第43話
「早かったね。目的の物は変えたのかい?」
「ええ。とりあえずは吹雪の中でも凍えないで人探しができますわ」
カシカへの手土産であるホロウロウの毛皮は随分と喜ばれました。
ワタクシはカシカの淹れてくれたシナモンティーで一息吐きます。アートゥのパブで飲んだのも美味しかったですが、やはりカシカが淹れた物が一番ですね。
テントの中も暖かかったですが、やはりちゃんとした建物の暖かさには敵いません。
今日はここでベッドを借りて、明日から本格的に探すことにしましょうか。
「そういえば、あんたがいない間にまたアレが出たんだよ」
「泥棒、ですか……」
「そんな言い方しないでおくれ。この村に人の物を盗むような奴はいないんだから。妖精の仕業だよ」
カシカ曰く、月に一度か二度、店の商品が盗まれることがあるらしいです。食料がほとんどで、たまに日用品も。
それがカシカの店だけではなく、他の人の家からも盗まれることがあるようでこの村ではそれを妖精の仕業だと言っているのです。
妖精――いわゆるピクシーはイタズラ好きで知られていますが、ピクシーのやるイタズラは、相手の反応を見て楽しむタイプです。物を隠すならまだしも、人の物を気づかぬ内に盗んでいく、なんて話は聞いたことがありません。
しかもピクシーの仕業であればその姿が見られるはずです。しかしそういう話はこの村で聞きません。
きっと、村内に盗人がいると信じたくないからピクシーに罪を擦り付けているのでしょう。それでどうすることもなく、仕方ないと笑っているだけではありますがピクシーには同情してしまいます。
ワタクシとしては十中八九、外部に犯人がいると思っていて、それはマジラなんじゃないかと疑っています。
それを確かめる絶好のチャンスでしたのにタイミングを外すとは、間の悪いことです。
「それで、なにを盗まれましたの?」
「いつも通り食料だね。アマルが獲ってくれていた獲物がなかったら今月は赤字だったかもね」
どうやら他の家からもいくつか物が盗まれていたようです。
赤字になりかねないほどの被害が出ても妖精の仕業だから仕方がないと笑っていられるなんて、カシカはどれだけお人好しなのでしょう。
しかし一ヵ月分の食料を調達しているのであれば、相当な量になるでしょう。
一週間分の食料ですら、ワタクシが両手でようやく抱えられるくらいです。いくらマジラの体格が良かったとしても、一か月分の食料なんて持ち切れないと思います。
ワタクシと違って四次元ポケットなんて普通の人は持っていませんから、運ぶのも大変なはずです。
これは休んでいる暇はないかもしれません。
シナモンティーを飲み干します。
「ワタクシは犯人探しに行って来ます。もしかしたら尋ね人かもしれませんので」
「無駄だと思うけどね……」
なんて言っていても、反対するようなことは言いません。
カシカも心のどこかでは妖精ではなく人に盗まれたのだと考えているのでしょう。その犯人が村人でなければ、妖精だろうとワタクシの尋ね人だろうと構わないのが本心だと思います。
カシカの店に入ってまたすぐに出てきました。ちょっとの時間で吹雪が弱まる気配もなく、むしろ強くなっているのでは、とも思えます。
ワタクシがアートゥの町に行って帰って来るまで計三日ほど。一ヵ月分の食料を持ってこの吹雪の中、三日間で移動できる距離は高が知れているでしょう。
なにか動物を使っているかもしれませんが、そうであればもっと痕跡は残っていそうです。
例えば犬ぞりを使っていたとして、何頭も引き連れていれば鳴き声や足音も隠し切れないでしょう。
店の出入り口の周辺を見て回りますが、わかりやすい手がかりは残っていません。足跡も、荷物の中から零れたリンゴの一つもありません。
あまりしたくはありませんが、ある程度は勘で探していくしかないでしょう。
ワタクシがマジラの立場であれば、暮らすのであれば吹雪を凌げる場所です。どれだけの期間、マジラがこの国にいるのかはわかりませんが、この吹雪の中、たった一人の力で地下に穴を掘るのも、家を建てるのも大変でしょう。
で、あれば洞窟だとかそういう場所に暮らしているはずです。テントと同じように火属性の刻印を刻めば暖かくなりますし、テント暮らしよりは余程マシでしょう。
ほとんど平坦な地形であるレイナード共和国。そしてこの村の周辺に洞穴がありそうな山は、この前神様と話したあの山くらいです。
探せば横穴の一つや二つ見つかるでしょう。
そうでなかったとしても、なにも目印のない雪原を途方もなく探して回るよりは、精神的にも気楽です。
マジラが食料を口にしながら移動していて、パンの欠片でも落ちていれば良いのですが。




