に宿るのは、狂気にも似た執念。
「ジーク……ここから先は本気でいくよッ」
エッケザックスの切っ先が、真っ直ぐジークへ向けられる。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークと評価で応援していただけると励みになります。
皆さまの応援が、作品を書き続ける大きな力になります。




