第64話
久しぶりの更新です!
ここから最終回に向けて動いて行きますのでお楽しみください!
やって来たのはなんの変哲もない町です。
特に国の重要拠点があるわけでもなく、そこそこの人数が暮らし、そこそこの人数が出入りするような町です。
どこにでもあるような――ワタクシにとっては――特徴のない町で。こういう所にターゲットがいると、大抵は早めに仕事を終わらせて家に帰ります。
お金に困っているわけでもないので冒険者としての依頼もしないで良いでしょう。
この間、突如として参加することになった大会でスリットと死に物狂いの戦いを繰り広げたわけで、その時のスリルに比べるといつもの仕事も味気なく感じてしまいます。
今回のターゲットはエマール・ワトー。グラート種の女です。
もらえるポイントはそれほど多くはないのですが、少ないポイントのターゲットも倒していかないと、手配書がどんどん溜まってしまいますので、たまには息抜き程度に狙うのも悪くはないでしょう。
ポイントの高さは、ターゲットが世界に対してどれだけの悪影響があるのか。それが起こるまでにどれだけの猶予があるのか、によって変わってきます。
極端な話、世界を滅ぼしかねないほどの人物でも、何十年も先であればポイントはそれほど高くなりません。
前に倒そうとした赤ちゃんの顔が過ります。
ワタクシ史上一番のポイントの高さで、今もなおあれを越えるターゲットは出ていません。
もちろん、赤ちゃん自身が世界をどうこうしようということはないでしょう。しかしそれでもあれだけのポイントの高さということは、あの赤ちゃんが成長した時、いったいなにをしでかすのでしょうか。
見逃したいと言った時の神様の顔も気にかかります。
あれが単にターゲットを見逃すことに対してなのか、赤ちゃんを見逃すことに対してなのか。知りたいようで、知りたくもない気持ちです。
あの時以来、ターゲットを見逃そうなんてことはないので本当のところはわかりません。
幸いにも、子供がターゲットになることはあれっきりでしたから。
相手が子供でなければ気持ちがどうこうなることもありません。今回のターゲットであるエマールも十分大人ですので、殺されるようなことをするとしても自己責任です。
そんなことを考えながら食事をしたり、町を散策したり。ターゲットはいないかと注意していたら夕方です。
もらえるポイントが低いのでエマールを倒すのに焦る必要はありません。まだ一日目ですから、今日は宿で休んで明日また頑張るとしましょう。
そう考えて宿に向かっていると、まだ完全に暗くなる前からすでに閉め始めている店がありました。
少し経てば完全に日が沈んでしまうとは言え、灯りを点ければまだ書き入れ時でしょう。
事実、他の町であればまだまだ町は賑わっているはずです。むしろパブだとかアルコールの飲める店はこれからが本番と言っても過言ではないでしょう。
店先で看板を片付けていた店員の中には、ワタクシの姿を見つけるや否や逃げ込むように中へ入って行く者もいます。
余所者に対して警戒しているにしては過敏ではないでしょうか。
昼間の内はそういう視線を向けられていなかったので、ほんの数時間の内にまったく別の世界に来てしまったかのように錯覚してしまいます。
「ようやく帰って来たかい……」
「まだそれほど遅い時間だとは思いませんが……」
宿に着いた頃にはすっかり日も沈み切っていましたが、それでもまだ眠るには早い時間です。なんならこれから晩御飯を用意するような時間でしょう。
宿屋の主人であるおばあさんは、鬱陶しいと言うよりはホッとしたような様子でした。
「今日泊まっているのはアンタだけだからね。アンタが帰って来れば扉の鍵をかけられるんだよ」
「ずいぶんと気の早いことで……。それは町の人達が関係しているのですか? まだまだ閉店には早いと思うのですが?」
「そうだね。別に隠すことでもないね」
視線で食堂に促されました。
一応、晩御飯は付いている宿なのでそれ自体はなんらおかしなことではありませんが、おばあさんの雰囲気はただ事でないと知らせてくれていました。
まぁ、ターゲットがこの町にいる時点でただ事ではないのでしょうが。
チェックインした後は部屋に直行し、荷物を置いたらそのままエマールの捜索に出ていたので食堂に入るのは初めてです。
しかし案内されたのは食堂と言うには狭い部屋でした。
置いてあるのは四人掛けのテーブルと椅子が三脚だけ。宿の食堂と言うよりは一般家庭のリビングといった様相です。
掛けるように言われて待つと、すぐに今夜のご飯が運ばれてきました。
大きな皿で作られたグラタンのような料理です。
各自に取り分けたとしても二人前には多いでしょう。
これを見ると、晩御飯のサービスも、おばあさんが自分の分の食事を、一人前作るのと大差ない、と付けているサービスに思えてきます。
美味しそうな匂いにお腹も減っているのでどちらでも良いことですが。
もちろん、期待通りに料理は美味しかったです。
チーズがたっぷり使われ、トロっととろけた部分と一番上のこんがり焼かれた部分の味の違い。そしてホクホクのじゃがいもに細かく刻まれた干し肉でしょうか。その塩気がバランス良く全体の味を調えていました。
二人前には多いかと思っていましたが気づけば皿は空です。
食事中は喋らないようにしているのか、無言の嘱託ではありましたが、食後の水を飲んでいる時にようやくおばあさんは説明をしてくれました。
「最近……二、三日くらい前からか。この町は物騒になっていてね」
「物騒に、ですか……」
「ああ。毎日、朝になると何人も死体で見つかっているのさ。首をスパッと、らしいよ」
自分の首に手をやる動作付きで教えてくれました。
「それはそれは……。ずいぶんと物騒ですわね」
十中八九、その犯人はエマールでしょう。
エマールの手配書が出てきたのはそれくらいの時期だったと思います。この町で起きている事件が世界の危機に直結しているとは限りませんが、無関係でもないでしょう。
もしもエマールがその犯人だとすれば、ワタクシの仕事も少し急がなければならないかもしれません。
「物騒だといってもあと少しの辛抱だよ。捜査のために兵士を寄越してくれるって、領主様が言っていたからね」
「無事に犯人が見つかれば良いですわね」
領主様としては賢明な判断でしょう。しかしワタクシにとっては厄介なことです。
もしもエマールが捕まったとしても力尽くで殺すことはできるでしょうが、あまり騒ぎは大きくしたくありません。
正義の味方のように語られる都市伝説が生まれているくらいですから、あまり目立つようなことはしたくないのです。ただでさえ、インパクトの強い戦える幼女なのですから。
「アンタも気を付けることだよ。窓はしっかり閉めて、部屋の鍵もかけるんだよ」
「ええ。もちろん」
急いでエマールを探すとしましょう。




