第81話
まさか首を自分で噛み千切って脱出するとは。再生できるからこその芸当です。
捕まえたとしてもこうして逃げられるのであれば、湖から引っ張り出すということは不可能でしょう。しかし底まで潜って持ち上げるわけにもいきません。
ヒュドラは想像していた以上に厄介な相手なようです。
どうやって倒そうかと考えている間にもヒュドラの攻撃は続いていました。その度にはじき返して切りつけて、それでもヒュドラの攻撃の手は止みませんでした。
ヒュドラにやられることはないでしょうが、このままだといつまでも戦いは終わりません。
しかしなにができるかと言えば、やれることは一つだけです。
「力でゴリ押し、ですわね……」
結局のところはそれに尽きます。
再生力が失くなるまで攻撃をし続けるだけです。再生の要となる核があるならその途中で破壊できるでしょう。
こんなに泥臭い戦いいつぶりでしょうか。力量差でゴリ押しなんて初めてかもしれません。
タイミング良く噛みついて来たヒュドラの頭を踏みつけて攻撃開始です。
頭を切り落とし、再び首を駆け上ってヒュドラの胴体へ。攻撃をするにしろ核を破壊するにしろ、胴体の上の方がやりやすいのは間違いないです。
「そういえば」
再生力に気を取られて忘れていましたが、このヒュドラはターゲット。トドメを刺す時には魔剣ムスニアを使わなければなりません。
四次元ポケットから取り出し、左手に持ちます。
ワタクシの体格以上の大きさがある大剣ですが、もう自分の腕とほとんど変わらず、片手で扱うことも簡単です。
左右の剣を使ってヒュドラの首を裂いて行きます。
そして再び胴体に辿り着くと、首を一本。また一本と切り落とします。次から次へと新たな首が生えてきますが、それもまた再生しきるよりも早く切り落とします。
こうして首を落とし続ければ噛みつきやら水流やらの攻撃はされないことにようやく気付けました。
これならば安心して攻撃を続けることができるでしょう。
首を落とし、余裕があれば体にも傷をつける。ただただその繰り返しです。
その時、再びヒュドラを中心とした巨大な魔法陣が現れました。
「わかっていましたわよ!」
すぐさま大剣を突き刺し、柄を強く握ります。そして息を大きく吸い込んだ瞬間、巨大な水柱が立ち上りました。
突き刺した大剣も、ヒュドラがそのまま再生したことでガッチリと固定されています。突き上げるような水流も、大剣をしっかり握っていればなんとか耐えられます。
さっきよりも少しだけ水柱の時間が少なかったように感じます。
「魔力が少なくなっているのですか、ね!」
思い切り大剣を引き抜きます。
何度も何度も九本の首から水流を吐き、二度の巨大な水柱。
これだけやっても尽きることのない魔力とは脅威ですが、それでも無尽蔵ではないようです。
再生力も魔力由来の能力であれば、ヒュドラの魔力を尽きさせれば再生はできなくなるはずです。
「厳しいですわね……」
水柱の効果時間が短かったのは気のせいかもしれません。魔力が流れ込むこの湖では魔力の回復も通常より早いかもしれません。
それでもやる価値はあります。
そもそも再生するよりも早く攻撃しようなんてことが無茶なのです。これ以上の無茶を重ねるとして問題ないでしょう。
魔力が尽きるまでどれくらいの時間がかかるかはわかりませんが、毒はワタクシには効きません。
後はワタクシの体力と腹具合だけです。
「では……我慢比べですわ!」
どれだけの時間が経ったでしょうか。ヒュドラと戦い始めたのは昼間でしたがもうすっかり夜です。
随分と前からワタクシはランナーズハイにも似た興奮状態になっていました。
そんな状態になってからヒュドラの動きが先の先まで手に取るようにわかるようです。そしてこの状態はいつまで経っても途切れる気配がありませんでした。
「ギャアアアアアアア!」
「あなたも疲れているんですの?」
ヒュドラの動きが鈍っているように感じているのは、ワタクシがそんな状態だからでしょうか。
今も、後ろから迫って来たヒュドラの頭を振り向きざまに両断したところです。
これならいつまででも戦えそうですが、ヒュドラには早く力尽きて欲しいものです。
屋外ですからそれほどの影響はないのかもしれませんが、ヒュドラは呼吸するだけで周囲の空気を汚染していきます。時間がかかればかかるほど被害も広がっていくでしょう。
そしてなにより、ワタクシが依頼を受けているのに他の冒険者がやって来ることでした。
きっと冒険者ギルドにしてみればヒュドラが倒せればなんでも良いのでしょう。いくら去年の武闘大会で準優勝したワタクシでも万が一ということもあります。依頼を受けたい冒険者がいれば受けさせるのも仕方のないことです。
戦いの最中にやって来た冒険者はもちろんワタクシを助けに入ろうとしましたが、毒で倒れるか、すぐさまヒュドラに丸呑みにされるかのどちらかでした。
自分の実力もヒュドラの特性もわかっていない冒険者に同情はしませんが、少しでもその被害も減らした方が良いに決まっています。
「終わらせましょう!」
残り少なくなっている魔力を振り絞ります。
当たり前ですがヒュドラが動く度に揺れるヒュドラの体の上も慣れたものです。
右腕に魔力を集中させて体表を一閃。パックリと開いたその傷の中に体を滑り込ませてもう一閃。
傷の中から更に傷を作るなんて、我ながら外道なことをしています。
こんなことができるのも、ヒュドラの再生速度が見るからに落ちていたからです。ワタクシがすっぽりヒュドラの体に入っても、数秒経ってようやく最初の傷が閉じようとしていました。
完全に閉じた傍から再び切り裂いて体表に出ます。
なだらかに、段々と再生速度が落ちていくものだと思っていましたが、急にガクンと下がってワタクシもビックリです。
「これは、思っていたよりも早く終わりそうですわね」




