第72話
依頼書に描かれたターゲットを殺し、マジラの日記を読む。また依頼書のターゲットを殺して今度はエマールの日記を読む。そしてしばらく休んで依頼書が溜まったらまたその仕事へ。
他人の日記という物はワタクシが想像していた以上につまらない物で、一回で読み進めるのは二日分が限界でした。
ターゲットを殺すのも別に楽しくありませんが、日記を読むのに比べたら気は楽です。
そんな感じで日々は過ぎていきました。
一年の半分ほどが経ち、それでも日記は半分も進んでいません。
エマール以降、これまでのターゲットでハルカ様についてなにかを言ったターゲットがいなかったので、モチベーションが下がっているのもあります。
こちらの世界に来てから趣味らしい趣味がなかったので息抜きに読んでいましたが、流石に日記を読むのは読書の内に入りません。
「くぁっ……ふわぁ……」
欠伸が出てしまえばもう終わり時でしょう。
今日やるのはもう終わりにし、手配書もまだしばらくは余裕がありそうですし、しばらくは休暇としましょうか。
冒険者としての仕事もまだしなくても大丈夫です。
久しぶりに畑の様子でも見るとしましょう。
最後に見たのはニンジンを収穫した時でしょうか。それから放置していたので畑の一角が空いたままです。
前に神様からもらった種セットがまだ残っているはずです。
神様印の種ですから、季節も関係なく、水やりを忘れても育ってくれる簡単な種達です。
しまってある納屋に入り、そう言えばここに兵士を閉じ込めていたのだと思い出しました。記憶を消してから服を着せ、エマールの家に放置した後に整理しようとしていましたがすっかり忘れていたので兵士が暴れたそのままです。
神様からもらったあの記憶を消す箱は便利な物で、魔力を流すと光を発し、それを見た者からワタクシに関する記憶をスッパリ消すという代物です。
応用すれば宇宙人の存在だって隠せそうです。
スコップと鍬、ジョウロを並べ、散らばっていた種入りの袋をまとめます。他にはポチの餌や鶏の餌もストックしてあります。
「さて……なにを蒔きましょうかね」
袋に品種名が書いてありますが、良く知る野菜の種から聞いたこともないような野菜か果物かもわからない植物の種まで様々です。
どれが良いかわからず、どれを蒔いたところで育つことは育つので適当に選ぶことにします。
「えぇ……」
目を閉じて適当に取った袋に書いてあったのは「マンドレイク」という名前。他を見てみると「アルラウネ」なんかもありました。
「これって同じ物じゃないんですか?」
マンドレイクとアルラウネがどんな植物か詳しくは知りません。
元の世界でどうだったかは覚えていませんが、こちらの世界ではどちらも植物型の魔物としてギルドに討伐、採取の依頼が出される時もあります。
ちなみにアルラウネは基本的に睡眠薬として使われますが、使い方によっては快楽成分が抽出でき、それが強い中毒性を持っているので麻薬のように扱われています。
もちろん、そういう目的でアルラウネを採ることはほとんどの国で禁止されています。
マンドレイクは様々な薬に使える万能植物です。
どちらも成熟すると抜く時に悲鳴を上げ、それをまともに聞くと最悪死んでしまいます。そこは良く知られた生態だと思います。
そんな危険な植物の種があるとは、神様のニヤニヤした表情が思い浮かぶようです。
悩みましたが、育ててみることにしましょう。
それぞれが使用方法に違いがありますが、実際に見たことはないので知識として知っているだけです。実際に育ててみるのもおもしろいでしょう。
シャベルと種を持って畑に向かいます。
ちなみに、畑仕事をする前にドレスからちゃんと動きやすい恰好に着替えてあります。長靴とオーバーオール。これなら汚れても問題ありません。
ちゃんとした種の蒔き方はわかりません。どんな蒔き方をしても育ってしまうのですから。
ニンジンが植わっていた畝を崩し、周囲の土と混ぜてから再び畝に戻します。これが正しいやり方かはわかりませんが、なんとなく収穫した後の土そのままでは栄養が足りないような気がします。
後は適当にそれぞれの種を蒔き、育つのを待つだけです。
ついでにいくつかの野菜が生っていたので収穫するとしましょう。
きゅうりとトマトが生っています。この二つは最初に植えた奴なので収穫を終えたら別のを新しく植えるとしましょう。かぼちゃも次の収穫が最後です。
収穫したもののお昼ご飯はもう済ませているので、いくつかに割って鶏達にあげることにします。
我ながら適当なものだと呆れてしまいます。
一つはまたトマトを。もう一つはこちらの世界の「世界樹」という果物を植えます。
大きな甘い実ができ、その大きさが世界樹にできる実のようだと名付けられた果物です。
その世界樹は伝説上の代物ですが、この世界のどこかに生えているそうです。一度は見てみたいですが、ワタクシにはいくらでも時間があるのでいずれは見られるでしょう。
こうして畑を弄っているだけでずいぶんと時間が経つものです。これが趣味と言っても過言ではないでしょうか。
その後はポチと戯れつつ、一緒に鶏を眺めていたらもう夕方です。
たまにはこんな休日も良いでしょう。




