悪役令嬢の従者
従者として『A級』女冒険者――レギンを雇い入れた。
(学園生活の三年間、付き人が一人いれば何かと便利だろう。)
そんな軽い考えで、残っていた最後の資金をはたいて契約したのだが――。
…………失敗だったかもしれない。
「あぁ!?てめぇ、何ガン飛ばしてんだ!?こちとら公爵令嬢様のお通りだぞ!三流どもは道を空けろぉ!!」
廊下へ出れば、生徒を威嚇。講堂へ行けば、周囲を睨みつける。
大貴族付きの従者として最低限必要な礼儀作法など、どこかへ置き忘れてきたらしい。
「うわっ、見てくださいよクリームヒルト様!あの雲、めちゃくちゃうんこみたいな形してますよ!」
「……口を慎め。」
空に浮かぶ雲を指差して排泄物扱い。
淑女教育など施そうものなら、その場で気絶しそうな勢いである。
(教養は皆無。性格は豪胆というより雑。おまけに訓練所爆破事件まで起こした女だ……)
頭痛がしてきた。
職業適性の力量を測る実技試験では、各生徒が教官と模擬戦闘を行う。
だが、この女の適性は――
【魔砲手】。
戦場そのものを焼き払う、大規模戦争向けの職業だった。
「レギン。お前の職業適性を説明してみろ。」
「えー、またっすかぁ?まぁいいですけど――」
レギンはニヤリと笑う。
「単装砲塔五基五門――解錠ッ!!」
ゴォォン――!!
魔力の奔流とともに、五門もの巨大な砲塔が彼女の背後へ展開された。
部屋の壁を埋め尽くすほどの圧迫感。
「どうっす!?超カッコよくないっすか!」
「展開しろとは言っていない。」
クリームヒルトは即座にため息を吐いた。
「能力を説明しろと言ったんだ。砲台を出せとは言っていない。今すぐ片付けろ。」
「えぇ~……。」
しょんぼりしながら砲塔を消していくレギン。
まるで怒られた大型犬である。
「えっとですねー。基本能力は五門による一斉砲撃っす。覚醒すると五門が合体して超大型主砲になります!」
「ほう。」
「射程も威力も砲弾重量も全部ケタ違いっす!ただし、一日に一発しか撃てません!」
「……なるほど。典型的な諸刃の剣だな。」
「撃った瞬間、魔力が空っぽになって気絶するんで!」
誇らしげに胸を張る話ではない。
「でもその一発でファーヴニルの幼体をぶっ飛ばしたんっすよ!」
「…………何?」
クリームヒルトの眉がぴくりと動く。
「なのに受付の姉ちゃんが『能力を使いこなせてないからA級止まりです』とか言いやがって! マジ意味分かんなくないっすか!?」
「…………。」
「しかも火力が高すぎて幼体が八割くらい消し飛んじゃって、素材もほとんど残らなくて報酬激減!散々でしたよ!」
「いや、お前が散々にしたんだ。」
思わず冷静なツッコミが漏れる。
ファーヴニルの幼体。
それは熟練したA級冒険者四人が命懸けで挑み、ようやく討伐できる《アングルボザの呪い》。
それを――
一人で消し飛ばした。
(英雄級……。)
いや。
火力だけなら、七英雄に匹敵すると言っても過言ではない。
(この女、自分がどれほど異常なのかまるで理解していない。)
大量殺戮を前提に設計された職業適性。
七英雄とは方向性こそ異なるが、同じく"国家戦力"と呼ばれる存在。
本人だけが、その価値を理解していないのだ。
「いやぁ~、でも助かりました!」
レギンは満面の笑みを浮かべる。
「クリームヒルト様が護衛依頼を出してくれたおかげで借金チャラっす!三年間、末永くよろしくお願いしまーす!」
その笑顔だけは、妙に眩しかった。
クリームヒルトが支払った報酬は、公爵家から見れば端金。
しかし一般市民からすれば、一生遊んで暮らせるほどの大金である。
(……本当に呆れた女だ。)
品はない。
礼儀もない。
口も悪い。
それでも――
(この武力は、将来公爵家にとって計り知れない価値を持つ。)
多少の無礼など安いものだ。
「……ああ。三年間、その報酬に見合う働きを期待している。」
「任せてください!敵でも城でも山でも、全部まとめて吹っ飛ばします!」
クリームヒルトは小さくため息を吐き、静かに口元を緩めた。
「最後の一言だけは聞かなかったことにしておこう。」




