第99話
「ゲホッ! ガハ……」
弾き出されるように洞窟から吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられて頭は真っ白になりました。
今、いったいなにが起きたのか。
魔法が発動されたのは間違いありません。しかし魔力を中に留める魔法――身体強化の魔法でない限りは魔力の流れがあるものです。余程規模の小さい魔法でない限り、長年の戦闘の経験から感じられるようになっていました。
しかし今の攻撃からはそんな魔法の気配は感じられませんでした。それなのに、ワタクシを吹っ飛ばすほどの威力があったのです。
不可解で、なにが起きたのかわかりません。
魔石でも用意していたのでようか。中には魔力を溜め込む性質を持った魔石もあります。しかしそうだとしても魔力の流れが感じられなかった理由にはなりません。
「これは……どうしますかね……」
想像していた以上に厄介な相手なのかもしれません。
このまま帰っても良いのですが、これだけ強力な魔法を使う人は脅威です。もう少し情報が欲しいところ。
そしてなにより、急に攻撃を仕掛けて来るような男です。
見られて困るような儀式だったのでしょうか。そうだとしても、普通の人ならもう少し手順を踏むものです。
あの男がなにかをしでかす可能性は高いでしょう。
そうでなくとも、過去を消し去ることで救済を得られるという考えの人達です。その考えに共感して世界中で大虐殺が起こるような事態になれば、彼がターゲットになる可能性は非常に高いです。
せめてその能力の秘密くらいは知りたいものです。
大剣を抜き放ちます。
同じタイミングで、男が悠々と洞窟から出て来ました。祈っていた男は一緒でありません。
「まさかまだ生きているとは……。驚きだな」
「あなたは何者ですか? ここに隠れてなにをしていたのか、教えていただいても?」
男は鼻で笑いました。
「残念だったな、もう遅い。祭壇まで見られては生かしておけないんだ」
エマールの話と合わせて考えれば、祭壇さえ見られなければ教義を説き、仲間として迎え入れられる可能性があったということでしょうか。
しかし過去を消すために己のことを知る人々を殺しては、彼らの仲間内でも殺し合いが始まるように思えますが、エマールが過激なだけなのか。
ふと、そんなことを考えて頭の中からそれを追い出します。
彼らの考えにそこまで興味もありませんし、片手間で倒せるような相手でもなさそうです。
男が右腕を突き出しました。その腕にはびっしりと刺青が彫られています。
「ダル エリコ!」
腕の刺青が光ったかと思うと、男の手の平から炎が放たれました。しかしそれは炎ではなく、炎という言葉すら陳腐に思えるほどの業火が火炎放射器から射出されるかの如く次から次へと現れます。
避けても避けてもワタクシの後を炎は追って来ます。
木々を焼き、地面を焼いている音がすぐ後ろで鳴り響き、ワタクシを急かします。
止め処なく放たれる炎は森を焼いていき、あっという間にワタクシと男は炎に囲まれてしまいました。
それだというのに男の表情に焦ったようなところはまったくありません。炎の中でも涼しい顔をしています。
ようやく炎が途絶え、ワタクシに攻撃のチャンスが巡って来ました。
様子見のために戦っているだけですが、ある程度はダメージを与えて弱らせないとこちらがやられてしまいそうです。
魔力を足に流し、肉薄します。
「エリコ クーロ」
男がこちらに気づき、なにかを唱えたかと思うとワタクシの眼前で炎が爆発しました。
咄嗟に目を閉じましたが、攻撃のために準備していた大剣は防御に間に合いません。
一瞬の熱波。弾かれるワタクシの体。地面に打ち付けられ再度転がり、体全体が痛めつけられました。それ以上に、顔面が焼け付くようにヒリヒリしていました。
「くはぁ……はぁ……!」
「かわいい顔が台無しだな」
「あぁ……くそ、ですわ」
燃えているかのように顔が熱くて思わず我を忘れてしまいそうです。お嬢様言葉を忘れていない内はまだ冷静です。
男は明らかにワタクシよりも格上だと考えていて――事実、今のところは正しいです――ワタクシを笑っていて追撃はないようです。
顔に触れると、ピリリと痛みます。血も出ているようですがそれほどひどくはないようです。精々が顔に大火傷を負ったくらいでしょうか。帰ってから鏡を見るのが怖いですが、目は見えて声も出せます。
服は黒焦げになっていますがまだ服の体を成しています。
流石は神様製。服もワタクシも只者ではありません。
「モリ ダンナ エリコ」
「まったく……!」
男が唱えました。
すると、魔法陣が現れることもなく、小さな炎の弾丸が空からワタクシに向かって降り注ぎます。
咄嗟に大剣を盾のように構えますが、そのほとんどはワタクシの周囲に落ちて来ます。しかし大剣で防いだ数個の炎も、ズッシリと重たく、手が痺れてしまいそうです。
男は笑っています。ほとんどの弾丸はわざと外していたのでしょう。
「ほらよ! エリコ! エリコ! エリコぉ!」
叫ぶ度に炎が放たれ、ワタクシに迫ります。
これまでの攻撃と違って普通の魔法のようにただ炎が放たれるだけなので、大剣で打ち払うように防ぎます。
しかしこれまで現れる魔法陣を参考にして相手の魔法を判断していたので、こうして技名を叫ぶタイプの敵は初めてです。しかもその言葉がわからないのですから厄介です。
今はまだ、エリコが炎を意味していることしかわかりません。
「やってらんないですわ!」
エリコが唱えられたのは三回。三つの炎を防いだので今度はこちらの番です。
再び大剣を構えて接近します。
相手の攻撃はすべて技名を叫んでいます。男がなにか言葉を発したら避ける。それを徹底すれば先ほどのようなダメージは防げるでしょう。
「……火傷は冷やさなきゃな。レイ クーロ」
放たれた氷がワタクシの顔を正面から殴りつけました。
「まさか……」
氷の塊で殴られ、ワタクシの頭がグラつきます。しかしそれ以上の衝撃がワタクシを襲っていました。
まさか二つの属性を扱えるだなんて。
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実は異世界探索記の方と……。




