第57話
すべての一回戦が終わり、勝ち残ったのは三十二人。その中にはもちろんワタクシとスリットもいます。
二回戦からは一対一のトーナメントになるとのことです。
そしてなんの因果か、ワタクシとスリットは別ブロック。決勝で戦うことになりました。
「良い組み合わせじゃねえか……!」
「あら。嬉しそうですわね」
「そりゃな。最後に強い奴と戦えるんだからな。楽しみだ」
「良かったですね」
残っている出場者達はベスト三十二だけあってそれなりの雰囲気です。もしかしたらこの中にまだ見ぬ強者がいる可能性も十分にあります。
そして二回戦が始まりました。
特筆すべきところもなく第一試合、第二試合が終わり、いよいよ第三試合でワタクシの出番です。
前の二試合の勝者、試合を見る限りでは大した敵ではなさそうです。問題は今回の対戦相手と次の試合の勝者です。
さて、ワタクシに続いて対戦相手がステージに上がりました。
細身の女性で、ワタクシが言うことではありませんが戦えるようには見えません。
「あなた、見た目によらないのね」
「それはお互い様ですわ。ずいぶんと見た目に気を遣っているようで……」
リボンで括られた長い髪はサラサラと流れ、服装も動きやすさ重視であるもののかわいさも忘れていませんでした。そして体中傷だらけだったスリットとは違って見える部分に傷なんかもありません。
「それこそお互い様よね」
言われる通り、ドレスを着ているワタクシが言えたことではありません。
ちなみに、ワタクシは面倒だったのでポイントで手入れ不要にしてしまいました。今では長い髪の毛を洗うのも慣れましたが、最初は一々大変だったのです。
他にも服もいくつもストックを用意してあります。
それはさておき、二人で開始地点に着きました。それほど広くないステージでは大した距離は開けられません。身体強化の魔法を使えば一瞬でしょう。
「それではアマル・フリステラ選手とマルキ・アレア選手の試合を開始します」
一回戦は見ていませんでしたが、マルキは見た目からしてスピード型の戦い方でしょう。
身体強化の魔法で速さも力も補えるとは言え、やはり力に任せた戦いをする人は相応の見た目になり、身に着ける物も鎧だとか力強い装備です。
しかしマルキは鍛えられているものの、それは引き締まっているという印象です。
様子を見る、なんて言っていたら先手を取られてしまうでしょう。
開始の合図が出された瞬間が勝負です。対応できるように身体強化で動体視力やら反応速度やらそういうのをまとめて強化します。
マルキがワタクシの想像している通りのタイプなら勝負はすぐに終わるはずです。
「それでは……始め!」
合図の瞬間、マルキがこちらへ向かって飛び掛かって来ました。しかしその動きはスローモーションのようにゆったりと捉えられています。
そして予想通り、拳を握って殴ろうとしていました。
頭に向かって放たれたそれに合わせて宙返り。そしてそのままマルキの顎を蹴り抜きます。パカーン、とでも言いそうなほど爽快な一撃を受けて、マルキは勢いを保ったまま倒れ込みました。
子供相手にいきなり蹴り上げるようなことはしない。そう、第一印象で感じた通りマルキは拳を選択しました。
そう信じていたので殴り掛かって来た時の戦い方を考えていたのです。
その通りに試合が終わって少し満足です。
「試合……終了……」
そういえば、武闘大会と聞いて殴り合いを想像していましたが、こちらの世界の武闘大会なら魔法を使うこともあるでしょう。
ワタクシが使わないのでまったく想定もしていませんでした。
次からは気を付けるとしましょう。
スリットの試合も危なげなく終わりました。
対戦相手の攻撃を躱し、一撃でステージ外に叩き出して終了です。
三回戦。気づけば残っているのも十六人です。
どうやらここからは武器の使用も許されるそうですが、流石に使う気はありません。スリットと戦う時までは取っておきましょう。
次の相手はブラッディ・ピーターという筋骨隆々とした男でした。
その見た目のイメージと違わず、二回戦でも力任せに相手を殴り、殴り、殴って勝ったパワー型の出場者です。
この手のタイプはいつの時も噛ませ犬として扱われがちですが、ブラッディは違いました。
開始の合図があってからワタクシの一発。先手必勝と早々に終わらせるつもりでしたが、ブラッディはそれを耐えたのです。
そこから睨み合いが続きました。
「どうした嬢ちゃん、もう終わりか?」
「いえいえ。あなたを倒す手段を考えていたところですわ」
「そりゃあ、頼もしい……な!」
放たれた拳は、まるで太い棍棒を振り回したかのように大きな音を立てて空気を切りました。余裕を持って躱したはずなのに風圧を感じてしまうほどです。
力だけならスリットに匹敵するかもしれません。
繰り出されるパンチや蹴りの連携はまだまだですが、一撃一撃がその連携の隙を補って余りあるパワーを秘めています。
あれだけの腕力ですから、無傷では済まないでしょう。
タイミングを外せば食らってしまい、そして一発でも食らえば、二発目、三発目と続けて食らう可能性もあります。
思わぬダークホースが現れたものです。
身体強化の魔法を使えば勝てるとは思いますが、スリットとの戦いを考えると少しでも魔力は温存しておきたい。しかし身体強化の魔法を使わなければ倒すのに手間もかかり、その分だけ体力も使ってしまうでしょう。
「まぁ……考えるよりも試してみるのが良いでしょう」
距離を取って、自らに言い聞かせるように呟きます。
最初の一撃は腹に向かっての一撃。二回戦でのワタクシと同じように、ブラッディも開始の合図よりも前に準備していたのかもしれません。
身体強化の魔法を使っていない一撃でしたので、耐えられたとしてそうおかしな話ではありません。
素の身体能力ではワタクシが勝っているはずです。で、あるならば防御が間に合わないほどのスピードで翻弄するしかないでしょう。
向かって来るブラッディに合わせてこちらも距離を詰めます。
ブラッディが殴り掛かろうと拳を引いたそこに合わせて踏み切り、飛び膝蹴りをその顔にお見舞いします。
「ぶふっ!」
仰け反ったその頭を支点にして背中側へ降り立ちます。そして背中に向かって後ろ回し蹴りで姿勢を正してやります。
まだまだ終わりません。スリットと同じレベルの相手と考えなければいけないでしょう。
後ろから膝を蹴りつけて跪かせます。後頭部を殴り飛ばし、素早く前へ回ってその頭をステージへと叩きつけました。
流石にこれで立ち上がることはできないでしょう。
しかしフラグという物はあります。
審判が急いでブラッディの状態を確認している間も、起き上がって来ないかと警戒します。それでもすぐ、ブラッディは担架に乗せられて運ばれて行き、
「アマル・フリステラ選手の勝利!」
ワタクシの勝利が確定しました。
魔力は温存できたものの、なんだか精神的に疲れてしまいました。
次の試合まで少しでも時間が空けば良いのですが。
スリットは再び、一撃で相手をステージ上から叩き落して終わりました。
簡単な相手ばかりで羨ましい限りです。




