第50話
ワタクシとスリットが振り返ったのは同時でした。
展望台の入口があった所からは煙が立ち上り、その前には武装した男達が十人ほど並んでいました。
出入口が塞がれているので逃げることはできません。きっと、艇内も占拠していて、艇長なんかも人質に取っているのでしょう。
しかしなんとも無謀にも思えます。
「空賊か? この艇を選ぶなんて馬鹿なのか?」
スリットも同じ気持ちのようです。
神様から授かった肉体で人並み外れた身体能力を持ち、一国の軍団長にも勝る実力を持つワタクシ。そしてそんなワタクシと同等の実力のあるスリット。
この二人がいる場所を力づくで占拠するのは無謀以外の何物でもないでしょう。
しかしワタクシ達がイレギュラーだったとしても、この時期コートミールに向かう便には武闘大会の出場者も乗っています。
それも一人二人の話ではありませんので、他に仲間がいたとしても十何人で占拠するような艇ではないでしょう。
「空賊ではないんじゃないですか?」
「じゃあなんだって言うんだ?」
空賊とは読んで字の如く空の賊。山賊や海賊の空版です。
風属性の魔法で高度もスピードも融通が利く飛空艇なので、横に乗り付けるのも簡単なのです。特にこの艇は展望デッキもあるので更に侵入しやすいでしょう。
しかし最初から展望デッキにいましたが、それらしい飛空艇は見ませんでした。
つまり最初から賊は艇内に潜んでいたか、乗客として乗り込んだか。
先述の通り、この艇には戦いの経験のある者が多いので、それ以外の乗客から金品を奪ったとしてもリターンは多くないでしょう。
逆に考えると、
「ここに乗っている大会の出場者が目的なのかもしれません?」
「俺達みたいなか……」
「ワタクシの出場はもう決まっているんですね……」
その大会の存在すら初めて知ったくらいなのですが、スリットの中ではもうワタクシは出場決定のようです。
強者と戦うのが目的のスリットですので、ワタクシと戦えるのならなんでも良いのでしょう。
しかしリーウェンと戦うのであればそれが楽なのかもしれません。
「武闘大会がどんなルールかは知りませんが、対戦相手が減るのは嬉しいのではないですか?」
「そうか?」
「あなたはそうでしょうけど、楽に優勝できるならそれに越したことはありませんよ」
リーウェンが本当に優勝できるほどの実力があればこんな姑息なことはしないでしょうが、優勝して予想以上に注目され、その地位を手放したくないと思ったのであればリーウェンが企てるのもおかしな話ではありません。
しかし誰が黒幕かなんてことはワタクシにとってどうでも良いことです。
ワタクシの目的は優勝ではなくリーウェンを殺すこと。別に優勝しなくとも勝ち続けていればいずれ戦うことはできます。
そしてスリットの目的は強い相手と戦うこと。この賊ですら戦いたくてたまらないのかもしれないです。
「で、どうしますか?」
「どうするって……どういうことだ?」
「他の方々を助けるかどうかですよ。あの賊達はどうしますか?」
「どうでも良いな。アマルちゃんがやるなら手伝うぞ、肩慣らしにはなるだろ」
ワタクシも同感です。無事にコートミールで着けばそれ以外のことはどうでも良いです。
しかしスリットも中々に人情がなさそうです。
自分のことは棚に上げて他の乗客に同情してしまいます。
ワタクシ達がこんな呑気に話していたのも、賊がこちらを見ていなかったからです。
乗客を一人一人、武器で脅しながら一列並ばせています。そして荷物をチェックして金品を奪い、武器を持ったり鍛えていそうな人達は別にまとめていました。
これは本当に出場者が目的なのかもしれません。
「お前らもこっちに並べ!」
いよいよワタクシ達も気づかれてしまいました。
特に面倒事を起こす気もないワタクシ達は大人しく指示に従って並びます。
「お前も大会の出場者だな?」
「わかるか?」
「こんな体してたら当たり前だ! こっちに来い」
横から見えてしまいましたが、スリットの荷物は着替えと財布くらいしか入っていませんでした。
本当に戦い以外のことは興味ないのでしょか。
その間にワタクシも調べられますが、ほとんどの道具は四次元ポケットにしまい、外に出ているのは財布くらいで、小さなポシェットが一つだけです。
「嬢ちゃんは俺と一緒に来い。他の奴らが妙な気を起こさないようにな……。おっとこのガントレットは外させてもらうぜ。なんでこんな物してるんだか……」
ご丁寧にガントレットは外されてそこら辺に放り投げられました。この世界に来てからずっとはめている物なので愛着も湧いていれ、少しイラっと来ます。
ワタクシを人質にするとは。
賊の言葉を聞いていたのか、声を上げて笑ったスリットに注意が飛びます。
ワタクシがその気であれば一瞬でこの男は戦闘不能にさせられるでしょう。ワタクシと直接戦ったスリットもそれがわかっているから笑ったのです。
人質として身の安全を確保したはずが、その人質が一番の爆弾なのですから笑いたくもなります。
しかしこの賊達にワタクシ自身がどうこうされることは想像できず、他の乗客がどうなろうとも気にしていないワタクシは男に付いて行く最中もツンとしていたわけですが、そんなワタクシにも人々は同情の目を向けてくれます。
なにもしないのが少し申し訳なく思えてきました。
「よし、これで十分だな。それぞれに固まれ」
いよいよ展望デッキにいた全員のチェックが終わりました。
一般人と大会出場者は半々くらいです。本当に世界的に有名な大会なのでしょう。
「お前ら、準備しろ」
「はい!」
ワタクシを人質にした男がここのリーダーなのでしょうか。
その男は大会出場者のグループの方に動きましたので自然とスリットの近くに行きました。
アイコンタクトを交わしますが、どうやらスリットに動く気はないようです。
四人ずつでそれぞれの乗客を見張り、残りの二人が展望デッキの各所になにかを置いていきます。
嫌な予感がします。
「あれはなんですか?」
「嬢ちゃんは知らなくて良いことだ。わざわざ教える意味もないしな」
結構な人数、大会の出場者が乗っていますが、それをどうやって始末するのか気になってはいましたが、艇ごと爆発させようとでもしているのでしょうか。
こういう大掛かりなハイジャックをする犯人がしそうなことです。
ワタクシはテレポートで逃げることができますが、大事件を前にしてなにもしないのも少し気が引けます。
スリットを見ると軽くニヤニヤしながらこちらを見ています。
この賊をワタクシが制圧するのを期待しているのでしょうか。間近で人の戦闘を見られるのは、スリットなら喜びそうです。
さて、どうしましょうか。
いつの間にか50話!
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