第95話
ここ最近のワタクシはターゲットの手配書が溜まったら一気に片付け、それが終わると二週間から一ヵ月くらいはなにもせずにだらける、という生活をしていました。
何度繰り返したかわからないそんな生活サイクルを相も変わらず続けています。
そんな時です。
「これは……もしかして……!」
お休みの期間はいつも、畑の世話をして本を読んで、楽器の練習。たまーに池に糸を垂らして魚を釣っています。
しかし今回の休みは、家に置いてある本の量を見誤っていました。買ったまま読んでいない本を読んでいましたがこれが意外と少なく、早々に読み終わってしまったのです。
それでもそれ以外のことをする気が起きず、かと言ってもう一度読もうと思う本もない。
半分くらいは思考停止した状態で、マジラとエマールの日記を開いていました。
仕事が忙しくなるかも、と思って事前に情報を入れようとしていましたが、エマールのハマっていた宗教らしき気配を感じることもなく、危機感はほとんど消えていて日記もしばらく開いていませんでした。最後に読んだのがいつかも思い出せません。
思い返せば二人の日記を読むよりも釣りでもしていた方が生産的だったでしょうが、こんな偶然もあるものです。
今までは町の名前にしか注目していませんでしたが、なんとなく流し読みしていると、具体的な地名が出て来ないまでも、どこか似通った景色が流れているのに気づきました。
読み進めると、そこは集落とかでもなく、数人が固まって暮らしている場所のようです。
マジラの方はそこを訪れて話をした、と。
エマールの方はそこの人達が面白い話をしてくれた、と。
無関係とは思えません。時系列で考えても、マジラが己の考えをその人達に伝え、それに共感した人達が後に訪れたエマールに伝える。不自然はありません。
「さてと……どうしましょうか」
と口に出してみたものの、答えはもう決まっています。
元々、読む本がなくて暇で暇で手を出した二人の日記です。ほとんど諦めていたのに手がかりを与えられては、釣りなんかしている暇はありません。
「たまにはキャンプをしてみるのも良いですわね」
地名がついていなくて百人にも満たないような集落です。泊まる場所があるとも思えませんし、ワタクシの目的を考えたらコソコソと調査する方が良いかもしれません。
しかしエマールの日記にある日付から数年が経っているのでもう少し発展しているでしょうか。
どちらにせよ、近くにある地名から場所を推測するしかありません。
目指す場所はムスタファ帝国です。
帝国と聞くと、絶対君主が上から押さえつけているような冷たい印象を受けていましたが、実際に行ってみると全然そんなことはありませんでした。
帝国と王国で似たような物ですが、ヨーデルヒン王国とそう変わりません。
それでも、王国の方が優しい感じがするのはなぜでしょうか。
この間訪ねたヨーデルヒン王国は優しさとは正反対と言っても良い女王様でしたが。
マジラの日記でもエマールの日記でも、このムスタファ帝国にいる間に件の集落を訪ねたと書いてあります。
ある町とある町の間でそこに行ったとありますが、二人の訪れた町は共通していませんでした。
とりあえず、その四つを結んで中心にあるブルーミという町に来ました。
ここが目的の集落ではないですが、とりあえずこの町を拠点にして調べることにします。
そして情報を得るとなればやはり冒険者ギルドです。周辺の地理を調べるついでに適当な依頼を受けてみるとしましょう。
ギルドに入ると中にいた冒険者の視線が集まります。これはどこのギルドも変わりません。
冒険者として動く時は、そうだとわかりやすいように大剣を背負うようにしています。豪華なドレスと大剣はミスマッチですが、堂々としていればなにも言われません。冒険者なんて誰も一癖二癖あるような人達ですから。
最初に向けられた視線も堂々と奥へ進めばいずれ消えるのですが、ここに来るのは初めてなのでしばらく観察されたままでした。
冒険者らしく見えないでしょうからそれも仕方ありません。
掲示板に貼ってあるのは魔物の討伐が主です。目的は周辺の散策なので護衛依頼は省きましょう。目的に沿うのであれば薬草採集なんかが良いのでしょうが、それでは報酬が安すぎるので少し気が乗りません。
悩んだ末に選んだのは、ドライアドの討伐です。
ドライアドとは植物型の魔物で、木のような魔物であるトレントと共生関係にある魔物です。こちらから手を出さない限りは基本的に無害な魔物ですが、たまに狂暴化して人を襲うことがあるので今回もそんなドライアドでしょう。
それほど強い魔物でもないですが、依頼をこなすのに時間を取られてもいけませんのでコレくらいが丁度良いでしょう。
掲示板から依頼書を剥がし、受付に渡します。
「えっと……初めまして、ですよね? ドライアドですが大丈夫ですか?」
むやみやたらに慰霊を受けさせて冒険者に死なれては困るので、ギルドはたまに依頼を受けさせるのを渋る時があります。
特にワタクシは子供の姿なので、こうして実力を疑われることも慣れたものです。
そういう時は、
「貯金でも確認してみてください。判断基準にはなるでしょう」
「……なるほど。当然ですがただの子供ではないですよね」
依頼もそこそこ受けているので、それなりの貯金はしてあります。それらすべてが冒険者の依頼によって受け取った報酬ではありませんが、ほとんどはそうです。
依頼以外でもお金は稼げますので絶対の基準ではありませんが、少なくともそこら辺の子供が持てるような金額ではありません。
それを持っている時点で、ワタクシが只者ではないことが職員にも伝わったようです。
「ドライアドくらいなら死ぬことはないですね。気を付けてください」
「ありがとうございます」
これがもしもドラゴンとかであれば流石に断られていたでしょう。
しかしドライアドであればそう簡単に死ぬこともないので、無事に依頼を受けることができました。
これが目的ではありませんが、一安心といったところです。
新章突入です!
これが最終章になる予定ですのでこれからどう締めに入るのかお楽しみに。




