第42話
牛車に引かれていた時はイエティに襲われても一日で済んだ道程でしたが、徒歩だとそう早くはいきません。
しかもワタクシは道に詳しいわけでもないので、そこもタイムロスでした。
思えば、牛車と言われて想像していた以上にあの牛は足が速かったです。体毛が長かったことも考えると、雪での生活に適応した品種なのでしょうか。
しかし吹雪の中のキャンプというのも中々良いものでした。
それほど風が強くなかったのでテントの中は静かで、火を使わないコンロですのでテントの中でも使えます。
出入口を少しだけ開けて雪景色を眺めながらの鍋は乙なものです。
特に問題も起きない平和な道中でした。
閑話休題。
そんなこんなで道中を楽しみつつも、本来の目的はマジラを探すことです。そういう意味では順調とは言えません。
まったくその痕跡が見つけられないのです。
ワタクシのように野宿をしていればテントの跡が残っていたり、例えば足跡が残っていそうですが、それは吹雪によってかき消されていきます。
そしてほとんど起伏のない雪原が続いていて、暮らせそうな洞窟もありません。
村と同じように地下に暮らしているとしたらお手上げです。
とりあえず用意する物は用意できているので後は時間でどうにかできるでしょうか。食材もカシカの店で買えるので問題ないはずです。
しかしその前に一つ問題が起きていました。
「ホロウロウ……ですか」
ワタクシを囲んでいる五体の狼型の魔物。グルフロウに似ていますが別の魔物です。ほとんど同種と変わりませんが。
岩場や森の木々に紛れるように、茶色から茶褐色の体毛を持っていたグルフロウと違ってホロウロウは白から灰色の、雪に紛れる毛色です。
それ以外はなんら変わりありません。
集団で狩りをするのも、どういう攻撃をするのかも、です。
使い慣れた大剣を取り出します。
これまで狩りをしていてホロウロウに襲われることも多々ありました。そういう時は弓矢を使って、襲って来る個体を順番に撃ち抜いていきました。
足元が悪くて動きにくかったからこその選択でしたが、もしも外したら立て直すのが底辺でした。
今回はかんじきがあるので、戦闘でもどれだけ動けるのかテストです。
グルフロウやホロウロウ、いわゆるロウ系の魔物は、狩りをする四~六体の小さな集団の中にもリーダーを決めて狩りに臨みます。
そしてそのリーダーによって狩りの雰囲気も変わってくるのです。
しっかりと連携を取って狩りをする集団。どんどん攻撃を仕掛けていく集団。傷つかないように引き気味に戦う集団。
今、ワタクシを獲物と定めたこの五体のチームは慎重なようです。
すぐに攻撃は仕掛けずにジリジリと距離を縮め、ワタクシが武器を構えると一旦離れるくらいの慎重さです。
人間は寒さに弱いことを知っているのでしょうか。そうだとすれば相当な策士がリーダーをしているのでしょう。服を着込んでいるとは言え、毛皮を持つホロウロウに比べれば人間は寒さに弱いですから。
ワタクシであればホロウロウの方が先に音を上げるという自信がありますが、そこまで付き合う気はありません。
強く踏み込んで正面のホロウロウへ攻撃を仕掛けます。
雪に沈みにくいかんじきを付けていても、強く踏み込めば多少は沈み込みます。しかし装着していない時に比べれば動きやすいです。
気配も見せず、急に攻撃を仕掛けられてホロウロウはビックリしているようです。
振り下ろした大剣は向かって右に避けられ、そこにワタクシの蹴りが当たりました。そのまま返す刃で足元を切り払い、正面にいたホロウロウは動けなくなりました。
身体強化をしていなくとも、そこら辺の魔物には負けません。
カシカへの手土産に毛皮を持って行くとしましょう。
ワタクシが一体を倒している間に、残りの四体が仕掛けて来ているようです。足音は聞こえませんが、小さく吠えているのが聞こえるので連携を取っているのでしょう。短く何度も吠え、リーダーが指示を出しています。
もしも魔物の言葉がわかるようになれば、ここでどう指示を出しているのか理解できるのでしょう。ポイントの交換でどうにかできそうです。
踏み込むように、雪を踏み割る音が小さく聞こえたので、振り返りざまに大剣を薙ぎ払います。
「ドンピシャ、ですわ!」
飛び掛かって来ていたホロウロウはそのまま真っ二つに。返り血は気にしません。
薙ぎ払った勢いのまま大剣を振りかぶり、一番遠い位置に陣取っていたホロウロウへ投げつけます。見事、その頭を割ることができました。二体のホロウロウの間を素早く抜け、刺さった大剣を抜きます。
二体は足が竦んでいたのか、まったく襲い掛かって来る気配がありませんでした。
もしくは反応できなかったのでしょうか。
「上々ですわね」
かんじきがなかった時に比べれば格段に動きやすいです。今の状態であれば、行きに立ちはだかっていた巨大なイエティも一人で相手できそうです。
ロウ系の魔物は随分と義理堅い魔物のようで、同じ集団の仲間が殺されても敵討ちのように何度でも向かって来ます。自分だけが逃げるということはないのです。
逃がす心配がなくてワタクシとしてはありがたいです。
ここまではかんじきの調子も上々です。もう少し試してみるとしましょうか。
ホロウロウくらいであれば、身体強化の魔法を使えば簡単に倒せるでしょう。問題はそれにかんじきが耐えられるかどうかです。
残った二体のホロウロウはワタクシから距離を取っています。一番遠くにいた個体がリーダーかと思っていましたがそうではないようです。
向かって左側にいるホロウロウが、こちらをジッと見つめながら短く吠えています。
体内の魔力を練り上げます。
次の瞬間、左側のグルフロウに大剣を突き刺します。その反動を利用してもう一体のホロウロウを殴りつけ、ホロウロウの狩りは終わりました
かんじきは壊れていません。
「中々良い買い物でしたね」




