第90話
飛び掛かり、大剣を振り下ろします。身体強化の魔法も込みで、大地を割りかねないほどの一撃です。
それをダンダは寝転がったまま、剣で受けます。
ガギン、と大きな音を立てワタクシの剣は受け止められてしまい、すぐにダンダから飛び退きます。その瞬間、ダンダの蹴りがワタクシをかすりました。
受け止められること自体は、ダンダの実力がスリットに近いのであれば驚くことはありません。それが想定できていれば、その後の反撃が来るのも想像に難くないです。
驚くべきは、ワタクシの一撃を受けても折れることのない剣です。
ワタクシの大剣と比べると、ダンダの剣を四本並べてようやく幅が並ぶくらい。ワタクシの大剣が普通の剣に比べて幅広なのを加味しても、ダンダの持つ剣は細身です。
やはり優れた鍛冶能力を持つドワーフを相手にするために、相当な装備を整えたのでしょう。
身に着けている鎧も、ワタクシの一撃を食らって傷が付くだけ。
「まさか、ドワーフ製の剣と鎧ですか?」
「馬鹿にするな! 我々人類が劣等種なんかの汚れた道具を使うわけがないだろう!」
「……筋金入りですわね」
ちょっとした興味で聞いたつもりでしたのに、返って来たのはものすごい剣幕。藪をつついて蛇を出したような気分です。
しかしこれだけ怒るのであれば、ドワーフ製の武器を使ってはいないのでしょう。
差別意識だけを燃料にドワーフに匹敵しかねない金属製品を作り上げるとは。何事も極めることは大切ですね。差別は別としまして。
気を取り直して攻撃を再開しようとすると、頭上に魔力の流れを感じました。
見上げてそこに魔法陣が現れているのに気づいた直後、巨大な岩がワタクシを圧し潰そうと落ちて来ました。
それは大剣で両断して事なきを得ましたが、その隙にダンダがワタクシへ迫っています。
合体魔法の手間を考えればワタクシとダンダの戦いに割り込まれることはないでしょうが、ワタクシが足を止めれば巨大な魔法が襲い掛かって来るでしょう。そうでなくと、個人個人の魔法であれば僅かな隙にでも捻じ込めそうです。
いよいよ増援が集まり始めたのを感じ、敵陣で戦うことの厳しさを感じ始めました。
そしてそんなことを考えながら勝てるダンダではありません。
鋭い剣戟にいよいよ対応できなくなってきて、ダンダの一閃を防ぐことができませんでした。
必死に頭を下げて躱し、髪の毛が切られるのを感じます。そして屈んだワタクシの眼前に迫るダンダの足。受け止め、勢いに合わせて体を反らして威力を殺します。そのまま魔力を漲らせ、かかと落としを耐えます。
再び視界が明滅しました。
「くぅ……」
「やるな」
「それは……どうも!」
大剣で薙ぎ払いますが、それは容易に躱されてしまいます。
そしてダンダが後ろに下がってワタクシから離れたので、炎やら土やら氷やら、種々様々な魔法がワタクシへ降り注いで来ました。
「合体魔法よりこっちの方が良いのではなくて?」
それこそ雨あられのように降り注いでいます。
これを止めるには発動者を一人一人倒して回るよりも、ダンダを巻き込んでしまう方が早いです。
雨あられのようでも実際には雨でもあられでもありません。実際に人が見て、ワタクシを狙って魔法を放っているので、避けるのは難しくても不可能ではありません。
少しくらいなら食らっても、と開き直っているのもあります。
様子を見ていたのか息を整えていたのか、手を出して来なかったダンダもワタクシが迫るとついに動きました。
魔法の雨が止んだ次の瞬間、ワタクシの大剣とダンダの剣がぶつかり合います。
鍔迫り合いになると地力で劣るワタクシが不利なのはスリットとの戦いで学んでいます。なので一撃一撃でダンダの剣を弾いていくような、そんな打ち合いです。
しかし小回りの差で段々とダンダの攻撃に対応できなくなっていき、ついには形勢逆転されました。
が、ここまでは想定内。
四次元ポケットの便利なところは、どれだけ物をしまってもいっぱいになることはない、その容量にありますがそれよりも、どこでワタクシの思った場所に開けるということでしょう。
しまえる物はワタクシの物。離れた位置には開けない、という制限はありますが、それはさしたる問題ではありません。敵の足元に開いて途中で閉じ、敵を真っ二つに、なんて芸当はできませんが、そもそもそれを期待してこの能力を交換したわけではありません。
しかしどこでも開けるのでやろうと思えば攻撃の度に武器を入れ替えて、なんてことはできます。
面倒なのでそれをしないだけです。
閑話休題。
ダンダの剣が迫り、振り切った状態の大剣は防御に間に合いません。いくら力を付けて片手でも扱えるようになったとは言え、やはり武器の重さはあります。
しかし瞬時に四次元ポケットを開いて大剣を放り込み、魔剣ムスニアと持ち替えます。
ナイフのように小さい魔剣ムスニア。大剣との重量差は比べるまでもありません。
それこそ一瞬で腕を引き戻し、迫っていたダンダの剣を弾き返します。
再び形勢逆転。
小回りの話で言えば、体も小さくて武器も小さい。そして重たい鎧を身に着けていないワタクシが身体強化の魔法を発動し、ダンダに後れを取る道理がありません。
「くそっ……くそっ……!」
ダンダが悪態を吐いてしまうのも己の劣勢を感じているから。劣等種と蔑んでいるドワーフに負けるわけにはいかないのでしょう。まぁ、ワタクシはドワーフではないのですが。
魔剣ムスニアで切りつけ、それをダンダが剣で受け止める。
魔力がそれほど多くないワタクシは、身体強化の魔法を使って戦うと制限時間が付いているようなものです。流石に三分間とは言いませんが、それでも早く決着をつけなければなりません。
次第に攻撃は鋭さと激しさを増していき、それに伴ってダンダの表情も険しくなっていきます。
そしていよいよ、その時が来ました。
ワタクシの攻撃を受け止めたダンダの剣が、甲高い音を立てて折れました。
「なっ!?」
まったく予想だにしていないことが起きたのでしょう。ダンダの動きが止まりました。しかしワタクシはこうなることを期待し、待っていました。
細めの剣でワタクシの大剣を何度も何度も受け止め、無事で済むはずがありません。
飛び掛かりつつ放った渾身の一撃を受け止められた時から、こうなることを期待していたのです。それがなければ簡単に折れたりはしなかったでしょう。
動揺は一瞬でしたが一瞬あれば十分です。
兜を吹き飛ばすほどの力でダンダの顎を殴り飛ばします。続けて膝を蹴りつけて地面に膝松かせます。そのまま後ろに回って喉元に魔剣ムスニアを突き立てようとすると、その手が掴まれ、残った手でワタクシのドレスが掴まれました。
しかしそれだけ。ワタクシを捕まえる以上の効果はありません。ですが、
「俺ごとこのドワーフの女をやれ!」
「流石ですわね」
すぐさま自分を犠牲にできるダンダの判断にも、それに異を挟むことなく瞬時に行動に移せる兵士達にも脱帽です。
足元には一瞬で巨大な魔法陣が浮かび上がっていました。
しかし、
「ここまで来れば十分です」
魔法陣が消えて巨大な火柱が上がるその寸前で、ダンダを連れてテレポートでワタクシの島に逃げました。
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