悪役令嬢は王子様を求める
自らが持つ財産のほとんどを投じても、ジークフリートに繋がる手掛かりは何一つ得られなかった。
(ジークフリート……本当に、お前は死んでしまったのか?)
ネーデルラント家は正式に、ジークフリートの死亡を発表した。
それでも――信じられない。
(……いや。)
静かに首を振る。
(信じたくないだけ、なのだろうな。)
ジークフリートはどこかで生きている。
そう願い続けてきた。
だが、その希望は日を追うごとに少しずつ薄れていく。
(呪いの獣に喰われて終わりだなんて……そんな結末、あんまりだろう。)
世界は残酷だ。
誰よりも懐が深く、誰よりも人に優しかった男が、そんな理不尽な最期を迎えるなど認められるはずがない。
(ジークフリート……私を、一人にしないでくれ。)
お前がいない世界は、ひどく窮屈で。
ひどく退屈で。
そして、どうしようもなく寂しい。
まるで心にぽっかりと穴が空いてしまったようだった。
「…………クリームヒルト様?」
遠慮がちな声に、思考が現実へ引き戻される。
振り向けば、従者として雇ったA級冒険者レギンが、不安そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「……いつもの考え事だ。」
軽く笑って誤魔化す。だが、その笑みは我ながら驚くほど弱々しかった。
A級冒険者はもちろん、世界にわずか四人しか存在しないS級冒険者まで雇い、大規模な捜索隊を編成した。
その結果は――。
何一つ、手掛かりすら見つからなかった。
(ネーデルラント家が真実を隠している可能性も……完全には否定できない。)
使える手段はすべて使った。
使える人脈も。
使える権力も。
使えるお金も。
全部だ。
その結果、残ったものと言えば――。
(動かせる資産が、消えたくらいか。)
公爵令嬢。
その肩書きだけ聞けば優雅な生活を想像する者も多いだろう。
しかし現実は違う。
「今日の夕飯はもやしにしよう……。」
「昨日ももやしでしたよね?」
「…………明日は味を変える。」
「そこじゃねーですよ!」
レギンは即座にツッコミを入れた。
公爵令嬢とは思えない家計事情である。
もっとも、本人は至って真剣だった。
(七英雄に選ばれたことは本来なら名誉なのだが……。)
今だけは、その栄誉が恨めしくて仕方がない。
七英雄に選ばれた者は、身分を問わずヴァルハラ学園へ入学しなければならない。そして卒業するまでの三年間、原則としてウルズの泉の外へ出ることは許されない。
(……在学中は、ジークフリートを探しに行けない。)
拳を静かに握り締める。
悔しい。
歯痒い。
だが、規則を破れば七英雄としての資格を失う可能性すらある。
今は耐えるしかない。
(ジークフリート。証拠はない。根拠もない……それでも、お前は生きている。)
そう信じろと、自分の直感だけが何度も囁いてくる。
クリームヒルトは静かに窓の外へ視線を向けた。
遠く、世界樹ユグドラシルが青空へ向かって枝を伸ばしている。
「待っていろ。」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「卒業したら、お前を再び探しに行く。」
そして、少しだけ頬を緩めた。
「……だから、それまで勝手に死ぬなよ。馬鹿者。」
その言葉だけは、どこまでも彼女らしかった。




