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異世界ポイント生活 ~幼女になって世界を守ります~  作者: グリゴリグリグリ
『時間の概念があると大変なんだね』
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第73話

 やって来たのは音楽都市と呼ばれるネクロ・ジュールです。

 世界的に有名だったネクロ・ジュールという吟遊詩人が亡くなった地で、熱狂的なファンがこの場所を切り拓いて町を作ったそうです。

 そんな由来があるからか、吟遊詩人のメッカであり、多くの音楽家や詩人が集まり、それらを客にした楽器屋も集まり、音楽都市と呼ばれるようになったそうです。

 ワタクシがここを訪れたのも、新たな趣味を見つけるためです。

 畑の世話を趣味と呼べるほど本腰入れてやっているわけではないので、家庭菜園が趣味とは言えません。

 なのでこれぞ趣味、と言えるような楽器でも始めようかと思ったのです。

 ワタクシは歳を取らない、いわゆる不老の存在らしいので、いずれは相当な腕前になることでしょう。

 飛空艇を乗り継ぎ、発着場を出た瞬間にあらゆる音が町中から響いていました。それこそ音の洪水とでも言うべき量と圧です。

 種々様々な楽器の音色に何人もの歌声。

 それぞれが別の音楽を奏でているはずなのに、一つのハーモニーを構成しているかのような不思議な心地でした。

 広場に行くと、ヴィオラ、チェロと二人のバイオリンによる弦楽四重奏が。

 また別の場所では聖歌隊が。

 またまた別の場所ではトランペットが高らかに吹き鳴らされていました。

 それぞれがそれぞれに演奏しているのに互いの演奏を邪魔していないのは不思議です。これがこのネクロ・ジュールという町の独特な雰囲気でしょう。

 しかしこれだけ音がたくさんあると、ただ歩いているだけでも耳が疲れてしまいそうです。

 それでも、少しでも気になった音があるとつい足を止めて聞き入ってしまいます。この調子では楽器を買うのがいつになるかわかりません。

 あまり音楽に興味のなかったワタクシですら足を止めてしまうほどの演奏の腕前。そんな人達が路上で演奏しているのですから、このネクロ・ジュールという町は恐ろしいです。

 ワタクシもいつかそれくらいに演奏できれば良いのですが。

 流石に耳が疲れてきたので休憩するとしましょう。

 楽器の販売や修理をする店。演奏を教える教室。そんな店がほとんどで、それ以外の店を見つけるのに苦労していまします。

 ようやく見つけた店は、楽器店と楽器店の間にひっそりと建っていた喫茶店でした。


「コーヒーを一つ」


 カウンターの中にいたマスターは小さくうなずくと、じっくりコーヒーを淹れ始めました。

 奥の席が空いていたのでそこに腰掛けます。

 他に客は数人です。

 長い間この場所で店を開いていたのでしょう。店の中全体にコーヒーの香りが染みついているようでした。

 そしてやはり音楽都市にある店と言うべきか、小さなステージが設置してありました。

 しばらくして出されたコーヒーはカップが香りが良く立ち、体の隅々まで流れていきます。

 路上の演奏も建物の中までは届かず、少し静かな中で遠くに聞こえる音楽を楽しむ。音楽にはこういう楽しみ方もあったのか、と気づかされます。

 さて、ワタクシはどの楽器を練習するとしましょうか。

 お嬢様のようなこの姿だと、バイオリンやピアノ。トランペットやサックス、ギターは演奏していて楽しそうです。しかし見た目だけならリコーダーやピアニカなんかもらしいと言えばらしいです。ベース系の楽器は一人で演奏しても楽しいでしょうか。


「……マスターはなにか楽器を演奏しますの?」

「私ですか?」


 少し考えた後マスターは店の奥に引っ込むと、アコーディオンを手にステージへ上がりました。

 少ない客から歓声が上がります。


「めずらしいな」

「マスターの演奏が聴けるとは運が良い」

「お客様からのリクエストがありましたので……」


 と、こちらへ視線を向けます。

 リクエストしたつもりはないのですが、聞かせてくれるのなら楽しみましょう。こんなコーヒーブレイクも乙なものです。

 マスターが演奏したのは店の雰囲気に合わせた静かな曲でした。

 アコーディオンの音色をちゃんと聞いたのは初めてですが、この独特な音色はクセになってしまいそうです。

 しかし片手で演奏しながらもう片方の手で開いたり閉じたり。少し難しそうです。


「流石だぜマスター」

「あれも聞きたいな、せっかくだし」

「そうですか。ではリクエストにお応えしまして……」


 再び店の奥に行ったマスターが持って来たのは、片手に乗るくらいの小さな楽器でした。動物の角のような軽く曲がった円錐に穴がいくつか開いている楽器です。

 オカリナに似ています。

 ワタクシの視線に気づいたマスターが、


「これはジュールホルンという楽器で、この町の由来にもなったネクロ・ジュール氏が使っていた楽器です」

「なるほど……。初めて見ますね」

「それではお聞きください」


 ジュールホルンは見た目の通り、少し高い音色でした。

 手の平に乗るほど小さな楽器と甲高い音。少し渋めのマスターが演奏しているのは不釣り合いで少しおかしいです。

 しかしアコーディオンを華麗に演奏したマスター。客からリクエストされるだけあってジュールホルンの演奏も素晴らしい物でした。

 これはワタクシが練習する楽器も気まりましたね。




「ただいま帰りましたわ」


 扉を開けるとポチが出迎えてくれます。

 動物とは言え、帰った時に誰かが出迎えてくれるというのは良いものです。

 そんなポチがワタクシの持っていた荷物に興味深そうに鼻を近づけました。


「これですか? これから練習する楽器ですわ」


 結局、買ったのはバイオリンとジュールホルン。

 ワタクシが演奏するならやはりバイオリンが良いでしょう。昔から少し憧れもありましたし。

 そしてジュールホルンは土地ならでは、ということもありますがマスターの演奏にほれ込みました。

 時間はいくらでもあるのですから、二つの楽器を練習する時間だっていくらでもあります。


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