第71話
地下室に降り立ち、ランプを掲げて部屋の中を見渡します。
「あれは……」
まず最初に目を引いたのが、降りて正面にあった壁。そこに描かれていた絵のような物でした。
黒い絵の具をぶちまけたかのような、絵とも呼べないようなそれは、なにか大きな存在とその下にある人のような物だけが辛うじて読み取れたくらいです。
近づいてもっと良く観察しようとして足元の物に躓きました。
それで床を見てみると、足の踏み場もないほどにゴチャゴチャと物が散乱していました。
「これはこれは……」
改めて地下室の中を見渡してみれば、正面にあった絵の描いてある壁の左右の壁は棚が備え付けられ、床と同じように様々な物が散らかされていました。
ぬいぐるみやおもちゃが詰め込まれた箱や、農作業に使うであろう道具。他にも良くわからない道具等々様々です。
天井からも保存食らしき物が吊るされ干されています。
しかしそれらはほんの僅かで、ほとんどは儀式に使いそうなアイテムばかりでした。
植物の葉っぱや根っこが種類ごとにまとめられ、瓶詰にされた液体や虫の死骸。それにどうやって手に入れたのか魔物の素材もありました。
いったいなんの儀式に使っているのでしょうか。
どことなく薬っぽい奇妙な臭いも充満していました。
「手がかりはあるでしょうか……。とりあえず探してみますか」
ハルカ様に繋がる手がかりがあると良いのですが、ワタクシにはこれらの道具をなにに使うのかわかりません。
具体的にどれをどう使うのかが残っていれば少しは手がかりになるのですが、棚に並べられたいくつかの本も見てみましたが、絵が載っているだけの本ばかりでした。
そしてその絵も壁に描かれたのと大差ないような物です。
ただ、
「どこかで見た気が……」
一枚一枚ページをめくっていきますが、どれも似たような絵です。
ページの中心に描かれた大きな抽象的な物体とその周りの人々。
中心に描かれているのは魔物だった目や鼻なんかの体の部位だったり、形容しがたい謎の物体だったり。
そして人々も踊っているようだったり崇めているようだったり色々です。
目的もわからない絵ですが、少なくとも見ていて気分の良くなる物でないのは確かです。
なんとはなしに眺めていてようやく思い出しました。
「マジラの彫っていたあの絵でしょうか……?」
エマールの話していたこととマジラの話していたことはほとんど同じで、この二人は同じ宗教に傾倒していたのでは、と考えていたくらいで、気づくのが遅かったくらいです。
マジラの絵はちゃんと見ていなかったので覚えていませんが、確かこんな感じの絵もあったはずです。
と、なればこの絵は世界が滅んでいく様子を描いていたのでしょうか。
それが同じだからどうということもありませんが、似ていると気づくと途端に気になりだします。
マジラを倒してから数ヵ月。あの雪原の地下に作られた部屋はどうなっているでしょうか。
「行ってみますか」
テレポートを使えば一瞬です。
四次元ポケットから取り出したコートを羽織り、レイナード共和国、そのマジラが潜んでいた地下を目指してテレポートします。
一度行ったことのある場所で、明確に場所をイメージできれば飛べるのですから、テレポートは本当に便利な能力です。
地下室は魔物や盗賊によって荒らされた様子はありません。
どちらも求める物はないでしょうから、当たり前と言えば当たり前ですが。
マジラの死体はいつの間にか消えていました。ワタクシがマジラを殺した後はなにもしないで放置していたのですが、血の跡すら僅かにも残っていませんでした。
「神様の仕業ですかね」
これだけ綺麗さっぱりと消えているのであれば、それ以外は考えられません。
まさか魔物が入って来て骨も残らず食べ尽くし、血の一滴まで舐め取った、なんてことはないでしょう。
それは置いておいて、やはりエマールの部屋にあった本に描かれていた絵は、マジラが氷柱に彫っていた絵と似通っていました。
具体的にどこが、とは言えませんがなんとなく雰囲気が似ていたのです。
これで少なくとも、マジラとエマールは同じ宗教に属していたとわかります。
なんとなくイメージで宗教と呼称していましたが、二人の人物が同じようなことを考えていたのであれば宗教と呼んで差し支えないでしょう。
しかしエマールとマジラの繋がりがわかったからと言ってどうということはありません。
せめてここに来た意味はなにかないかと、マジラの暮らしていた地下室を見渡します。
普段はここで氷の柱に絵を彫り、食料が尽きたら近くの村から盗んでくる。ずいぶんな生活をしていたようです。
物はあまりありませんでしたが、一画だけ、生活空間のように物がまとめられてある場所がありました。
最初に来た時はマジラを殺すことしか考えていなかったので気づきませんでした。
簡易なベッドとチェストが置いてあるだけで、残りは食べ残しが散乱しているだけです。
手がかりがあるとは思えませんが念のため、チェストの中も確認すると二段目の引き出しに一冊の本が入っていました。
「これは……」
パラパラとページをめくると、何日になにをしただとか、何日にどこへ行っただとか、日記のようです。
この中にもしかしたらハルカ様についての情報が眠っているかもしれません。
しかしこの地下室は火属性の魔力に偏っているとは言え氷原の下。長々と日記を読んでいくには向かない場所です。
なにより、興味のない男の日記をちゃんと読むこと自体が苦痛です。
もしかしたらエマールも同じように日記を残しているかもしれません。さっきは適当に部屋を探しただけなので、まだまだその可能性はあります。
コートと日記を四次元ポケットに放り込み、テレポートでエマールの家まで戻ります。
まだ他の兵士達はここまで辿り着いていないようです。
「あ、り、ま、し、た、わ……!」
時間はありそうですが、いつ他の兵士達がこの家を見つけるかわかりません。
少々急いで探したせいで地下室は来た時よりも汚くなってしまいましたが、それでも儀式の材料の中に埋もれていた日記を見つけ出すことができました。
日付は随分前で止まっていましたが、日記であることに間違いありません。
ワタクシは日記を書こうなんて思ったことはないですが、案外みんな書いているのでしょうか。
とにかく、女の子の物とは言え人の日記を読むことに興味はまったくです。
いつ変装がバレるともわからないので家に帰るとしましょう。日記を読むのもそれからです。
この宗教自体、急ぎということもありませんから、暇潰しにゆっくり読むとしましょうか。
第何章とか数えているわけじゃないけどこの章完結!
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