第60話
準決勝。再び組み合わせがシャッフルされました。可能であれば準決勝でスリットと戦いたいものです。
ここまで残っている出場者が一筋縄でいかないことはわかっていますので、スリットと戦う前にもう一人と戦って消耗することは避けたいです。
そしてスリット、続いてワタクシがくじを引き、
「いよいよだな……」
「ええ。決勝でなくて残念でしたね」
ついにワタクシとスリットの対戦が決まりました。
知られないように胸を撫で下ろします。
準決勝第一試合です。
決勝で戦おう、と言っていたものの準決勝だからと不機嫌になるスリットとではありません。そもそもがワタクシと戦いたがっていたのですから、戦えればそれで良いのでしょう。
楽しみですが少し怖いです。
戦うのがわかっていましたのでスリットの試合は見ていましたが、まだ底は見せていないような、そんな雰囲気がありました。
前に戦ってからスリットも修行をしているでしょうし、辛い戦いになるのは確実です。
スリットと交わす言葉も少ないままに、係の人に促されてステージに上がります。スリットもワタクシも緊張はしているでしょう。
ただ、どこか笑っているように見えます。
ナイフを抜いていて、ワタクシも大剣を構えています。互いに鞘に納めたままですが、だからと言って安心できることはありません。
「試合……始め!」
始まりの合図が出た途端、スリットの姿が消えました。
何十人と乗っても余裕のあるステージですが、それでも動けるスペースには限界があります。顔を少し横に振ればすぐに見渡せるのですから。
そこでわざわざ左右に消えるなんてことをスリットがするはずないでしょう。
急いで数歩下がると、今さっきまでワタクシがいた場所にスリットの拳が叩き込まれました。
ステージにヒビが入り、その部分だけ大きく足場が崩れました。落ちて来るのがわかっていたので反撃に、と用意していたワタクシの拳も、放つよりもその場から離れるのが優先です。
「もう少しステージを大切にしませんと……」
「どうせすぐ取り壊すんだ。関係ないだろ」
距離と取って落ち着きたいワタクシと、それを防ぐように攻め立てるスリット。二人でステージ上を追いかけっこ状態でした。
受け、躱し、弾き、避ける。その合間合間にワタクシからも攻撃を仕掛けます。
前に戦った時の時点で、身体強化の魔法を使ったスリットには素のワタクシは力で負けていました。それに勝つにはワタクシも身体強化の魔法を使うしかありません。
当時から魔力の量も増やしたとは言え、そう何度も使える物ではなく、使いどころは慎重に見極めなければいけません。
「それが今です!」
スリットの放った前蹴りを躱し、お返しに今度はワタクシがスリットの軸足である右足へ向けて前蹴りを繰り出しました。
身体強化の魔法に加え、蹴りを放った軸足、その脛への一撃。
どれだけの痛みがあるかは簡単に想像ができます。
しかし蹴りを入れたスリットの足は、大地に根を張った大木のようにビクともしませんでした。蹴ったこちらの足が痺れてしまいそうです。
お返しにと放たれた拳は大剣を持っていない左手で防ぎましたが、ステージから足が浮き上がり、そのまま吹っ飛ばされます。
その際に見えたスリットの表情は痛みに歪んでいて、まったく動じなかったからと言ってダメージがなかったわけではないようです。
しかしワタクシの左腕もまた痺れています。片手でも大剣は扱えますが、やはり重量と大きさはネックです。
これもワタクシが転生する時に決めたこととは言え、当時の自分を恨みたくもあります。そこも含めての萌えだとも思いますがね。
右手一本で大剣を振りかぶり、そのままスリットに突撃します。
スリットほどの身のこなしがあればワタクシの剣での一撃を避け、その隙に反撃することも容易でしょう。
まずは脛のダメージが残っている内に攻めるしかないでしょう。
やはりスリットは強いです。
蹴りを受けた右足を庇いながらも、ワタクシからの決定的な一撃は受けません。身のこなしもそうですが、スリットは大したダメージがなさそうであれば自ら食らい、ワタクシのペースを操作しているようでした。
その観察力にも舌を巻きます。
いつでも大剣の一撃を繰り出せるようにチラつかせていますが、警戒をしてなおワタクシの攻撃を受けているのですから。
で、あればこれも作戦に使えるでしょう。
スリットの放つ左のパンチを躱し、向かって右側に隙が現れます。
短い間の攻防の中でスリットは時折こうして大剣での一撃を誘っていました。ならばその誘いに乗ることにします。
本気で、これで終わりにするつもりで右腕を振り抜きます。
しかしその手に大剣は握られていません。
「んな!?」
「かかりましたわね!」
大剣の一撃を躱されてしまえば、確かにその後の攻撃にワタクシは対応し切れないでしょう。しかしその大剣を手放し、身軽になればそうはいきません。
しかも来ると思っていた大剣が来ずに、スリットも驚いたのでしょう。その動きが一瞬だけ止まりました。
そしてその僅かな隙を見逃すはずもありません。
この策を思いついた時から追撃をするつもりだったので、攻撃の準備はすでに万端です。
拳は強く握り締められ、身体強化の魔法で左腕は強化してあります。ステージをぶち抜きかねないほどに踏み込み、その力を余すことなくスリットの腹へ叩き込みました。
強いとわかっていて、耐えられるともわかっているので手加減は少しもしていません。




