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異世界ポイント生活 ~幼女になって世界を守ります~  作者: グリゴリグリグリ
『強さと権力を結びつけると厄介になるよ』
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第62話

 横薙ぎに一閃されたナイフを後ろに下がって躱します。

 余裕を持って躱したはずですが、刃が炎に包まれているせいで熱だけはこちらに届いて来ました。

 そのせいで、避けて無傷なはずなのに避け切れなかったかのような錯覚をしてしまいます。

 しかし耐えられないレベルではありません。せいぜいがサウナの扉を開けた時の熱気くらいでしょうか。

 それでも、ジリジリと炙られるような感覚はそれだけで集中を乱されます。


「厄介ですわね……」


 前回の戦いの時は魔法を使うような素振りは見せていませんでした。スリット本人の言葉を信じるなら、魔法を身に着けてからまだ日は浅いはずです。

 いきなり攻撃として使えるほど強力な魔法が扱えるようになるとは思えないので、武器に纏わせる以上なことはできないでしょう。しかしスリットの魔力の底が見えない以上はあまり踏み込んだこともしたくはありません。

 スリットが魔法でなにをできるのか、それを見極めてからでも動くのは遅くありません。避けるだけならワタクシの体力も保つでしょう。

 魔力が少ないならその途中でガス欠を起こすかもしれません。

 幸いにも炎は刃を覆っているだけなのでナイフの向きや大きさはわかります。揺らめいているもののそれだけです。

 しかしスリットの動きが速いせいで、ナイフはギリギリでないと躱せません。その度に炎で炙られ、一瞬足りとも油断はできません。

 次も炎が不穏な揺らめきをした気がしましたが、警戒する間もなく避けました。

 しかし、


「くぅ……! やるじゃありませんか」

「当然だ」


 避け、これまで通り炎で少し焼かれる程度だと思っていましたが、ナイフの刃裂かれ、その傷口を一瞬で焼かれてしまいました。

 確かに、炎が少し大きくなったような気はしていました。

 しかし少し焼かれるくらいなら許容範囲内とこれまで通りの避け方をしてしまいました。結果、ナイフで切られた。

 そのカラクリはすぐにわかりました。

 何度も何度もナイフを振るい、ナイフの大きさ、そして炎の範囲をワタクシの意識に刷り込む。そこでナイフの角度を少し変え、それを炎で隠すことでワタクシに実際の刃がどうなっているのかをわからなくさせたのです。

 お陰で、深い傷でなくともワタクシに傷を負わせることができました。一瞬で傷は焼け塞がり、スリットの炎の温度がわかります。

 炎を基準としてナイフを避けることはできなくなりました。それだけワタクシに対するプレッシャーも増大したのです。

 しかし火力が高いとそれだけ魔力の消費も激しくなります。

 ワタクシの作戦も、スリットの攻撃を避け続けるということに変わりはありません。

 魔力が底を突くということは、単に魔法が使えなくなるだけの話ではありません。

 普通は魔力を使ったとしても少し休めば回復するのですが、限界の限界まで使い尽くすとその自然回復もできなくなるのです。そしてそこまですると、魔法を使わずに普通に体を動かすことにも支障が出始めます。

 最悪の場合、意識を失ってしまうこともあります。

 例え魔力を使ったとしてそんなギリギリまで使わなければ良いのですが、スリットがそこの調整をするとは思えません。

 勝負に勝てる目があるなら全力でそこを突き進む。その後にどうなるかはその後に考える。

 それほど長い付き合いではありませんが、スリットが戦いにかける情熱がそれくらいあるのは知っています。

 そしてスリットならば決勝のことは考えずに本気を出していくでしょう。

 ワタクシもまた同じです。

 幸いにも身体強化の魔法を使わずとも避けられるので、ワタクシの方でガス欠を起こすことはありません。

 しかし、スリットも徐々にではありますが攻撃のスピードが上がってきました。

 魔法はまだまだ練習途中。ナイフに炎を纏わせながら身体強化の魔法を使うのには慣れていないのでしょう。お陰で、格段に力が増すということもなく、ワタクシも対応できていました。

 そして、身体強化の魔法を使って攻撃の速度が上がればナイフを纏う炎が小さくなり、ナイフを纏う炎が大きくなれ攻撃の速度が下がる。

 どちらも万全に使えるということはないようです。


「どうしました? それではいつまでもワタクシを倒せませんよ?」

「くっそぉ……。まだまだ!」


 悔しそうでありながら楽しそうな表情。

 心底、この戦いを楽しんでいるのでしょう。

 普通なら、スリットが力尽きるのをただ待つだけのワタクシを卑怯だ、ズルいだ、正々堂々戦えと言うのでしょうが、スリットもこれが作戦であるとわかっています。

 それでも攻撃を変えないのはスリットの戦い方もまたワタクシに有効だからです。

 一つでも食らえばワタクシも負けかねません。

 縦、横、斜め、突き。ナイフの攻撃に織り交ぜられるパンチやキック。時折タックルまで仕掛けてきます。

 ワタクシはそれはひらりひらりと躱し、時には受け止め、時には反撃する。

 ステージ上を目まぐるしく駆け回っていました。


「これで……終わりだぁ!」


 フッとスリットの体から力が抜けたかと思うと、一瞬でこちらに向かって来ていました。最初に見せた瞬間移動のような、それを超えていてもおかしくないようなスピードです。

 それが理解できたのも、スリットの動きがスローモーションで見えていたからです。

 スリットも、審判も、観客も。そしてワタクシの動きもすべてがゆっくりと動き、それでもワタクシの思考だけはいつも通りに働いていました。

 顔面に向けられて放たれるナイフ。それは順手から逆手に持ち替えられる途中でした。炎も消され、この身体強化の魔法にすべてを懸けたのでしょう。それでも逆手に持ち替えたのは優しさでしょうか。そういえばさっきもワタクシの頬が切れましたし、炎で鞘を燃やし尽くしたのでしょう。

 とりあえず屈んでナイフの通る軌道から体を外します。そして両方の拳を握り締め、スリットの腹へ向けて突き出しました。

 その瞬間、時間が元に戻りました。


「ごはぁっ!?」


 一瞬の間もなく両手に圧力が。力に圧し負けて曲がりそうになる肘を無理矢理押さえつけて、折れないように身体強化で守ります。

 先ほどとは比べ物にならないほどの血を吐いたスリット。手に伝わる感覚からも手応えは十分です。

 しかし恐ろしいのはスリット。

 拳で受け止めたにも関わらず勢いは衰えず、ステージから押し出されそうになりました。

 そして止まると、フッとスリットの体から力が抜けました。


「……勝負あり」


 朦朧とする意識の中でその言葉だけが聞こえていました。


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