第52話
飛空艇は無事にコートミールの飛空艇発着場に着きました。
艇内にいた賊もすべてスリットが捕まえ――その内の三人は死んでいました――まとめて艇に拘束しています。
あらかじめ軍に連絡がいっていたのか、到着してすぐに軍隊が賊を連行していきました。
一応、ワタクシ達乗客も身体検査を受け、すぐに解放されました。
武器は四次元ポケットにしまっているので疑われる理由がありません。他の乗客から聞いても、ワタクシのような子供が賊を倒した、なんて信じられないでしょう。
「あー……人が多くて気持ち悪いな……」
「同感ですわ」
世界的にも有名な大会は伊達ではなく、発着場から一歩外へ出ると町は人でごった返していました。右も左も、前も後ろも人ばかりです。
ラジオやテレビのないこの世界でこれだけ人が集まるのですから、どれだけ権威があるのかもわかるようです。
しかしスリットと同じようにワタクシも少しげんなりしています。
昔から人の臭いというのが苦手で、満員電車なんかだと気を付けないとすぐに気分が悪くなっていました。
ずっと無人島で生活していたスリットも同じようです。
疑問が一つ。
「どうしてワタクシに付いて来ているんですか?」
飛空艇を降りてからずっとです。
ワタクシとスリットは久しぶりに再会した顔見知り程度の関係で、一緒に町を練り歩くような関係では決してないはずです。
まさかワタクシが子供だからと心配しているわけでもないでしょう。
「いやぁ……こんだけ人が多い所は初めてでよ。迷っちゃいそうなんでよ」
まさか逆だったとは。
ワタクシが迷うか心配ではなく、自分が迷うか心配。宿の場所もわからなければ大会の出場受付をどこでしているのかもわからない。そんなところでしょうか。
神様の仕事でいくつもの国や町を巡っていますので、人に教えられる程度にはワタクシもそういうことを知っていますが、少し脱力してしまいます。
「わかりました。とりあえず宿を探しましょうか」
「おう。助かるぜ。こういうことには慣れてなくてな……」
「そういえば、お金は持っていますの?」
飛空艇に乗れたのですから無一文というわけもないのですが、スリットのことですから「食い物はすべて自分で獲った」なんて言われても驚きません。
しかし流石にそんなことはなかったようです。
スリットは財布を見せてきました。その中には何枚もの硬貨が入っていて、中には金貨も混じっていました。
「島を出てからは冒険者になってな。それなりに稼いでいるよ」
「……ちゃんと仕事しているんですね」
「馬鹿にするなよ。島籠りする前はちゃんと町で暮らしてたんだから」
最初の出会いが出会いで、会話していてもそんな感じなのでスリットのことはジャングルの奥地で暮らす原住民、くらいの印象です。
しかし考えてみればあの島に一人で生まれたわけもなく、常識があるのも当たり前でした。彼が最強を目指すなんて言い出したそのキッカケは少し気になります。
しかしスリットの実力があれば冒険者としてはすぐに名を上げるでしょう。
最強を目指すスリットとしても、色々な魔物と戦える冒険者は天職かもしれません。
「冒険者をしているんなら、迷ったりもしないのではなくて?」
「だからこんな人混みは初めてなんだよ。不安でな」
「人が多いだけで他の町と変わりませんがね」
意外な弱点を発見してしまいました。
だからといってそれで意地悪をする気はありません。手頃な宿を見つけたので、スリットの了解も取ってそこにしようと決めました。
しかし、
「悪いね。うちはもう満室だよ」
その次の宿も、
「空いてないね。もっと早く来なくちゃ」
と断られてしまいました。
どこも同じようでやはり、
「この時期は観光客がいっぱいだからね……。どこも空いてないんじゃないか?」
と、五軒目の宿屋で言われてしまいました。
さてどうしましょうか。
「やっぱり宿は見つからないか……」
「えぇ。こんなに人がいるだなんて予想もしていませんでしたわ」
知っていたらもう少し早めに来ていたでしょうか。ワタクシ一人であればちゃっちゃとリーウェンを倒してその日の内に終わらせたかもしれません。
しかしスリットであればそれほど気を遣う必要はないかもしれません。
「スリットは野宿でも構いませんか?」
これまで島で暮らしていたスリットですので、野宿自体は問題ないでしょう。
ワタクシとスリットであれば町の外にいるくらいの魔物は敵ではありません。ゴブリンなんて一捻りでしょう。
なんなら見張りを立てずにすぐ寝入っても良いかもしれません。
「おう、良いぞ。こんなんなら仕方ないしな」
案の定、スリットも二つ返事で了承してくれました。
「では食材でも買って町から出ますか。これだけ人がいたら路上で寝るのも難しそうですしね」
「なんだ探せばそこら辺になにかいるんじゃないか?」
「すぐそこで売っているんですから買いましょう。それよりも先に大会の出場受付が先ですかね。早く済ませておいた方が良いでしょう」
馬鹿にしているわけではありませんが、スリットはやはり宿屋に泊まるよりは野宿している方が似合いそうです。まず最初に食材を狩ろうとしたくらいですからなおさらです。
それは良いとして、スリットがこの町に来た目的は武闘大会への出場です。
ワタクシには正直その気はないのですが、スリットの様子を見ると一人で受付もできなさそうです。スリットでなくとも、これだけの人混みの中で大会の受付を探すのは大変かもしれません。
せっかく町の中にいるのですから早く済ませるのが吉でしょう。一度町の外に出たら、またこの人混みに戻って来るのは億劫です。
「そうだそうだ。それをしなくちゃならないんだったな」
本人が忘れていてはどうするんだ、と話です。
わかりやすくため息を吐いてしまいます。
「それで、受付はどこでやっているんですか?」
「いや知らないぞ。アマルちゃんが知っているんじゃないのか?」
「ちょっと……ワタクシはその大会の存在もあなたから知ったくらいですよ? ワタクシが知るわけないじゃないですか……」
スリットと一緒にいるとため息に困りません。幸せが逃げているとしたら相当不幸になっているはずですわ。
しかしスリットに文句を言っても仕方ありません。
今も悪気なく笑っているので、怒ったりしたところで無駄でしょう。
「とりあえず探しますか……」
まさかこんなことになるとは。スリットと再会した時には思ってもいませんでした。
幸いにも人はたくさんいて、その人達の目的も武闘大会でしょうから、誰に聞いても答えは返ってくるでしょう。




