第41話
人々が日常的に行き来しているからか、雪が踏み固められて地面のようになっています。
雪を掘り、更に地下にまで潜っていたあの村とは違いますね。むしろあっちの方が少数派なのでしょう。観光地にでもできるでしょうか。
滑らないように気を付けながら隣に立っている商店に入ります。パブの店主が言っていたように小さなお店でした。
中に入ると、外からの見た目以上に狭く感じました。
床は、最低限の通路を空ける程度に箱が所狭しと積み上げられていました。棚にはそれこそギュウギュウと言っても良いほど商品が詰め込まれていました。そして天井からはランプの他に干し肉や魚の干物、玉ねぎなんかが吊るされていました。
暖房として暖炉に火でも焚いているのか、奥の方からパチパチと爆ぜる音が聞こえて来ます。
なんだか煙たいと思えば、店主がくゆらせていたパイプの煙でした。
「えふっ……いらっしゃい」
「むせるくらいなら吸わなければ良いのでは?」
「お嬢ちゃんがいるなら止めなきゃな」
そう言ってパイプの火を消しました。
気にしなくても良いのですが、煙が多少は晴れてくれるのであればそれに越したことはありません。
前に、年月が経ってもワタクシの見た目がまったく変わる気配がないのでどういうことか神様に尋ねたことがありました。
「アマルちゃんの体は特別だからね。普通の人間みたいに生まれたわけじゃないから、歳も取らないし病気にもならない。滅多に死ぬことはないよ。まぁ、頭を潰されたり心臓を突き刺されたり、血を失い過ぎたりね。外的な要因ではちゃんと死ぬから気を付けてね」
らしいです。
頭を潰されたり、なんて事態は想定したくありませんが、とりあえずパイプの副流煙で病気になることはないみたいです。
「で、嬢ちゃんおつかいか?」
「いえ。ワタクシ、こう見えて冒険者ですので色々と準備がしたいのです」
「人間、見た目じゃわからねぇな」
なんてパブの店主と同じことを言われます。
ワタクシが冒険者だと告白すると、驚かれることの方が多いのでこういう反応をされると少し戸惑ってしまいます。
さて、なにを揃えたら良いでしょうか。
「とりあえずかんじき、ですかね。基本的な準備は整っていますので、他になにかあった方が良い物はありますか?」
「一回一回宿に帰ったりするのか? そこまでオススメはしないが一応、雪の中でも野営できるような物も揃えているぞ」
カウンターを跳ね上げ出て来た店主は、迷うことなく床の箱からかんじきを取り出しました。それを一つ一つワタクシの足のサイズに合わせていきます。
これだけ散らかっているように見えても、ちゃんと本人の中ではどこになにがあるのか把握しているのでしょう。
それでも、整っている方が良いとは思いますが。
そうそう死ぬことはないと言っても、やはり吹雪の中テントで一泊、なんてことはしたくありません。あり得ないでしょうが、カチンコチンに凍り付いても意識がある、なんてことは嫌ですから。
しかしマジラが村にいな以上、探すのは時間がかかると見た方が良いでしょう。
「その野営のセットもいただけますか?」
「素人じゃないからわかってるとは思うが、気を付けろよ」
店の奥から取り出して来たのはテントと炊事用具のセットでした。
テントの布地に火属性の刻印が刻まれていて、吹雪の中でも暖かいようです。そして炊事用具の方にも火属性の魔石が仕込まれ、火を使わずとも物を温められる道具です。
しかしこちらのコンロはすでに神様とのポイント交換で持っています。
「テントだけで十分ですわ」
「そうか? じゃあかんじきとテントだけだな。後は……荷物に余裕があるなら食い物とかも買って良いと思うが……」
「そうでうね……一週間分適当に見繕っていただきますか?」
「力持ちだな」
四次元ポケットがあればどれだけの荷物があろうと関係ありません。
そうでなくとも、テレポートがあるのでなにかが足りなくなってもすぐに買いに行くことができます。
しかしバカンス以降、できる限りは現地調達を心掛けるようにしています。
スリットがそうしているからでもあり、あまり楽をし過ぎていては意識も肉体も衰えていくような気がするからです。
天井から吊るされている食材がポイポイ袋に詰められていきます。それが終わったかと思うと、床の箱が退かされ、床下収納が現れました。その中から果物や野菜が追加で詰められていきます。
私が想像していた以上にこのお店は広かったようです。
「一万と……おまけして五千リリンだな」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。久々の上客だ」
流石に一週間分の食料となれば両手で抱えなければならないほどの量です。テントは紐を付けて背負い、かんじきは靴に装着してようやく持ち帰れるようになりました。
最初だけ店主に手伝ってもらい、店を出ることができました。
ここまで来ればもう大丈夫です。周りに誰もいないのを確認し、食材とテントを四次元ポケットに放り込みます。
かんじきにはスパイクが付いていて、氷の上でも滑らないようになっていました。
「よし! 仕事を始めますか」
これで準備は完了。後はマジラの潜んでいる場所を探すだけです。
とりあえずはアートゥから村までを徒歩で帰りつつ、マジラが潜んでいそうな場所を探すことにします。




