第89話
テントの入口に垂れていた布を、大剣を一閃して切り落とします。
ワタクシの肉体を考えると、中に入ろうと布を持ち上げたその隙に一撃入れられても大丈夫でしょうが、念を入れて悪いことはありません。
広々としたテントの真ん中には大きなテーブルが置かれ、ここいら一帯の地図が広げられていました。駒のような物が置かれているのを見るに、作戦会議かなにかをしていたのでしょう。それ以外にはいくつかの剣と丸められた寝袋のような物が置いてあるだけで、ダンダが休む場所兼司令部。どちらかと言えば司令部が主なテントでしょう。
もちろん、テントの様子は後から観察したもので、最初に目に入ったのはテーブルの向こうで腕を組み座っていたダンダの姿でした。
座っていてもわかる大きな体。銅像かの如き重厚さです。
テントの警護をしていた二人と同じようにカッチリ鎧を着込み、顔まで隠れる兜まで。
二人に比べると少しだけですが装飾が施されています。本当に僅かで、他の鎧と区別をつけるためだけの装飾みたいでした。
「ダンダ・アリギリですか?」
「そうだ」
ほとんどそうだと確信はしていましたが、間違っていなくて一安心です。
改めて大剣を構え直します。
「あなたには恨みはありませんが……失礼しますね」
「させると思うか?」
「力尽くにでも」
会話が途切れた瞬間、テーブルがこちらに向かって飛んで来ました。
ダンダによって蹴り飛ばされたのだと理解すると同時に、大剣で真っ二つにします。テーブルの向こうにはすでにダンダの姿はありませんでした。
真っ二つにした右側のテーブルから剣が突き出て、それを寸でのところで防ぎます。
良い反応で自分のことながら褒めてあげたくなります。
その突き出た刃を蹴り折りましたが、剣はそのままテーブルを切り裂き、ダンダの姿が見えたかと思えば刃の折れた剣が投げつけられました。
それを弾き飛ばした隙にダンダは後ろへ下がり、壁に立てかけられていた剣を手に取り、鞘から抜き放ちます。
「やりますわね……!」
「ドワーフに負けるわけにはいかないからな」
「だからドワーフじゃないと……!」
踏み込み、一閃しますが、大柄な体格からは想像できないような身のこなしで躱されてしまいました。
振り下ろされた剣を左手のガントレットで受け止めると、次の瞬間、ワタクシの腹に衝撃が。
「ごふぁっ!」
一瞬、視界がチカチカと瞬きました。
次に真っ暗になりましたが、それは蹴り飛ばされたワタクシがテントを巻き込み、視界を塞がれたからでした。
テントを切り裂いて脱出しようかと思いましたが、それよりも先に身体強化の魔法を発動し、テントをまとったまま無理矢理地面を転がります。
一拍遅れて、なにかに引っかかるような感覚。
そこで初めて大剣を四次元ポケットにしまい、代わりに取り出した魔剣ムスニアでテントを切り裂いて外へ出ます。
見ると、地面に突き刺した剣をダンダが抜くところでした。
あのまま脱出を優先していたらワタクシは串刺しだったでしょう。
ワタクシの勘に感謝です。
一先ずダンダから距離を取ります。
蹴られた腹がズキズキ痛み、一つ判断を間違えていれば一巻の終わり。それを考えると鼓動も早くなります。
苦戦をするのはスリット以来。しかしスリットとの戦いは互いに相手を殺すことは考えていませんので、こうも死を間近に感じるのは初めてのことです。
これまでワタクシに殺されたターゲットも同じような心地だったのでしょうか。
「一種の因果応報でしょうか」
そうだとしてもここで殺されるつもりはありません。
ワタクシは死に、そこで神様に目を付けられて転生したらしいですが、自分の死の瞬間のことは覚えていませんし興味もありません。
ただ、もう死んでたまるか、という気持ちだけはあります。
なので、これまでターゲットを散々殺してきたワタクシが同じように殺されるとしても、それは今ではありません。
四次元ポケットから大剣を取り出し、魔剣ムスニアをしまいます。
「それは……」
「ワタクシだけの秘密の能力ですわ」
心のどこかで油断していたので、気持ちを切り替えます。
まだ蹴りを一発食らっただけで、悲観するような事態ではありません。
ダンダがスリット並みに強いのであれば、スリットと戦う時のようにやるだけです。幸い、スリットとの戦績は二戦二勝。今回も負ける道理はありません。
気を引き締めたかと思うと、ダンダが何気ない仕草でなにかを放り投げました。
鼻をかんだチリ紙をゴミ箱へ捨てる時のような、本当に何気ない動作です。お陰で反応するのが遅れました。
投げられた物が爆発したのと同時に、ワタクシはそこへ飛び込んでいました。
大剣を突き出すと、同じように向こうも突き出していたのか金属と金属の打ち合う音が。しかし武器の重量さではワタクシが勝っていますのでそのまま押し込みます。すると剣先に重たい感触が。
爆炎を抜けると同時に切り払います。しかしその感触は期待していた物ではありませんでした。
大剣を振り抜いた体勢のワタクシに切りかかるダンダ。その鎧には今つけた傷が薄くついているだけでした。
剣を受け止め、先ほどのお返しに蹴りつけますが、巨木を蹴ったかのようにダンダはびくともしません。逆にこちらの足が痺れたくらいです。
蹴った足首を掴まれましたが、その瞬間に身体強化の魔法を発動し、掴まれた蹴り足を軸足へと変え、ダンダの側頭部を回し蹴ってやりました。
「ぐぅ……!」
よろめき、ワタクシの足を手放すダンダ。
ここで攻撃の手を緩めるわけにはいきません。
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