第97話
ドライアドから聞いた場所へ向かいます。
森で暮らす人々と聞くとやはりエルフ種の人達を思い浮かべますが、ドライアド曰くエルフではなく普通の人々だそうです。
曰く、この森に人が住みだしたのは十年くらい前から。マジラの日記から見てもタイミング的には合っています。
「方角は……間違ってませんわね」
神様から交換した正確無比なコンパスです。
ドライアドも自然の中で暮らす魔物ですから彼女が方角を間違えるとも思えません。
逐一、確認して進んでいても中々目的の集落が見えて来ないので不安ですが、彼女の言ったこととコンパスを信じるしかないでしょう。
しかしいつの間にか日も沈み始めています。太陽は山を挟んだ向こう側に沈んでいくようなので、暗くなるのが平地に比べて早いようです。
振り返ると、町もすでに日陰に入っています。
「綺麗ですわね……」
遠くの方はまだ夕焼けに染まっていて、オレンジ色の大地が綺麗です。
しかし景色を眺めているわけにもいきません。
月や星でも出ていれば夜でも多少は見通せますが、それでも大人しくするに越したことはありません。
ちょうど大きな木があったので今夜はここで休むことにしましょう。
ちゃんと観察し、トレントでないことを確認します。大剣で軽く小突いても反応がないので、ただの大木で間違いないようです。ジャンプで枝の上まで上がり四次元ポケットからハンモックを取り出して設置します。
こんな機会でもなければハンモックなんて使うこともないでしょう。
これで寝心地が良かったら島の木に設置してみますか。
リンゴや乾パンみたいな食べ物。火を使わず、調理もしないでそのまま食べられる物を取り出します。流石に樹上で料理するわけにもいきません。
カチカチのパンもリンゴと一緒に食べられれば中々美味しいものです。
そんなことをしている間にもうすっかり夜です。町にはまだ灯りが点いていますが、空や山までは届かず、見上げるといくつもの星が見られます。
昔のワタクシでは見る暇もなければ、見ようとすら思わなかった光景です。あの頃は仕事に忙殺されて将来どうしようとか、日々の楽しみだとかそんなことも考えられない毎日ですが。それが今では幼女の姿になってお嬢様言葉でターゲットを殺して回っているのですから。
当時のワタクシに言ったところで信じられないでしょう。
「……寝ますか」
星空というのはなぜだか人を感傷的にさせる不思議な力があります。どこかでフクロウも鳴いていて雰囲気もあるからでしょうか。
これでキャンプファイヤーでもあればいらないことまで考えてしまいそうです。
普段寝る時間にはまだまだ早いかもしれませんが、暗くなれば瞼も重くなります。風が吹くとハンモックも軽く揺れるのでそれもワタクシを眠りの淵へ誘いました。
しかし完全に眠ることはできず、ウトウトしつつ、そんな自分自身を自覚しているような不思議は心地です。
そのお陰か、異変にもすぐ気づくことができました。
「足音……?」
パキパキと枝を折りながら歩いている音です。
気を付けているようですが、それでも足音を完全には消せていません。他に大きな音がしているわけではないので、耳を澄ませば良くわかります。恐らく、気を付けているのも魔物に出くわさないか、という類の警戒でしょう。
ワタクシも、まさか人がいるとも思っていません。
足音は段々とこちらに近づいて来ています。この人物がワタクシの探している人であれば、こちらへ来るのも当然です。
すぐ近くまで来る前にハンモックから枝の上に移ります。
そして大剣を取り出し、右手で固く握ります。これで急に襲われても対応できます。
向こうはワタクシに気づいていませんが、それも近くまで来ればわかりません。見つかったところで実力的には負けることもないのでしょうが、それでも緊張してしまいます。
心臓はバクバクと鳴り、浅い呼吸は届いてしまいそうです。足音が近づくほどにそれらの音も大きくなり、真下を獲った時は聞こえているのでは、と思うほどです。
しかしワタクシの心配とは裏腹に、足音の主は潜んでいるワタクシの存在に気づかず、そのまま通り過ぎて行きました。
少し迷いましたが、今日はこのまま眠ることにします。
誰かがワタクシの向かう方向へ進んだということは、少なくともドライアドの言っていたこととワタクシの進んでいた方向は間違っていなかったということです。
「今度こそ寝ましょう……」
ほんの短時間で精神的にドッと疲れたのでしょう。
次は横になってすぐに眠ることができました。
「いた、いたたたた!」
朝は小鳥に顔を啄まれて目が覚めました。まさか動物に起こされるとは思いませんでしたが、昨日は早く寝たので目覚めはスッキリしていました。
四次元ポケットにしまっていた水筒の水を含み、軽くゆすぎます。
地面に下りて今日はコンロを使って簡単にスープを作ります。ガッツリとまでは言わずともお腹には入れておいた方が良いでしょう。
マジラはともかく、過去を消すために友人を殺すことも厭わなかったエマールの様子を見るに戦闘になったとしてもおかしくありません。
こんな山奥で暮らしているのも誰かに知られないためで、ワタクシの存在に気づいたら過去を消すために殺す、と言われそうな気もしますから。
野菜を多めにしたスープは体の隅々まで染み渡っていくようです。
食べ終わってしばらくボーっとし、
「いきますか!」
いったいどんな人達が待っているのか、ワクワク半分恐ろしさ半分です。
真夜中に出歩くような用事も少し気にかかります。
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