第98話
ドライアドの言っていた通り、集落は本当にありました。
しかし言われていて注意していなければ気づかないほど、その集落は森の景色に溶け込んでいました。
家らしい家はなく、柄だと葉を重ねただけの簡易な住居がいくつかあるだけで、それにも窓のような物はなく、入口らしき部分も閉じられています。
出歩いている人の姿もなく、あたかも建物だけが取り残されているかのような雰囲気です。
しかし人の気配がないかと言えばそういうこともなく、耳を澄ますと生活音のような物が耳に届いて来ます。
隠密を発動していたのは正解でした。
中でなにが行われているのかはわかりません。会話の声は聞こえず、ただ生活しているだけでしょうか。
様子を見ようにも集落全体はすぐに見終わってしまいました。
住みやすいように木を切り倒したりなどもせず、本当に森に紛れようとしているかのようでした。
まさか家を訪ねるわけにもいきません。
唯一怪しいのは、少し外れた場所にあった洞窟でした。
入口には岩がアーチのように積まれていて、中は灯りが設置されています。明らかに人工的な物で、なにかあるのは決定的です。
「どうしましょうかね……」
洞窟ですので、灯りが途中で途切れているとその先は闇です。一本道だった場合、向こうから人が出ようとすればワタクシと鉢合わせしてしまいます。
前者の場合はそこで探索を止め、後者の場合も戻れば良いだけです。
しかし隠密とは人や魔物の意識から隠れるだけの能力で、もしも罠が仕掛けられていたらそれを避けることはできません。
そこまでされているとも思えませんが、放置されているような場所でもなさそうです。
「……迷っていても仕方ないですわね」
ここでなにもせずに待っていたところでなにかが変わるわけではありません。
そして、今は貴重な休暇を使って調査に来ているのです。こうしている間にも家は手配書でいっぱいになっているかもしれません。
相手はターゲットではなくワタクシの興味で調べているだけの相手。危険があればすぐにテレポートで帰れば良いでしょう。
中に入る前に、近くの木陰に隠れ、隠密を解きます。
そして三回ほど深呼吸をしてからもう一度発動し、洞窟に足を踏み入れました。
洞窟と聞くと、暗くてじめじめしているようなものを想像していましたが、ここはそうではありませんでした。
人工的に掘られたように壁は均一で、等間隔でランタンが吊るされていて暗いということもなく、地面も整地されていてコケの一片も見当たりませんでした。
しかし奥へ進むにつれて段々と、ランタンの灯りは小さくなっていきます。
慎重に進まねば躓いてしまいかねないほど暗くなってくると、今度は奥の方に怪しく揺れる灯りが。魔石を使ったランタンのように常に一定の明かりを放っているのではなく、炎のようにゆらゆらと揺らめいています。
そしてそこの手前に誰かいるようで、黒い影が伸びていました。
ゴクリと唾を飲み込みます。
もしもワタクシがここにいるのがバレて、戦闘になったとしても負けるつもりはありません。しかしできれば戦わずに済めばそれが一番で、戦闘前とは別の緊張感がありました。
ここまで来るのに小石の一つもありませんでしたが、もしも小指ほどの石でも蹴飛ばしてしまったら相手に気づかれてしまいそうで、そろそろと、ゆっくりとスリ足で近づいて行きました。
そしていよいよ、その人物がちゃんと見られる位置にまで着きました。
こちらに背を向けて両手を合わせ、炎に向かって祈っていたのは若い男でした。まだ子供と言われてもおかしくないほど若く見え、正確な年齢はわかりません。
その男が祈っていた祭壇はなにを燃料にしているのか、紫色の炎が燃えていました。左右の松明は赤々と燃えているので、祭壇の焚火だけが特殊な燃料を使っているのでしょう。その他にも骨や鉱石、葉っぱなんかが並べられています。
宗教的毛色が強いのは明らかです。
男は目を閉じて熱心に何事かを唱えています。
唱えている言葉もなにを言っているのかわからないです。こちらの世界ではどの国どの人種と話しても通じないということはなく、神様曰く言語というものは一つだそうです。しかし古代語を話している人達がまだいると聞いたことがあります。その類でしょう。
古代語であればワタクシがわからないのも当然でしょう。
すぐ近くで顔を覗き込むのは緊張しましたが、これも隠密を信じているからこそできる芸当です。
しかしこの男がエマールに影響を与えた男でしょうか。
それは定かではありませんが、ブルーミという町の近くにこういう人がいる、と知れただけでも収穫でしょう。この顔がターゲットに選ばれたらすぐに来られます。
これ以上ここでできることもすることもありません。バレない内に帰るとしましょう。
そう思って出口の方に体を向けた瞬間、
「おい――」
「ひっ!?」
横から急に声をかけられて思わず声を出してしまいました。その驚きで隠密が解けてしまいます。
まさか陰なっている部分にもう一人誰かがいたとは思いもしませんでした。
それは相手も同じようで、横に顔を向けると、驚いている男と目が合いました。
当たり前ですが、ワタクシではなく祈っていた男に声をかけたようです。
「貴様どこか……いつの間に!?」
逃げるべきか何事もなかったかのように口封じをするか。
逡巡は一瞬でしたが、まさかターゲットでもなくてワタクシもなにもされていないのに殺すわけにはいきません。
出ようとしていたところなので体はすでに外へ向いています。
そのまま足を踏み出しましたが、
「待て! エリコ クーロ!」
魔法の発動の兆候もなく、突如として巨大な熱に背中を押されて洞窟から叩き出されました。
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