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異世界ポイント生活 ~幼女になって世界を守ります~  作者: グリゴリグリグリ
『少し雲行きが怪しくなってきたねぇ……』
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第66話

 周囲をそれほど気にすることのない歩みは、どこか目的地があるようにワタクシの目には映りました。

 体を隠すように大きなマントを羽織っているので体型はわかりません。精々が、少し身長が低いか、程度です。そしてフードを目深に被っていて髪型も表情もわかりませんでした。

 もう少し近づいてみたいですが、いくら隠密があるからと言って顔が見えるほどの距離まで近づいてはバレるでしょう。

 あれがワタクシの探しているエマールなのか。それとも事件の犯人なのか。

 正体が判別できるまで手を出すことはできません。

 もしかしたら、急用ができて外を出歩いている一般人、という可能性もなきにしもあらずですから。

 その人物は目的の家に辿り着いたのか、足を止めました。周囲を回って様子を窺っています。

 侵入口を探しているのか、他の人の目がないのか気にしているのかは定かではありません。

 一つわかっているのは、この家も他の家と同様、キッチリ窓を閉めているということです。そう簡単には侵入できないでしょう。

 ドアや窓、それぞれに手をかけて侵入できないか試みているようですが、もちろん鍵がかかっています。

 次第にその人物がイラ立っている様子が離れて見ているワタクシにも伝わり、最後の方はそれなりに派手な音を立てて雨戸を揺らしていました。

 中の人が起きないかとワタクシがヒヤヒヤしてしまいます。

 結局、一階の窓は全部閉まっていて、その人物は扉に回りました。そしてスッと手を上下に動かすと、さっきは開かなかった扉を開けて中に入っていきました。


「まさか……」


 どんな手品を使ったのでしょうか。

 こちらの世界で暮らして長いですが、鍵を開けるなんていう都合の良い魔法や魔道具は見たことがありません。

 しかし近づいて見てみれば、なんてことはありませんでした。

 鉤の部分がスッパリと、綺麗な切り口で切断されています。特に道具を使った様子はなかったのできっと、風属性の魔法なりで切断したのでしょう。

 その人物が中に入った時もドアは完全に閉まっておらず、ワタクシも音を立てずに侵入することができました。

 耳を澄ませると、階段を上がっているような足音が聞こえます。

 侵入できなくてイラ立っていた様子や、こうして足音を立ててしまっているのを見ると、今回の事件の犯人はどこか素人臭さを感じてしまいます。

 数日前から殺人を始めたとすれば素人なのは間違いないのでしょうが、なにがこの事件の犯人をそこまで駆り立てるのでしょうか。

 目的があるのは間違いないでしょうが、その目的とはなんなのか。

 どうでも良いことではありますが、気になってしまいます。

 二階には扉が二つあり、犯人がどちらに入ったのかわかりません。

 しかし、


「ひぃ……!」


 と小さな悲鳴が右側の部屋から聞こえました。あげかけた悲鳴を無理矢理押さえつけた。そんな感じでした。

 そっと扉に耳を押し当て、身体強化の魔法を使って良く聞き取れるようにします。


「エ、エマール……どうしてこんなことを……?」


 囁くような声で悲鳴の主は問いました。小さな声でも、震えているのは十分わかります。

 どうやらこの事件の犯人とワタクシのターゲットは同一人物で間違いないようです。

 場面が場面だと言うのにガッツポーズをしてしまいます。

 そのまま扉を開けて突撃しようかとも思いましたが、


「私には目的があるの」


 気になる言葉が聞こえてその手を止めてしまいました。

 なにが普通の人間だったであろうエマールを連続殺人犯にしてしまったのか。この機会を逃せば知ることはできず、思わず耳をそばだててしまいます。

 こうして答えたからにはすぐに相手を殺すことはしないでしょう。

 狙われている人には申し訳ありませんが、もう少しだけ我慢してもらいます。


「……も、目的?」

「そう。知ってる? この世界は……人類はもうすぐ滅んでしまうの」

「そんな……滅ぶだなんて……」


 その手の話は良く聞きますが、それと人を殺すことは結びつきません。

 相手も同じように思ったらしく、それとも急に壮大なことを言い出したエマールに少し余裕が出てきたのか、問い返す声は少しだけ震えが収まっていました。


「信じられないのも無理はないわ。でもこれは事実。そんなに遠くない未来で、私達人間は全員死んでしまうの。そしてまた新しく世界が生まれ変わるのよ!」

「……ん?」


 どこかで聞いたことがあるような話で思わず声が漏れてしまいました。

 とりあえずはバレなかったようですが、激しく脈打つ心臓は扉越しでも聞こえてしまうのではないかと思うほどに高鳴っていました。

 まさか。これと同じようなことを話していたターゲットがいました。レイナード共和国に潜んでいたマジラのことです。

 人類が滅ぶと夢でお告げを聞き、その後にまた現れる人類のためになにが起こるのかを記そうと氷の柱を彫り続けたあのマジラです。

 準備ができているとかなんとか言っていて、妙に大人しく殺されると思っていましたがこういうことでしたか。

 すでにある種の宗教のように考えを広めていたのでしょう。

 そのマジラの宗教の教えがこの殺人に結びついているとしたら、これからのターゲットにはそういう人物が増えるかもしれません。

 マジラがターゲットと指定された時にすぐに殺していればこうはならなかったかもしれない。

 そう思うと悔しさに歯噛みします。

 ワタクシが後悔している間にも、エマールの講義は続いていました。そしていよいよ、肝心の部分です。


「――そういうわけで人類は滅ぶんだけど、過去と決別して反省すれば救われるのよ」

「過去と決別?」

「そう! 私の生まれた場所。私が過ごした場所。私を知る人。そのすべてを失くし、私の過去をすべて消し去る。そうして初めて過去と決別することができるの!」

「そんな無茶な……」

「無茶じゃないわ! だからごめんね、サラ。たくさんあなたと遊んだけど、楽しかったわ。でも救われるためにはあなたも殺さないといけないの……」

「そうはさせませんわ!」


 これ以上は危険でしょう。

 エマールがどうして何人もの人を殺しているのかもわかったので、ここからはワタクシの仕事の時間です。


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