第55話
ワタクシ達が寝泊りしていた場所に行くと、スリットはすでに寝息を立てていました。
他のグループの焚火がこんな時間でもいくつか燃えていましたが、ほとんどの火は消されています。
町の外もすっかり夜といった様子です。
スリットを起こさないように静かにその隣に腰を下ろし、ワタクシのために残してあった毛布に身を包みます。
そして目を閉じればすぐに眠りの中へ落ちて行きました。
朝。
昨日はなかった騒がしさで目が覚めます。隣のスリットは豪快にいびきを立てていましたが起こします。この騒ぎがどうとかいうよりは単純に、いびきがうるさかっただけですが。
「なんだか騒がしいな?」
「ええ。ワタクシも今起きたばかりですが」
騒ぎの原因は見当がつきますが、我ながら白々しく返します。
どことなく不審に思っていそうなスリットでしたが、特に追及されることはありませんでした。
朝ご飯の準備を始めたのでそっちの方がスリットにとっては重要なのでしょう。
リーウェンが死んだことを知ったら、ガッカリするでしょうね。
「おい……あのリーウェンが死んだってよ……」
「朝の騒ぎはそれですか……。戦えなくなって残念でしたね」
「それもそうなんだが……」
朝ご飯を食べてすぐにギルドへ仕事を探しに行ったスリットは何分と経つことなく帰って来ました。
前回の大会優勝者として今大会でも優勝の最有力候補であったリーウェンですから、それが殺されたとなれば町中で話題になるでしょう。少なくとも大会が終わるまでは人々の話題の中心となるでしょう。
戦いたがっていたリーウェンが死に、スリットは試合をすることができなくなりました。
落ち込むかとも思っていましたが、どうやら様子が違います。
「アマルちゃん……なにか知ってるな?」
「どうしてそう思うんですか?」
その答えがすでに、リーウェンに対してなにか知っていると答えているようなものでしたが、スリットにならワタクシのことを話しても良いかな、という気もします。
神様もこれくらいなら許してくれるでしょうか。もしかしたら心強い協力者になってくれるかもしれません。
「リーウェンが死んだと聞いてもなんも驚いてなかったからな……。なにか知ってるから驚かなかったんじゃないのか?」
「……そもそもワタクシはリーウェンにも大会にもそれほど興味がないのですが、それでもおかしいですかね?」
「それもそうか」
ワタクシはスリットほど、強者との戦いに飢えているわけではありません。
武闘大会にだってスリットが勝手に勘違いして、出場を断る理由も特になかったから参加しただけで、もしも大会が中止になったとしても構わないでしょう。
同じように、リーウェンの死もただのワタクシは興味を持っていません。
まぁ、神様の手先としてのワタクシは昨日までは興味津々でしたが。
ワタクシとスリットの関心具合の温度差を考えれば、ワタクシの反応もうなずけるものでしょう。スリットはそこを少しだけ忘れていたようです。
指摘されてすぐに納得してしまうのもどうかと思いますが。
「いや待てよ……。リーウェンを直接見たわけじゃないが話を聞く限りだと相当の実力者だ。それを殺せる人物なんて、アマルちゃん以外にいるのか?」
「……その可能性もゼロではないでしょう」
「いや、そんなことはあり得ないな。もしかしてアマルちゃんがリーウェンを殺したのか?」
まったく。スリットは鈍いのか鋭いのかわからないです。
実際、リーウェンを殺したのはワタクシですが、スリットの推理は穴だらけです。ワタクシがしらばっくれようと思えばしらばっくれることはできます。
しかしせっかくですので白状することにしましょう。
ワタクシ。そしてスリット自身。リーウェン。この三人以外に強い者はいない、なんて言い切るのであれば、なにを言っても無駄でしょう。
「場所を変えましょうか。ここだと人目がありますから」
ワタクシの提案にスリットも神妙な顔でうなずきました。
場所を変えると言っても、町から少し離れるだけです。街道から外れれば、周囲になにもない所へ出ます。
見渡しが良く、誰かが近づいて来てもすぐにわかるでしょう。魔物も同様です。
数歩分開けて相対しているスリットはどこか緊張しているようです。
ワタクシが殺人犯かもしれない、と思えば当然でしょう。そしてそれは自分よりも強い相手。興味ないと言っていたリーウェンを殺したのであれば、自身が狙われてもおかしくない。
それでも数歩分しか距離を開けないのは、自分の実力に対する自信でしょうか。
「まず、リーウェンを殺したのはワタクシで間違いありません」
「やっぱりそうか……」
「リーウェンを殺せるくらいの実力を持つ者は多分、大会の出場者にもいないでしょう。そういう意味ではスリットの推測も当たっていましたね」
「外れてて欲しかったがな」
「あなたを殺す予定はないのでそう警戒しなくても良いですよ?」
ジリジリと距離を取るような動きをしながら、腰元のナイフに手をかけていたので一応知らせておきます。
流石にこれで、はいそうですかと警戒を欠くスリットではないですが。
「なんで殺したのか理由はあるのか?」
「どこから話したものでしょうか……」
ワタクシが別の世界で死に、神様に選ばれたところからでしょうか。
それだと長すぎる気もします。
「ワタクシは神様に選ばれて世界を滅ぼしかねない人物を殺して回っています。信じられないでしょうが……事実です」
「証明できるのか?」
「この見た目であなたと同じくらいの実力。神様に選ばれたとは思えませんか?」
「……確かに」
それだけで信じられても少し拍子抜けですが、スリットにとっては強さがなによりも信用できる基準なのでしょうか。
ナイフからも手を離し、脱力もしました。
なんだか呆れてしまいます。
「もう少しこう……疑うとかはないのですか?」
「アマルちゃんが理由もなく誰かを殺すようには思えないからな。ちゃんと理由があるなら納得だ。神様に選ばれたっていうのも……まぁ、そういうこともあるだろ」
「……そうですか」
なんだか真面目にしていたこちらが馬鹿らしく思えてきます。
しかしそんなスリットだからこそ話したのです。
ワタクシのする仕事になにも言わず、邪魔をすることもない。どんな理由があっても殺しはダメだ、なんて言うこともない。一安心です。
「じゃあ、俺もアマルちゃんに殺されないようにもっと強くならなきゃな」
「……その前に世界を滅ぼそうとしないでください」




