第28話
太陽はワタクシを照り付け、潮騒は耳に心地良く、柔らかな汐風が肌を撫でます。
水着に着替えてデッキチェアに身を任せ、手作りのトロピカルジュースが喉を心地良く冷やしていくのです。
場所は常夏の無人島。そのビーチ。
こちらの世界には日本にあったような四季はほとんどなく、季節の移り変わりもそれほど激しくはありません。
夏になればちょっと暑いかな。冬になればちょっと寒いかな。それくらいです。
その代わりに、地域毎に魔力の属性の偏りがあり、例えば火属性に大きく偏っている地域ならマグマの煮えたぎる火口のように暑く、氷属性に大きく偏っていればその地域全体が極寒の雪山のようになっています。そんな場所はほとんどありませんが。
今居るこの島は、多少は火属性に偏っているものの魔力のバランスが良く、常夏のリゾートのようです。
いつもなら冒険者としての依頼や、ターゲットを殺した後は休んでいますが、それは家でゆっくりするくらい。こうしてビーチサイドで羽を伸ばすのは初めてです。
それだけ、赤ちゃんの相手が疲れたということでもあります。
最終的に殺さなかったものの、世界の脅威になるので殺さなければならない、という精神的負担は相当でした。
なのでこれくらいの休暇は神様にも許していただけるでしょう。
少なくとも一週間くらいは依頼書も、ターゲットの書かれた紙も見ないつもりです。
そんな決意をしてくつろいでいますが、暇です。
無人島だけあって、文明的な物が何一つないのです。ワタクシ自身が用意しなければ娯楽の一つもありません。
寄せては返す波を眺めて心が鎮まるのも少しの間だけ。鎮まった後はただただ代わり映えのない景色を眺めているだけで、面白みの欠片もないのです。
テレポートが使えるのでいくらでも娯楽やらの調達はできるのですが、それは少しつまらないと思います。
とりあえず、ボケっとしていても仕方がないので動くとしましょう。
ジュースも飲み終え、デッキチェア等々とまとめて四次元ポケットにしまいます。
少し肌もベタつき、足も砂で汚れているので着替えるのは後にしましょうか。少し歩けば清流があったはずです。
ヒンヤリと冷たい川の水で体を洗い、簡単に拭いてから着替えます。
水着は水を絞り、そのまま四次元ポケットに投げ込みます。かわいい水着だったのでポイントで交換しましたが、見せる相手が居ないので着る意味もなかったでしょうか。
ドレスを着るのもブーツを履くのもずいぶんと手慣れてきました。
ワタクシも女の子としての生活に慣れてきた証拠です。
それと同時に、いつも背負っている大剣の扱いも最初に比べたら見違えるほどに変わったでしょう。
ポイントで剣術だとか腕力だとかを交換して上手に扱えるようになりましたが、それだけではない経験値も蓄積されています。
今では身長に合わせた剣だと逆に使い辛いくらいです。
そんな大剣を取り出して背負います。
日がある内に今日の晩御飯を獲るとしましょう。無人島ですから獣も何か居るはずです。最悪、テレポートで持って来られますがそんな風情のないことは止めましょう。
隠密を使って森の奥へ奥へと進んで行きますが、中々動物達の気配は掴めません。
現地調達は諦めましょうか、と真剣に悩み始めた時、不意に左から飛んで来た矢に気づきました。
少し体を傾けて躱し、瞬時に矢の飛んで来た方向へ駆け出します。
この島に住んでいる人間は居ないはず。なぜ狙われたのか。考えていても仕方がないのでそれは頭から捨て去ります。
相手を捕まえて聞き出せば良いのですから。
邪魔になる草木は薙ぎ払って進むと、すぐに矢を放った主の姿が現れました。
獣の皮と木の葉で作られた服を見て一瞬、何か得体のしれない魔物かとも思いましたが、
「おわっ!」
という間抜けな男の声で人間だとわかります。
これだけ木々が多い場所では大剣も満足に振るえないでしょう。いつかのグルフロウを相手にした時のことを思い出します。
殺すのが目的でもないので剣を抜くのは止めます。
代わりに、ガントレットをはめた手を握り締め、男を狙いました。
手加減はしていますがそれでもそこら辺の弱い魔物であれば簡単に倒せるくらいの力は込めています。
男はそれをヒョイと躱し、続く拳も払い除け、蹴りを屈んで避けます。
「ま、待て! 待て! 待ってくれ!」
防ぐ度にそんな言葉を叫んでいますが、ワタクシに彼を殺すつもりはありません。事情なら気絶でもした後にジックリ聞けば良いので手を止めることはしませんでした。
それには、彼が段々とワタクシの攻撃に対応しきれなくなっているから、というのもありました。
そのまま押し切り、最後の掌底を腹に受けた男は吹っ飛び、背中を木に打ち付けてそのまま動かなくなりました。
呼吸はまだあり、死んではいないようです。
とりあえず腕と足をそこら辺にあった蔓で縛り上げ、被っていた動物を象った被り物を取ります。
中から出て来たのは、三角形の獣耳をピンと立てたキャラサ種の頭でした。
全身はわかりませんが、少なくとも頭は真っ白な純白の毛で覆われています。雪のように白いその毛並みは、思わず見惚れてしまうくらいです。
どうしてワタクシを狙ったのか。この男は何者なのか。
ありえないでしょうが、赤ちゃんを殺せなかったワタクシを役立たずと断じた神様によって送り込まれて来た刺客かもしれません。
男が目を覚ますまでの時間がとても長く感じられ、何度唾を飲み込んだかわかりません。
「んあ?」
「おはようございます。あなたが何者か聞いてもよろしくて?」
「嬢ちゃん……すっげぇ美人だなぁ……」
もう一度殴って気絶させることにしました。
新章開始です!
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