第49話
充分に休息を挟み、レイナード共和国の寒さも忘れかけた頃。
ようやく仕事をせねばならないと焦る気持ちが生まれました。
それは掲示板が手配書でいっぱいになってきたからで、マジラを殺してから実に二週間以上も経っていました。
「これで最後、ですかね……?」
何人ものターゲットの魂を捕らえ、掲示板に残っているのは数枚になっていました。
とりあえずは見た目を綺麗にしようと、一桁のポイントしかもらえないターゲットを一気に終わらせました。
面倒なのでテレポートを使い、今までのように土地の雰囲気も楽しんだりはしませんでした。
お陰様で掲示板もスッキリです。
しかしそれぞれ一桁しかポイントをもらっていないので、苦労の割にはリターンが少ないのが辛い所です。ここらで一発大きいターゲットを狙うとしましょう。
そう思って掲示板を探しますが、十何ポイントだとか、そういうレベルばかりです。
一番高かったのが十八ポイントのターゲットだったのでこれにするとしましょう。
リーウェン・ウォー。ヒト種の青年です。爽やかな笑みが格好良く、女子が放っておかないでしょう。
まぁ、こういう男に限って裏ではなにをしているのかわかりません。
ポチにちょっとだけ高価なおやつをあげて、リーウェンがいるらしい町へ向かいます。コートミールは確かまだ行ったことのない場所です。近くの国にテレポートで飛んでから飛空艇なり馬車なりを使うとしましょうか。
コートミールはココルル国にある町です。
国自体、レイナード共和国のように魔力の偏りがある場所ではなく、基本的に気候は穏やかです。
ココルルに入るまでは特に問題もありませんでした。
隣の国にテレポートで飛び、そこから馬車や竜車を乗り継いで飛空艇の発着場にある町まで。ここからコートミールまでは空の旅です。
なんだかんだ、テレポートを使えるようになってからは地道に移動することもなかったので、こういう旅もなんだか久しぶりでウキウキしてしまいます。
しかしどうしてでしょうか。発着場は人でごった返していました。
屈強そうな男から家族連れまで様々です。そしてここから出る飛空艇のほとんどもコートミール行なのです。
ちゃんと調べていないのでわかりませんが、コートミールでなにかあるのでしょうか。下調べしていなかったのを少し後悔します。
混んでいても待たされる、なんてことはなく無事に次の便に乗ることができました。
搭乗を待つ間、後ろのベンチに座った二人の会話が聞こえて来ました。
「あなた、こんな噂をしっているかしら?」
「どんな噂ですか?」
「悪人の下にかわいらしい女の子が現れて成敗するそうですよ」
「成敗、ですか。なんか怖いですね」
「いやいや。真面目に生きていれば関係ない話ですよ」
「軍とかとは違うんですよね?」
「神出鬼没らしいですね。いったいどこの誰なんでしょうか」
「かわいらしい女の子……。案外近くにいるかもしれませんね」
冷や汗ものでした。
この世界に来てから数年が経っていますが、まさか都市伝説になっているとは思ってもいませんでした。
しかし考えてみれば、ドレスを着た幼女が武器を持っていること自体が人目を引きますし、ワタクシはさらに冒険者です。それほど積極的に仕事をしているわけではないですが、人々の記憶には残るでしょう。
そして人が殺された時、そういえば変な子供がいたな。最近見ないな。なんてなれば噂になるのも当たり前の話ですか。
これからはちょっと考えなければなりません。
都市伝説になったからといって実害があるわけではありませんが、もしもその都市伝説とワタクシとが結び付けられたら、仕事はしにくくなるかもしれません。
後ろの二人はワタクシに気づいたわけではありませんが、体を小さくしてしまいます。
丁度良くワタクシの乗る便の搭乗が始まり、その場から逃げるように手続きをしましたが、二人も同じ飛空艇のようです。
なんという偶然でしょうか。
しかし、飛空艇に乗るだけであればなにかおかしなことも起こらないでしょう。
飛空艇はワタクシの家のある浮き島のように、風属性の魔力を使って浮かせています。なので座席やシートベルトなんて物はなく、中に手すりが付いているくらいです。この飛空艇には展望デッキすら作られています。
飛び立つ時は少し揺れましたがそれだけです。折角ですので展望デッキに行くとしましょうか。
展望デッキはほとんど外です。
魔法の力で風の力が弱められ、展望デッキは常にそよ風が吹いているような状態でした。柵が付けられてはいますが、飛び降りようと思えば飛び降りることはできるでしょう。
下の方を覗くことはしませんが、流れる景色を眺めているのも中々に気持ちの良いことです。
どうせならお菓子でも食べながらゆっくりするとしましょう。確か艇内販売で色々と売っていたはずです。
「おっ? なんでこんな所にアマルちゃんがいるんだ?」
声をかけられ振り返ると、そこにはスリットが立っていました。
流石に人の目を気にするのか、最初に会った時のようなワイルドな服ではなく、ちゃんとした服を着ていました。
「それはこちらのセリフですが……。島を出たんですね?」
「ああ、最近の話だがな」
「おもしろい偶然もあるものですね」
特に仲が良いわけではありませんが、こちらの世界に転生してから会う人の半分くらいはターゲットだった生活をしていて、ちゃんと話をできる相手は神様だけ、という有様でした。
なのでスリットと再会できて嬉しさを感じているワタクシがいます。
しかしそれと同時に、もしも目的地が同じであれば仕事に支障が出るかもしれない、との不安もありました。
スリットが興味あるとも思えませんが、ワタクシのことを知っているのでもしかしたら都市伝説と結びつける可能性もあります。
「偶然? アマルちゃんも武闘大会に出るわけじゃないのか?」
「武闘大会?」
「コートミールでは毎年、世界でも有名な武闘大会が開催されるらしいんだ。アマルちゃんの実力なら優勝もできそうだがな」
どうして発着場に人が多いのか気になってはいましたが、その武闘大会が理由でしたか。
屈強な男は参加者。家族連れは観客ですか。あれだけの人が多ければ、大会の規模も相当だと思われます。
さて、人がこれほど集まる中でターゲットを見つけ、ワタクシがやったとバレないようにできるでしょうか。
これまで一桁台のターゲットは簡単でしたが、マジラ以来の面倒なターゲットです。
「チラリと小耳に挟んだんだがな、前回の優勝者がそれはもう強いらしい」
別のことを考えて話を聞いていませんでしたが、スリットは上機嫌で話を続けていました。
ワタクシと同じように人との繋がりに飢えていたのでしょうか。
「その優勝者っていうのがリーウェンって言うらしくてな、どうやら変な魔法を使うらしい。驚くだろ?」
スリットはここだけの情報だ、と言わんばかりに耳打ちをしてきましたが、ワタクシが驚いたのはその変な魔法についてではありませんでした。
「リーウェン・ウォーという方ですか?」
「なんだ、もう知ってたのか」
どうやら探す苦労はしなくて済みそうです。
しかし前回の優勝者であれば実力もそれに応じた強さで、注目もされています。
これは今までで一番面倒な仕事になるかもしれません。
思わずため息を吐いてしまいましたがそれと同時に、展望台の入口辺りでなにかが爆発しました。




