第69話
「それでは予め決めた通りにそれぞれ捜査を始めよう」
「了解です!」
派遣された兵士達の隊長の合図でそれぞれの兵士達が町へ散ります。
ワタクシは変装しているこの兵士がどんな役割を与えられたのかは知りませんが、元々まともに捜査する気はないので問題はありません。
変装の力は絶大で、誰もワタクシがこの兵士と入れ替わっているのは気づきませんでした。
少しの間この兵士がいなくなっても気づかないくらいですから、それほど仲良しではないのかもしれません。
ワタクシの正体がバレることもなく無事町に着き、宿に泊まります。宿は一つしかありませんのでもちろん、あのおばあさんが経営している宿屋です。
偶然にもワタクシが割り当てられた部屋はこの前泊まっていた部屋でした。
とりあえず最初に捜査するのはエマールに襲われていた少女です。
夜と昼間では見える光景も変わっていますが、ちゃんと家の場所は覚えていました。割れた窓があるので間違いないでしょう。
「失礼します。こちらのお嬢さんが連続殺人の犯人に襲われたと聞いて話を聞きに来たのですが……」
扉をノックし、現れたのはその少女自身でした。
「それは、私ですが……多分探している犯人とは違うと思いますよ?」
「……詳しく聞いても?」
「はい。中にどうぞ」
家の中に通されました。
ワタクシはこの目で、この少女がエマールに襲われているのを見ています。そしてエマールが連続殺人の犯人でしょう。それともエマールとは別に犯人がいるのか。
エマールの話していたことや少女を殺そうとしていたことを考えると十中八九、エマールが犯人のはずです。
しかしそういえば、エマールの口から連続殺人の犯人だ、と聞いたわけではありません。
状況証拠的に間違いないとは言え、しっかりと調べたわけではありません。
ワタクシにとってはエマールを殺した時点でその事件とは関係なく、この少女に話を聞きに来たのもエマールのことを知りたかったからです。
しかし無関係でも解決したと思っていた事件が未解決かもしれない、と思うと少しソワソワしてしまいます。
「なんのお構いもできませんが……」
「いえいえ、お構いなく。それで、襲われたことは間違いないんでしょうか?」
「はい……。夜寝ていたら急になにかが私の上に覆いかぶさって来て、見たら友人だったんです」
その場面を見たわけではないですが、この後悲鳴を上げてワタクシが助けに入りました。
ここまでは間違いありません。
「そのお友達が連続殺人の犯人ではないのですか?」
「違うと思います。その友人も殺されたんですから」
「なるほど……」
連続殺人の被害者達は全員、首をスパッと切られて死んでいたそうです。
そしてワタクシがエマールを殺した時も首にムスニアを刺してスパッといきました。
狙ったわけではありませんが、散々を人を殺した報いかな、なんて思って面白がっていました。それが原因でこんなことになっていたとは思いませんでしたが。
「お友達はなにか言っていませんでしたか? 殺されるような心当たりとか、とにかく事件に繋がりそうなことは……?」
「……最近は彼女も引きこもってばかりでちゃんと話をしてなかったんです。それにその日の夜もなんだか良くわからないことを言ってて……わかりません」
「そうですか……」
「あっ、でも友人の他に誰かいた気がします!」
心臓が口から飛び出るかと思いました。
まったく話に出て来なかったので忘れられていたのかと思っていたら、まさか話の流れで思い出してしまったのでしょうか。
しかしまだ焦るような事態ではありません。
彼女の口ぶりからすると、その誰かが豪華なドレスに身を包んだかわいらしい少女とまでは覚えていないようです。
その姿を想像して、忘れようもないと感じますが。
「その誰かについて覚えていることはありますか?」
「ごめんなさい……。良く覚えていなくって……」
「そうですか。気にしないでください。そのお友達のことも調べたいので家の場所がわかれば教えてください」
「わかりました」
最近は会っていないと彼女は言っていますし、これ以上話していてもエマールのハマっていた宗教についてはわからないでしょう。
一先ずはエマールの家に向かうことにします。
案内されたエマールの家は窓も完全に締め切られ、どことなく重たい空気が漂っていました。
それが、家の住人が死んだからなのか、ワタクシが宗教にハマった女の家と色眼鏡で見ているからなのかはわかりません。
ただ、周囲の人達もなんだかこの家を避けているような気配がしていました。
「ごめんください!」
ノックをして声をかけ、しばらく待っても反応はありません。二度、三度と繰り返しても同じです。
諦めて無理矢理入ろうかとも思いましたがタイミング良く町の住民が通りがかりました。
「すいません、ここに住んでいる方のことを知ってますか?」
「ワトーさん家ね……。ご両親が亡くなってからエマールちゃん一人で暮らしてたけど、彼女もこの前殺されたからね。今は誰も住んでいないよ」
「そうですか……」
「アンタらがもう少し早く来てればね……」
なんて言い残してその住民は去って行きました。
ワタクシに言われましても、と思いますが見知らぬ人にとってワタクシは捜査に来た兵士と同じでしょう。
ついでに、エマールが殺人を犯していたなんてもっと知らないでしょう。
どうやらある程度は同情されていた人物のようです。
さて、この家には誰も住んでいないようですのでなにも遠慮することはありません。調べさせていただきましょう。
鍵を壊す勢いで扉に力を込めると、アッサリ扉は開きました。




