第53話
「無事に受付できて良かったですわね……」
「本当にそうだな!」
まさか今日が受付の締め切りだったとは思ってもいませんでした。
結局、人に尋ねても単純に辿り着くのが大変で、受付終了ギリギリの時間でなんとか出場受付をすることができました。
なぜだかわかりませんが、周りに流されてワタクシも出場することになりました。
「せっかくここまで来たんだから」なんて言いましたがそこでワタクシのような子供を誘うでしょうか。少しその職員には呆れてしまいます。
そして買い物をして町の外に出た頃にはもう日も沈み、空には星が瞬いています。
ワタクシ達と同じように宿が取れずに町からあぶれたのか、結構な人数がテントを広げて焚火を囲んでいます。
ほとんどが大会の出場者らしき人物でしたが、中には一般人の姿もありました。
これだけ実力者が固まっているのなら魔物に襲われても大丈夫、と考えているのでしょう。そもそも町のすぐ近くにまで魔物が現れることも稀です。
毎年の光景なのか、門の辺りを警備している兵士達もなにも言いませんでした。
「さて、飯にするか」
「準備しますわ」
スリットには焚火の準備をお願いし、目を離している間に鍋やら食器やらを四次元ポケットから取り出します。
これは普通の魔法では再現できない神様の奇跡みたいな物ですから、スリットに尋ねられたら答えようがありません。バレないようにするのが良いでしょう。
「あれ、そんなの持ってたか?」
「折り畳み式ですので」
納得はしていなさそうですが、ワタクシが無視をするような雰囲気を出していたので、それ以上の追求はありませんでした。
お肉と野菜を煮込んだだけの簡単なスープです。
自分で料理を作る時もありますが、その時もこんな感じで簡単な料理ばかり作ってしまいます。時間はありますので少し手の込んだ料理を試すのもアリかもしれません。
「スリットは大会までの間どうするんですか?」
「んー……修行したいが金も稼がなきゃだからな。冒険者の仕事を探してみるよ」
「ワタクシはどうしましょうかね……」
お金に困っているわけでもありませんし、スリットのように大会で優勝したいわけでもありません。
大会の前優勝者ですから簡単に見つかるとも思えませんが、ダメ元でリーウェンを探しに行きましょうか。
言ってはアレですがコートミールは観光地というわけでもありませんので見る物もないです。
大会に出場しないで日を改めれば良かった、と今更ながらに思ってしまいます。
「やることないんなら一緒に仕事しようぜ。魔物を探すのは得意なんだ」
そういえばスリットは、無人島では狩人のような生活をしていました。
持てる技術を使えば魔物を探すことは造作もないでしょう。冒険者としてはそこそこなワタクシとしては羨ましい能力です。
スリットとワタクシが組めば大抵の魔物は倒せそうですが、ワタクシはその申し出を断ることにしました。
「ちょっと町を見ておきたいですし、組むほどの仕事もないでしょう」
「それもそうか」
武闘大会ですからその出場者にも冒険者は多いでしょう。
冒険者として登録してあればどこのギルドでも依頼は受けられるので、大会が開かれるまでの時間は冒険者が増えるはずです。
そもそも仕事にありつけるかも微妙ですね。
スリットの実力であれば魔物に苦戦することはないでしょうし、ワタクシと組んで報酬を折半するようでは損にしかならないでしょう。
ワタクシは頑張ってリーウェンを探すことにしましょう。
昨日と変わらず町の中は人でごった返していました。
昔、小さい頃に遊びに行った祭の時を思い出します。身長的に見える景色はその時とほとんど変わりません。
大人の視界には気を付けていないとワタクシは入りません。昨日はスリットがいたので目立っていましたが、今日はぶつかられることが多いです。
思わぬところでスリットに感謝してしまいます。
流石にそんな状況でいつまでも歩き続けるのは大変だったので、近くにあった店に逃げ込みました。
宿屋と飲食店が一緒になったような店で、その内のテーブルに腰を落ち着けます。
「いらっしゃい。迷子……ってわけじゃないみたいだな」
「ええ。なにか冷たい飲み物をください」
「かしこまりました」
店員が持って来てくれたのはサイダーのような炭酸のジュースでした。
町を歩いている間、注文を待つ間、そしてジュースを飲みながら一息吐いている間。道行く人々を眺めていましたがリーウェンの姿はありませんでした。
有名な人みたいですから、町中を無防備に歩いていては騒ぎになるのでしょうか。その気配もまったくありませんでした。
これだけの人混みですから知らぬ間にすれ違っていたとしても気づかないでしょう。
「さて、どうしましょうか……」
考えてはいますが焦ってはいません。
見つからないのはマジラと同じですが、今回はマジラと違って、最終的にリーウェンが出て来るところはわかっています。
受付の時にリーウェンが出場するのは確認したので大会で会えるはずです。
ただ、一週間やることもなくて暇なので探しているだけです。
店内は他に客もおらず、外の喧騒と違って静かな空気が流れています。なんならこういう店でゆっくり時間を過ごすのもアリかもしれません。
「お嬢ちゃんは観光か? 親御さんはどうした?」
子供が一人でうろついていれば心配するのは当たり前でしょう。もう何度もしてきたやり取りです。
着ている服が服なのでただの子供には見えず、明らかに厄介を抱えていそうなのはワタクシ自身わかっています。
そんなワタクシに声をかけてくれるのですから、声をかけてくれる人達は総じて良い人ばかりなので、心配してくれて悪い気もしません。
そしてこういう時のやり取りも慣れたものです。
「こう見えて冒険者ですのよ?」
冒険者として登録した時の証明書を見せます。
一見するとただの金属のプレートですが、魔力を流すと登録した魔力であれば熱を発する仕組みです。
見た目だけではワタクシの物かどうかはわかりませんが、この証明書を持っているだけで只者でないことは伝わるでしょう。なにせ、これを持っているのは冒険者だけですから。
「じゃあ大会にも?」
「その気はありませんでしたが出場することになりました」
「じゃあ気を付けろよ」
笑いながら、そして少し困ったように言ったワタクシに対して、店主の言葉は真剣味に溢れていました。子供への忠告だとか、そんなレベルではないようです。
視線でその理由を問いかけます。
「最近、武闘大会の出場者が寝ている間に襲われているらしいんだ。知り合いの宿でも何人かやられてるらしい」
「それは……大変ですわね……」
正直に言ってしまえば大したことではありません。
飛空艇でも賊に襲われましたし、宿屋で休んでいる時に襲われると言ってもワタクシやスリットは外で寝泊りしていますので関係ないでしょう。
外まで来たとしてもワタクシ達であれば返り討ちにできるでしょう。
「しかしまぁ……気を付けるに越したことはありませんね」
「そうだな。嬢ちゃんは出場者に見えないから大丈夫だとは思うがな」
心配してくれていますが、ワタクシはまったく別のことを考えていました。
大会の出場者を減らして得をする人は誰でしょうか。優勝の目がある人であればライバルを減らして少しでも優勝の確立を上げよう、そう思うかもしれません。
そしてスリットのように純粋に強さという称号が欲しいタイプであれば、勝負外で手を出すようなことはしないはずです。
これは勝手な偏見ではありますが、一度優勝してその栄光を知り、そこにしがみつくために他の出場者の妨害をするのは前大会の優勝者がするようなことです。
そうでなかったとしても闇雲にリーウェンを探すよりは余程可能性はあります。
どうせ時間もあって暇ですので、この事件を追うのも面白いでしょう。




