第59話
そしてあれよあれよと言う間にワタクシの試合になりました。
前の二試合も特に問題が起きることなく終わり、精神統一する時間はありました。
これまで何人ものターゲットと戦いましたが、こんな風に深呼吸して精神集中することなんてありませんでした。
まさかこんな神様とか関係のない場面で緊張するとは思いませんでした。
これまで気合を入れたりと、そういうことはしましたがその時とはまた違った心持です。ターゲットと戦う前は高揚したように勢いのまま仕掛ける感覚ですが、今は静かに刃を研ぎ澄ませるような感覚です。
しかし緊張はしていてもちゃんと戦えばワタクシが負けるとは思っていません。
それは油断とかではなく、神様の力を借りているという自負と自信です。
大剣はすでに取り出してあります。鞘にしまったままで、切れることはないので思う存分振ることができるでしょう。ガントレットも異常はなし。
審判に促されてスタート位置に着きました。
対面の相手――ジョー・ルークは鎧を着ているわけではありませんが、細身の剣を右手に持ち、左手には小さな盾。立ち姿がどことなく騎士のようでした。
「試合開始!」
一拍置いて、ワタクシからジョーに向かって行きました。
騎士っぽいという印象から、自分から攻撃を仕掛けるのではなく相手の攻撃を迎え撃つ、そういうタイプだと予想していましたが、試合開始の瞬間に攻撃をしてこなかったのでそれは間違っていなかったでしょう。
最初の一拍はそれを判断するための間です。
盾を持っていようがこれだけの質量のある大剣を叩きつければ、防いだとしても老体には厳しいでしょう。
なのであえて、防がせるようにジョーの左側を狙います。
あと一歩で射程範囲。ジョーはそこでようやく動きました。
踏み出しながら剣を薙ぐために構えます。そして目にも留まらぬ速さで振り抜かれ、その軌跡からいくつもの雷が現れました。
「――んな!?」
咄嗟に大剣の軌道を変えて間に差し込み剣の一撃は防ぎましたが、雷は刃を伝ってワタクシの体まで流れ込みました。
魔法の雷とは言え自然に発生した雷とほとんど変わりはありません。
それほど強い魔力を込めていなかったのか体に残るダメージはそれほどではなく、手が多少痺れるくらいです。
魔法による攻撃を防ぐには、その攻撃と同等以上の魔力をぶつけるしかありません。魔法に対して魔法で迎撃するか、身体強化の魔法と同じように体内に魔力を集中させるかです。
生憎、大した魔力量ではないワタクシは魔法に対する防御はほとんどできないのと一緒です。
だからと言ってジョーに実力がないと断ずることはできないでしょう。
これまでの試合を見ていなかったのが悔やまれます。
ジョーは素早い剣戟でワタクシを攻め立て、武器の小回りで負けているワタクシはそれを防ぐことしかできませんでした。こういう時に、小さい体で良かったと思えます。
その剣戟の最中に雷撃が放たれ、それを避けるのに精神が擦り減らされていきました。
そして恐ろしいのは、ジョーの剣を防ぐために大剣で受けると、そこを通してまた雷が流し込まれていることです。
塵も積もれば山となる。一回一回は大したことのない雷でも、次第に手の感覚が失われていくようでした。
可能な限りは避けるしかなく、体力よりも先に精神が音を上げそうです。
「恐ろしい人ですわね!」
隙を見つけて瞬時に後ろへ下がりますが、ジョーもまた瞬時に開いた間を詰めます。
ジョーはワタクシの言葉にも反応を見せず、クラストのように冷静さを失わせて、というのも無理そうです。
今度こそ身体強化の魔法を使って早めの決着を狙うしかないでしょうか。
このまま雷の魔力が蓄積され、動けなくなった時が終わりです。それならば、まだダメージの少ない内に肉を切らせるしかありません。
半ば諦めにも似た感情で選択した戦略でしたが、やるとしても覚悟を決めるのに少し時間が必要でした。
そしてその覚悟を決めるまでの僅かな時間でワタクシの雰囲気が変わったのを感じたのか、ジョーの攻撃も激しさを増しました。
剣のスピードが上がり、その合間合間に放たれる雷撃も勢いを増したようでした。
とりあえずは避けるのに専念し、強力な一撃を叩きこむ隙を探します。
そしてその間にも魔力を練り上げ、ジョーを倒すのに必要最低限の魔力を体の隅々へ送り込みます。
ジョーはただの人間で、しかも老人です。連続の攻撃もいつまでだって続かないでしょう。泳いでいる時の息継ぎのような、その瞬間を狙います。
避けるのに専念しているのでさっきまでよりは余裕を持って躱せているように思います。
その時は来ました。
横薙ぎの剣を屈んで躱し、軌跡から放たれた雷を横に転がって避けます。素早く体勢を立て直してジョーを見ると、こちらへ顔を向けるのが少し遅れていました。
ここが千載一遇。そして最初で最後のチャンスです。
後ろへ回り込むように動き、振り返るのが間に合わない内に練り上げた魔力を腕に集中させます。
「背中ですわ!」
死にはしないでしょうがもしものことを考えて忠告します。
そもそもこの一撃はダメージが目的ではなくジョーをステージ外へ吹っ飛ばすのが目的の一撃です。
拳は握らず、手の平を押し出すようにジョーの背中へ叩きつけました。
「お疲れさん」
「はい。本当に疲れましたわ……」
ジョーの魔力の影響は少し残っているものの、これは時間が経てば自然と治るでしょう。
それよりもジョーの体の方が心配なので治癒術師はそちらへ向かってもらいます。
ワタクシ自身、想像していた以上にこの大会に入れ込んでいるようです。最後の一撃は結構な本気の一撃でした。
ここまできたならやはり、優勝はしたいものです。




