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異世界ポイント生活 ~幼女になって世界を守ります~  作者: グリゴリグリグリ
『人間らしい感情が残っていたなんて……神様にもミスはあるもんだねぇ』
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第33話

 腕を解放すると、スリットは仰向けになって激しく胸を上下させました。

 ワタクシも疲れから、お尻が濡れるのも厭わずに座ります。

 なんとかギリギリ勝つことができました。


「まったく……敵わないな……ハァ……」

「そちらこそ……もっと続いていれば勝負はわかりませんでしたよ」


 スリットほどの腕力があれば、その攻撃を受け止めるだけでもこちらにダメージがじわじわと蓄積していきます。

 あのまま戦っていてはどうなっていたかもわかりません。

 この場所に水が流れていなければ、そのまま叩きつけるなりしてワタクシを引き剥がしたでしょう。

 本当に、勝利の女神はどちらに微笑むかわかりませんでした。


「よし! もう一回やるか?」

「勘弁してください」

「そりゃそうだ」


 せめて明日。いや、一週間くらいは休ませて欲しいです。そもそもこの島に来た目的はバカンスです。なぜ戦わなければならないのでしょう。

 笑いながらスリットは立ち上がりました。


「飯でも食うか? そういえば狩りの途中だったからな」


 返事の代わりにワタクシのお腹も鳴りました。

 こちらもご飯を探している最中にスリットから矢を放たれましたので、ご飯の準備は何一つできていませんでした。

 しかしこれから狩りをするにも釣りをするにも、少々時間がかかって耐えられるでしょうか。

 そうスリットに尋ねますが、スリットは答えずに水面をジッと見つめていました。

 いつまでそうしているのかと見ていましたが、しゃがみ込んだかと思いきやスリットは一瞬で空高く跳び上がりました。

 川に潜ったかと思うとしばらくバシャバシャと暴れています。


「まさか……」


 あれで魚でも獲っているのでしょうか。

 そのまさかでした。


「これなら二人分になるだろ!」


 川から上がって来たスリットの手には、大きなスリットですら両手で抱えないといけないほどに大きな魚。ワタクシと並べば同じくらいもありそうな大魚でした。

 二人分と言っていますが、二人で食べきれるかも怪しいほどです。

 しかし素手で大きな魚を捕らえるとは。三本勝負で勝ちはしましたが、敵いそうにありません。


「では……食事の準備をしますか……」


 まずはワタクシが放り投げたスリットのナイフを探します。これは大まかな場所がわかっていてナイフも大きかったのですぐに見つかりました。

 それでスリットが魚を捌いている間に、ワタクシは火の準備をします。

 近くの森から乾いている枝を探し、適当に組みます。そして四次元ポケットから取り出したのは、火付け棒と呼ばれる魔道具です。

 棒の先端に赤い魔石が付いているだけの簡素な魔道具で、棒を通じて魔力を魔石に流すと、発熱して火が付くという単純な魔道具です。ライターのような物でしょうか。

 キャンプみたいなことはあまりしないですが、簡単に焚火を熾すことができました。

 石で竈を作り、そこに平たい大きな石を乗せます。鉄板代わりになるでしょう。


「準備万端だな」

「そちらも早いですね。もう終わったんですか?」

「おう。切るだけだったからな」


 スリットの手には大きく切り分けられた柵が。本当に切るだけだったみたいです。

 しかし誰かに対してご馳走するような上等な食事ではありません。さっきまで殴り合っていたのですからこんなもので十分です。

 充分に熱せられた石を上に並べると、心地良い音を立てて焼けていきます。

 そういえば、これはどうやって食べましょか。箸があれば、せめて串みたいな物があれば食べられるのですが。

 と、思っていましたがスリットは自前のナイフで魚をひっくり返していきます。


「こうやって食えば良いんだよ」


 そのまま魚を小さく切り分け、ナイフに刺して口へ運びます。随分とワイルドな食べ方ですが、確かにそうするしかないでしょう。

 さっきも思いましたが、誰にご馳走するわけでもないので食べられればそれで良いでしょう。

 しかしちょうど良いナイフがありません。なので、仕方がないので魔剣ムスニアを取り出します。

 世界に数本しか存在しない魔剣。トドメを刺した相手の魂を捕らえる魔剣ムスニア。それを使って名前も知らない魚を食べるだなんて、あの神様も泣いています。

 小さく切り分け、ナイフに刺します。

 そういえばこれで魚の魂を捕らえたりしているのでしょうか。すでに死んでいたので捕らえてはいないはずですね。


「はふっ! ほふ……うん。美味しいですわね」


 ふっくらと焼けていた身がホロホロと口の中で崩れます。

 少々淡泊な味わいで塩気が欲しくなりますが、そのままでも十分美味しいです。

 互いにお腹が空いていたのもあって、しばらくは無言で焼き魚を食べ続けました。多いかと思っていましたがすぐに魚はなくなってしまいました。


「ふぅ……こういう食事は初めてですわ」

「アマルちゃんはお嬢様っぽいからな」

「あら、そう見えます?」


 お嬢様を装っているだけに、ちゃんとお嬢様に見えているのなら嬉しい限りです。

 見た目に助けられている部分もありますが。

 しかしスリットは違ったようです。

「ぽい、だけな。多分……良家の出じゃあないだろ? それにしちゃあ言葉遣いもブレブレだし、本当のお嬢様が俺より強いはずがないからな」


「ははは……」


 まったくその通りです。

 口調に関しては意識して変えていますが、元々がアニメやら漫画から仕入れただけのなんちゃってお嬢様言葉なので自分でも統一できていないのは自覚しています。

 しかし強いお嬢様に関して、居ても良いのではないでしょうか。そうそう存在するわけがないとはワタクシも思いますが。


「そういえば、スリットはどうしてこんな島に居るんですか? 確かここで暮らしているんですよね。便利な場所とは思えませんが……」


 話を逸らすために出した話題ですが、興味がないと言えば嘘になります。

 スリットほどの実力があれば冒険者として大活躍でしょう。

 そう言えばこの強さがどこから来るのかも気になります。


「修行のためだよ。ここは環境が良いからな」


 あっけらかんと言い放ちました。

 想像していた通りの答えではありますが、苦笑いしてしまうのは仕方のないことでしょう。


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