第100話
魔法の属性とはその人が生まれ持った気質のような物で、一人一つが原則、というよりかはそれが常識で例外はありません。ワタクシがこれまで出会って来た人達も全員、使える魔法の属性は一つでした。
それを目の前にいる男は二種類の魔法を使ったのです。
氷塊に頭を打ち付けられ、咄嗟のことに勢いを殺すこともできませんでした。しかし地面に手をついてすぐに起き上がります。
そんなワタクシへ向かって続けざまに放たれる氷と炎の雨。
別の属性の魔法を使うことは、魔道具を使えば可能かもしれません。
しかし男にはその様子もなく、限りある魔道具であればもっと温存するはずです。そしてなにより、
「デリ カーラ」
着地した瞬間に、雷が矢のように発射されました。
「まったく厄介ですわ!」
半身になって最小限の動きで躱します。
炎、氷に続いて雷属性の魔法まで。残り三つの属性も使えると考えるのが妥当でしょう。
第二、第三の矢が連続で放たれ、同時に炎が空から降って来ます。
どれだけ連続で攻撃されようと、一度見た攻撃でそれを警戒していれば避けるのは簡単です。右に左に動いて男の狙いを逸らし、少しずつ近づいて行きます。
最初から当てる気がなかったとしても、こうも当たらなければ男にも苛立ちが募っていきます。
段々と狙いが狭くなっていき、本格的にワタクシを狙っているのがわかります。
初めこそ予兆のない不可解な魔法。いくつもの属性を使ってくることに戸惑いましたが、慣れてしまえばどうということもありません。
男が魔法を放つ度に腕の刺青が光っているので、それが仕掛けであるのは間違いないでしょう。
タネがわかって心構えができていればどうということもありません。
「エリコ ク――がはっ!」
その呪文さえわかれば防ぐことも可能です。
ギリギリでしたが顎を殴って呪文の詠唱を止めることができました。
魔法とはイメージが物を言う技術で、普通の魔法であればイメージさえできていれば途中で殴られたとしても発動することは可能です。しかしこの男の場合、イメージを呪文に頼っていたのでしょう。口を閉じさせれば魔法も止められます。
必勝法らしきものを見つけて思わず高揚してしまいました。
大剣を四次元ポケットにしまい、拳を握り締めます。
「舐めるな!」
男の拳がワタクシに迫りました。
それを受け止め、代わりに腹を殴ります。くの字に折れ曲がって下がって来た顎を回し蹴りで蹴り飛ばし、地面に転がった男の腹を再度蹴ります。
身体強化の魔法を使わずともワタクシの体はこれくらいのアクロバットならお手の物です。
この男は身体強化をしていたでしょうか。していなければ瀕死でしょう。
うつ伏せになった男の背中を踏みつけて動けなくします。燃え盛る炎の中で顔に火傷を負いながらそうする姿は少し格好いいです。
「こんな所で隠れてなにをしていたのか、教えていただいてもよろしいですか?」
「てめぇ……何者だ!?」
「何者でもありません。そうですね……今は本当に関係ない、ただの興味でここに来ているだけですわ」
「そんな……」
将来ターゲットに選ばれるかもしれませんが、今のこの男はただ洞窟でコソコソなにかをしていただけで具体的になにをしたわけでもありません。
そしてマジラとエマールの日記から恐らくそうだろう、と思っていますが、彼がエマールに変な教えを説いたと確定したわけでもありません。
そしてワタクシがここに来たのも本当にただの興味です。
襲われたので抵抗しただけ。いきなり攻撃をしてきたこの男にも責任があるとは言え、彼からしたら通り魔に襲われたような心地でしょう。
考えてみればとんでもないことです。
しかしスリットのような世捨て人でもない限り、大いなる力を求める者はなにかをしでかすと相場が決まっています。
それならこの男も因果応報でしょうか。それは少し暴論すぎますね。
「で、なにをしていたのか教えていただけますか? 今の所は無関係なのでなにかするつもりはありませんよ」
「……神降ろしの儀式をしていたんだ」
観念したのか、男は答えてくれました。
「神降ろし、ですか……」
「そうだ。ナザに神の力を宿してこの世界を救済するんだ。それが俺達の使命だ!」
「ナザとはあそこにいた男の人ですよね? 世界を救済するだなんて……」
その時、ワタクシの周囲で燃え盛っていた炎の半分ほどが一斉にかき消されました。洞窟側の炎が消され、そこに立っていたのは祭壇に向かって祈っていた男――ナザでした。
神様と直接相対したワタクシとしては、本当に神様の力をあの男が宿しているとは思えません。しかし、なにがしかの力を宿しているのは確かでしょう。炎をかき消したのがなによりの証拠です。
一歩一歩、こちらへ近づいて来ます。
「先生を離せ!」
瞬間、ワタクシの周囲を魔法陣が取り囲みました。
これまでこの男の呪文による攻撃にばかり注意していたので、魔法陣に対する反応が一瞬遅れました。
脱出が僅かに間に合わず、足が岩で固められてしまいます。それを急いで砕きます。
「いいぞナザ! エリコ カーラ!」
男から放たれた炎の矢をかき消し、再び現れた魔法陣から放たれる雷も躱します。
まさかナザまで複数の属性を操るのでしょうか。
それでも、魔法の予兆がわかるだけ戦いやすいです。
「これは本格的にヤバいかもしれませんね……」
世界を救済するという言葉に嫌な予感がします。
この二人は十中八九ターゲットに選ばれるでしょうから、今、少しでもダメージを与えておきたいです。
足の一本でも折ってしまいましょうか。
地面に現れたいくつもの魔法陣。そこから氷の柱が何本も生えました。そしてその間を縫うように水が流れて来て、押し流されそうになってしまいます。氷柱に上がれば今度は雷です。身体強化の魔法を使って雷を耐え、いざ反撃と思えば岩石と氷の塊がワタクシを撃ち抜いていきました。
「けふっ……本当に……!」
二人とも使う魔法が強力ですが、なによりも連携が取れています。
片方の攻撃を防げばその隙にもう片方の攻撃が。こちらが攻めに転ずれば防御と迎撃に分かれる。
言葉も交わさずによくもまぁ、これだけの連携が取れるものです。
小石を蹴り飛ばして男を怯ませます。暗闇の中では小さい石は見えなかったでしょう。
軽く仰け反った男に仕掛けようと踏み出したワタクシの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がりました。範囲外に逃げようとしても、ナザ達までも巻き込むほどの大きさで横には逃げられません。ジャンプをして避けるも、魔法陣が輝きました。
バキバキと音を立てながら地面が凍り付いていき、それは横から縦の動きに変わりました。
「やられましたわ……」
結局、彼ら二人に対してワタクシはなにもできませんでした。
「氷漬けだな……モリ レイ」
男の言葉と同時に魔法陣も新たに浮かび上がります。
悔しいですが撤退するしかないでしょう。
「やっぱり……」
家に帰ると、手配書が何枚も吐き出されていました。
それを一枚一枚貼り付けていき、最後に残った二枚に今見たばかりの顔がありました。
ナザ・マクスとコンロー・マクス。二人合わせて二千ポイント。とんでもない化け物が現れたものです。
しかし、
「ワタクシ一人ではどうしようもありませんね……」
なにか手を考えなければいけません。それも早急に。
記念すべき100話の大台!
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