第70話
「誰も見ていませんよね?」
ついつい鍵がかかっていると思い込んでいましたが、まさかの無施錠。
勢い良く家の中に転がり込んで恥ずかしさで死んでいまいそうです。
それはともかくとして、無事にエマールの家に入ることができました。これから調査開始です。
「おっと、その前に……」
テレポートを使って自分の島に帰ります。
忘れていましたがそろそろ兵士が起きていてもおかしくありません。
その予想は当たっていたようで、兵士を放り込んでいた納屋からは、脱出しようとガンガン扉を叩いていました。
兵士の変装を解きます。
「少し大人しくしていただけますか?」
「……アンタは?」
兵士の声は疲れ切っていましたが、まだ急にかけられた声を訝しがる余裕はあるようです。
「あなたを捕まえた者です」
「俺をどうするつもりだ!?」
「どうもしません。ワタクシの用事が済んだら解放して差し上げますわ」
「信じられるか!」
と、ワタクシの言うことも無視して兵士は扉を再び蹴り始めました。
直接会って話そうかとも思っていましたが、これだけ暴れるのであればそれも遠慮したくなります。
しかしいつまで納屋が耐えられるかもわからないので、もう一度殴って気絶させてしまうのが一番でしょうか。
まぁ、納屋から脱出できたところでここは空に浮かぶ島。少なくとも雲と同じ高さにはある島です。飛び降りようとも思わないでしょう。
ただ、納屋を壊されるのも勘弁です。
「ちょっと扉から離れていただけますか?」
下がったわけではないでしょうが、暴れているのが僅かな間だけ止まりました。
その隙に扉を開けます。
まさか開けられるとは思っていなかったのが、呆けた顔の兵士がそこに立っていました。
流石は兵士という職業に就いているだけあると言いますか、すぐに臨戦態勢を取ります。中々堂に入った姿です。
散乱している道具を見るに、随分と暴れたようです。
「世界を救うための活動をワタクシはしています。そのために今回はあなたの姿を貸していただいているんですが、それでも大人しくしていただけませんか? 約束してくれるなら納屋からは出して差し上げますが」
「さっきも言ったが信じられないな」
「それなら仕方ないですわね」
ダメ元での話でしたので断られたところでどうと言うことはありません。
この兵士くらいなら大した敵ではありませんし、この提案も兵士が辛くないように、との厚意でしたので痛い目を見るのはワタクシではありません。
トントンと軽くジャンプし、そのままの緩い力で兵士に近づきました。そしてその勢いを乗せて兵士の腹を殴りつけます。
天井近くまで飛んだ兵士は壁に激突し、ズルズルと力なく地面に落ちました。
「うぅ……」
まだ意識が残っていたので頭を蹴り飛ばします。
今度こそ動かなくなりました。
一応手加減はしたので死んでいないようです。それならばなにも問題はないでしょう。
これもワタクシの厚意を無下にした兵士の自業自得です。
それでは、エマールの捜査に戻るとしましょう。
テレポートでエマールの家に戻ります。大した時間ではなかったので、他の兵士達はまだエマールの家にまで辿り着いていないようです。鉢合わせしても面倒なので、ワタクシの調査は早く終わらせるとしましょう。
ドアを閉めると真っ暗になるので、ランプを点けます。
窓も閉め切られ、外からは中でなにが起きているのかわからないでしょう。ずっと兵士の姿でいるのも大変なのでいつもの姿に戻り、四次元ポケットから取り出したドレスに着替えます。
「さてさて……始めますか……」
一階はなんの変哲もない部屋です。大きなテーブルと三脚の椅子。調理場があります。テーブルとイスは両親が健在だった頃の名残でしょう。
そのテーブルにも椅子にも、そして調理場にも薄く埃が積もっています。
しばらく使われていないのでしょうか。
よくよく見てみると、奥にある階段から出入口に至るまでを除き、床にも埃が積もっています。
ここで誰かが暮らしていたようには見えません。
「うっ……」
階段を使って二階に上がると、一歩踏み出す毎に埃が舞い上がり、鼻と口を押えないことには歩けそうにありませんでした。
いくつかのドアを開けて中を確認しましたが、どれも同じようなもの。
中にはエマールの自室だったのか、かわいらしい部屋もありました。ベッドの傍に置かれたいくつかのぬいぐるみは、昔大切にされていたでしょうに今はそこにも埃が積もっています。
この部屋と宗教にハマって正気を失っていたエマールとが結びつきません。
しかしエマールの部屋にもハルカ様に繋がる情報は得られそうにありませんでした。二階自体、まったく使われていなさそうです。
それではどこでエマールは暮らしていたのでしょうか。
出入口から続く埃の積もっていない部分を辿ると、階段の横で途切れていました。じっくり調べると、床に筋が入っているのがわかります。
「地下室ですか」
そしてもう少し探せば、へこんでいる部分があったのでそこに指を差し込んで持ち上げます。思っていたよりも重たいその蓋を開けると、地面の下まで続く梯子があります。
それほど深くはないようですので飛び降りられるでしょう。
飛び降りた地下室。そこには異様な光景が広がっていました。




