第63話
大会は終わり、ワタクシとスリットは折角なのでしばらく二人で行動することになりました。
しばらくと言ってもコートミールの隣の町くらいの距離です。
スリットはこのまま徒歩で旅を続け、ワタクシはテレポートがあるのでいつでも自宅に帰ることができます。
「本当に良かったのか?」
「大会のことですか?」
「そうだよ。優勝できただろ」
準決勝でスリットになんとか勝利し、後一つ勝てば優勝というところで、ワタクシは目を覚ましたスリットと一緒に町を出ました。
恐らく、決勝の相手は簡単に勝てたでしょう。
試合が始まる前の表情を見たら、まだ戦いが始まってもいないのに顔面蒼白でした。いくらなんでもそんな相手と戦う気も起きません。
「初めから言っていたでしょう。ワタクシはあの大会にも優勝にも興味はないと」
「そうか……リーウェンが目的だったのか」
「その通りです」
リーウェンを追ってコートミールを目指し、その途中でスリットと再会して大会のことを知りました。優勝をしたいとかは思っていないのです。
大会を真面目に戦っていたのもスリットと戦いたかったから。
そういう意味では、ワタクシの大会は準決勝で終わっていたのです。
「今回もなんとか勝てましたが次はわかりませんね……」
大会に出場して良かったと思えるのは、スリット以外にも強者がいると知れたことです。
リーウェンが大したことなかったので少し油断していましたが、考えてみればあれは不意を突いただけですので、ちゃんと戦ったら苦労したかもしれません。
今のところはまだワタクシの手に負えるターゲットとしか戦っていませんが、次にどうなるかはわかりません。
気を引き締めてもらえた、という意味では大会に出た意味もありました。
「次にやる時までに俺も特訓しなきゃな」
「ワタクシもです。少しサボり気味でした」
まだ強くなる気か、とお互いに思ったのは言うべくもないでしょう。
「おっ、コボルトがいるぞ。昼飯にしよう」
「コボルトですか……」
スリットの指差した先には一つの小さな影がありました。
コボルトとは二足歩行の小さな犬とでも言うべき魔物です。普段は群れで行動する魔物で、一体だけで行動しているということは群れからはぐれたのでしょうか。
しかしワタクシは少し乗り気ではありませんでした。
群れで行動するだけあって、コボルト一体だけでは雑魚も雑魚。ワタクシとスリットの二人がかりでやる必要もなく、なんなら片腕だけでも瞬殺できるでしょうか。
乗り気じゃないのは単純にその味です。
臭みが強く、肉は筋張っています。余程、食事に困っていない限りはあまり食べたくはない食材です。
しかしワタクシがモヤモヤと考えている間にもスリットの姿は消え、十秒も経つとコボルトを手にして戻って来ました。
「早いですわね」
「当然だ」
獲ってしまったからには仕方ありません。せめて少しでも美味しく食べられるようにしましょう。
スリットがコボルトの毛皮を剥ぎ、肉を捌いている間に鍋とその他の食材を用意します。
神様の力をもらっているとスリットに知られた以上、四次元ポケットやテレポートについても話しても良いのでしょうが、わざわざ話すことでもないでしょう。
鍋に野菜を入れ、香草を多めに入れます。
肉の臭みは香草で誤魔化し、筋張った肉は叩いて煮込んでどうにかします。
これで食べられるようになれば良いのですが。
「美味い飯だったな!」
「そうですか? ギリギリ食べられる程度の味でしたけど……」
「それは調理担当のアマルちゃんの腕だろ」
元々の食材のせいもあると思いますがまぁ、そこは良いでしょう。腹が膨れればそれで食事の意味はあります。
食事を終えてその味の余韻が消える頃には次の町が見えてきました。
スリットとの旅もこれまでです。
別れの時に記憶に残っているのが美味しくもない料理というのはなんとも言えない気持ちですが、今生の別れというわけでもありません。
「では、ワタクシはこれで失礼しますね」
「おう。また会ったら戦おうな」
「気が向いたら、ですね」
スリットはそのまま目の前の町へ向かって行き、それを見届けてからワタクシはテレポートで家まで帰りました。
家に入る前に畑の様子を見ることにします。
しばらく放置しても大丈夫とは言え、水をあげていないと少し元気がないように見えました。
扉を開けると、ポチが勢い良く跳びついて来ました。
「ただいまですわ。元気にしてましたか?」
べろべろと顔を舐められ、ようやく自宅に帰って来た実感が沸きました。
とりあえずお風呂でも入れましょうか。でも疲れがドッと押し寄せて来てすぐにベッドに飛び込みたい気持ちもあります。
ここはグッとその気持ちを堪え、ちゃんと汗を流すとしましょう。
いつの間にか書く感じになっていた武闘大会編も無事終了です!
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お知らせですが、書き溜めがなくなったのと次章辺りのネタ練りのために今週いっぱいは更新しません。
お暇でワタクシの文章を読んでくれるよ、って方は他にもいくつか連載してますのでそちらをどうぞ。




