第32話
「上等だぜ!」
ワタクシに呼応してスリットもテンションを上げたようです。
先ほどはスリットが跳び上がり、ワタクシが地上で迎え撃ちました。今はその逆です。このまま落下するだけでは恰好の的でしょう。
しかし空中に出てしまってからではできることはありません。こういう時に魔法が使えれば遠距離からも攻撃できますのに、ポイントでもっと魔力を交換していなかったのが悔やまれます。
後悔先に立たず。スリットも攻撃に使えるほど魔力を持っていなかった幸運に感謝するとしましょう。
せめてなにをされても対応できるように、スリットの一挙手一投足に目を光らせます。
「……勘弁してください」
スリットはワタクシの大剣を手に取りました。
嫌な予感しかしません。
「さっきのお返しだ……」
ワタクシの身長くらいもある大剣も、スリットが持てば少し大きいくらい。むしろスリットが持った方がしっくりくるくらいです。
それを腰だめに構えます。
躱す。空中で体勢を変えることは不可能に近く、移動手段のないワタクシには無理でしょう。
足で受ける。あの大きさをスリットの力で振るわれれば、革のブーツは紙のようです。
ならばガントレットをはめている手で受けるしかありません。これも大剣同様、神様によって作られた代物です。受け止めるには十分だと信じます。
スリットは大剣を思い切り振り抜きました。それをワタクシは手で受け止めます。
ガントレットにヒビが入ったと勘違いしかねない一撃を両手で受け止めます。ガントレットは無事でしょうか。壊れていようと壊れていなかろうと、受け止めることに成功しました。
しかしワタクシはまだ足を地面に着けていませんでした。
大剣の一撃を受け止め、そのまましがみつきます。
思わずしがみついてしまいましたが、どうしてこんなことをしたのかワタクシ自身、わかりません。
スリットの腕力そのままに振り回され、飛ばされないようにワタクシは両手に力を込め、なんとか耐えられていますがすぐにでも限界は来るかもしれません。
グルグルと、スリットを中心とした竜巻のようです。
耳元で風が音を立て、遠心力はワタクシを外へ外へと引っ張ります。スリットは目を回さないのでしょうか。
「う……ぐぅ……!」
ガントレットの中の手は汗で滑っています。そろそろ指先から力も抜けかけ、頭もボウっとしてきました。
諦めかけていたその時、足先になにか触れました。
最初は一瞬。次は一秒。そして何度も足がなにか――地面に触れてその度に時間が伸びていきます。
限界が近いのはスリットも同じ。それがわかれば、辛抱はあと少しです。
意を決し身体強化の魔法で足に力を込め、スピードだけはまだ衰えないまま、地面に足を下ろして踏ん張りました。
「ああああああああああああ!」
革のブーツがザリザリとすり減らされ、靴底が炎のように熱を放ちました。
足が焙られているかのような地獄。声を上げるのを我慢することはできません。
「嘘だろ……」
それでもスリットの竜巻は止まりました。
なおも諦めずに大剣を振るおうとしますが、ワタクシも抵抗します。
「返してもらいますわ、よ!」
スリットが驚いている一瞬の隙を突いて大剣を奪い返しました。
「おいおい……諦めても良かったんじゃないか?」
「あら、そういうのを喜ぶ方には見えませんが」
「正解。勝利を譲られてなにになるんだかな!」
何度目かわからないスリットの突撃。これが最後の攻防になるという予感がありました。
大剣を横に一閃。屈んで躱したスリットのアッパーを踏みつけるようにして防ぎます。足は痺れますが、その勢いを宙返りで逃がし着地します。大剣を一度引き、突き出すと、手で上下に刃を挟み込んだスリットはそのまま後ろへ跳びました。着地し、大剣を引いてワタクシを引き寄せますが、その力を借りて跳び蹴りを放ちます。
「くは! 危ない危ない」
「まだまだですわ!」
跳び蹴りで態勢を崩し、着地すると同時に今度は回し蹴りを。ドレスの裾を掴まれ引き倒されますが、それは大剣を地面に刺して耐えます。そのまま大剣を軸に体を支え、ドレスを掴んだスリットの手を包み、捕らえました。
軽業師のような技に、ワタクシもスリットも目を丸くします。
捕らえたスリットの左手を引き倒し、左腕を掴み、仕掛けたのは腕ひしぎ十字固め。テレビやらで見たのを見様見真似でやっただけで、これは完全に極まっていないでしょう。
しかしこの技を仕掛けた目的はスリットの左腕を奪うことではありません。
スリットを前に倒し、簡単に動けないように腕を締め上げます。
ここがただの地面であればスリットは少し痛いで済んだでしょう。しかしここは川にできたステージのような中州。中州と言いつつも数センチですが水が流れています。
「ごはっ! おい、ごぼぼぁあ!」
背筋に力を入れて無理矢理顔を上げれば呼吸はできます。しかしそれも長くは続かずすぐに鼻と口は水で塞がれます。
ワタクシを振り払う余裕はないようで、勝負はもう決まったも同然です。
スリットは諦めずにもがき続けていましたが、それも長くは続きませんでした。
弱々しくタップされ、三本勝負の最後の勝負も終わりました。




