第93話
二階から上は王族やそれに近い人達の居住区のようです。
確かフィリアは結婚しておらず、一人娘だったはずなので王族はフィリアだけでしょう。
ここまで考えて、ワタクシがフィリアを殺してしまえばヨーデルヒン王家が途絶えてしまうことに気づきました。
普通ならこういうことに備えて子供は何人も作ると思いますし、一人娘であれば早々に婿を取るでしょう。それをしなかったのかできなかったのか。先代王が亡くなっている今ではわかりません。
そしてやっぱり、それでワタクシのやることが変わることもないのです。
上の階へ続く階段にはやはり警備の兵士が立っていましたが、隠密を使って素通りします。簡単にどこへでも行けて楽ではありますが、やはり面白くないです。
ターゲットを殺していくのはワタクシの仕事ですが、それが作業になってしまうと、ただでさえ面白くもない仕事が途端につまらなくなってしまいます。
案外、戦闘の時が楽しいものですから困りものです。
なんとなく予想していましたが、やはりフィリアは二階にはいませんでした。
賓客と会うような玉座のある間。何十人と並んで食事ができそうな広い食堂と、そこに併設されている調理場。その他いくつかの部屋。
三階へ続く階段にも同じように兵士が。その横を素通りします。
二階と同じように三階もいくつかの部屋が並んでいるだけでした。
しかし、ある一つの部屋の前にだけ兵士が立っていて、そこにフィリアがいるのは明らかでした。
その他の部屋の前には誰も立っていません。
フィリアの他に守る王族はおらず、今日ここに大事な客が来ていることもありません。まさかこの国でフィリアよりも優先して守るべき要人はいないでしょう。
さて、どうしましょうか。
と、考えてみたところでやることはかわりません。
扉の左右にいる兵士達の間に立っても、二人に気づく様子はありません。大きく息を吐いて気持ちを整えます。ここから先は仕掛けたら休む間もないでしょう。
隠密はこちらからなにか仕掛けなければ目の前に立っても気づかれません。その間、集中し続けなければいけませんが、それを補って余りある効果です。
不意打ちでもなんでできますが、あえて二人の目の前で隠密を解きます。
「なっ!?」
「どこから現れた!?」
身長の関係で頭を掴むことはできませんが、それぞれの腕を取り、思い切り引っ張ります。
「「ぐぁっ!」」
頭と頭がぶつかり合い、二人揃って同じ声を上げて崩れ落ちました。
ここからは時間との戦いです。
誰にも見られてはいませんが、二人の悲鳴を誰かに聞かれたかもしれません。目で見える所にはいなくとも、王女様がいるわけですからどこに兵士がいるかわかりません。
なにより、
「大きい音がしたけどどうかした?」
と、部屋の中から声が聞こえてきました。可愛らしい女の子の声です。
ここでなにも返答せず、隠密でやり過ごしても訝しんで部屋の外を見れば、気絶している兵士に気づきます。兵士を片付けても、警備がいなくなればそれもまた異変です。
気づかれてしまっては仕方ありません。静かに扉を開け、中に入ってしめます。
勢い良く飛び込んでしまってはワタクシが賊であると一目でわかってしまいます。そういう見た目ではないからこそ、あえて堂々と入って行きます。
夜、女王の部屋に賊が侵入するのはある意味では想像ができますが、ドレスを着た少女が入って来るのは想像外でしょう。
「えっと……外に兵士がいたはずだけど……」
「ごめんなさい。全員気絶してもらっていますわ」
ワタクシの一言で女王様は状況を察したのでしょう。しかし一度こうして対峙してしまうと、悲鳴を上げるタイミングを逃してしまいます。
部屋に賊が飛び込んできた瞬間に勢いのまま悲鳴を上げるのは簡単ですが、改めて悲鳴を上げようと思って大声を出すのは難しいものです。
女王様らしく広い部屋です。女性らしくかわいらしい部屋。
タンスの上や壁にはいくつかの芸術品が飾ってありますが、流石に普段生活する部屋に過激な芸術品は置いていないようです。
その部屋でも一際大きなベッドにフィリアはいました。
布団の中に入っていても上体は起こし、本を広げています。
「あなたは何者?」
「女王様を殺しに来ましたの。――できれば誰かを呼ぶのは控えていただけませんか?」
息を大きく吸い込んだので機先を制します。
誰かを呼ばれたところで問題はないでしょうが、面倒なのを避けられるに越したことはありません。
「……一応伝えておきますが、ゴグドグ王国にいたダンダはワタクシが殺してしまいました」
フィリアは目を大きく見開きました。
「兵士もそれなりに殺してしまったので撤退させるのが吉でしょう。ゴグドグ王国を見逃していただけるならワタクシも今日の所は見逃そうと思いますが」
フィリアがターゲットになったのは恐らくゴグドグ王国に攻め入るから。
それをしないのならワタクシが彼女を殺す理由はありません。
しかし、
「それは無理な相談ですね。亜人がすぐ隣に暮らしていると想像するだけで虫唾が走ります。他の人達はどうして耐えられているのか……。ところであなたはドワーフなんですか?」
「違いますが今はドワーフ側と言っても過言ではないですわ」
「そうですか……。それでは敵同士なんですね」
「残念ながら、そういうことになってしまいますわね」
フィリアは本を閉じました。そしてゆっくりベッドから下ります。
寝間着にカーディガンを羽織っているだけで武器を持っている様子はありません。魔法でも使えるのでしょうが、抵抗は高が知れています。誰かを呼ばれたとしてもここまで近づけていればすぐに殺せます。
最期ですし少しは自由にしてあげましょうか。せめてもの慈悲です」
「……そうそう。あなた、その喋り方やめた方が良いわよ」
「理由を聞いても?」
「品がないですよ。どうせあなた平民なんでしょ?」
顔が熱くなるのを感じます。
その瞬間、
「ルークス!」
フィリアが誰かの名前を叫び、ワタクシは顔の熱も忘れて飛び掛かりました。
魔剣ムスニアを取り出し、フィリアの喉元目掛けて突き出しましたが、ワタクシとフィリアの間に水の壁が現れて視界が塞がれました。
一瞬ワタクシの動きが止まり、その隙に部屋に誰かが飛び込んで来ました。
あけましておめでとうございます!
1月2月で完結するかと思いますのでぜひ応援よろしくお願いします。




