第27話
神様が消えてから数分後、ようやく全身に疲れがドッと押し寄せて来ました。
それまではいつまでも体から緊張が消えず、ずっとガチガチしていただけでした。
「行きますか……」
意識して声を出してみましたが、しわがれて自分の声ではないようです。
正直に言えば、このまま眠って明日に回したいところですが、善は急げと言います。動くなら早い方が良いでしょう。
自身の体に鞭を打って村へ向かいます。
せっかくの四次元ポケットですから、何か美味しい飲み物でも入れておけば良かったです。
しかしこうして静かな山道を歩いていると、神様によって疲れさせられた精神が癒されていくようです。
名も知らぬ虫や鳥の声。土や木々の匂いも落ち着きます。
自然の中というのは妙に落ち着くものです。
しかし自然というだけあって、予期せぬ相手が出て来ることもあります。
「クルルルルゥゥゥゥ」
「危ない!」
空から急に襲い掛かって来たのは巨大なフクロウに似た魔物、オイールです。
闇の中では大まかなシルエットしかわかりませんが、二つの眼だけは金色に輝いています。
羽ばたいてもほとんど羽音は聞こえず、鳴き声も静かなので気づきませんでした。
四次元ポケットを開き、そこから大剣を取り出します。これからはちょっとした移動でも用意しておくべきです。
「……やられましたわね」
ほんの少し目を離した隙に、オイールの姿は消えていました。
巨大と言ってもそれは普通のフクロウに比べたらの話。オール自体の大きさはワタクシと同じくらいです。
しかしそれくらいでもスピードに乗って突撃されては一溜まりもありません。
耳を澄ましてもどこに居るのかまったくわかりません。
寸前になってピリつくような感覚があって、それに従って横に転がると突風が通り過ぎたような空気の動きがしました。
次の攻撃もその次の攻撃も、何とか躱すことができています。しかしそれだけで、反撃の糸口になりそうなものは何一つ思いつきません。
これは諦めて、オイールの攻撃を受け止めるしかないかもしれません。
ワタクシがそう思うのと同時にオイールも同じようなことを考えたのでしょう。さっきまでと攻撃の質が変わりました。
斜め上に魔力の流れを感じ振り返ると、そこで静かに羽ばたいているオイール。
気づくのを待っていたわけではないでしょうが、最後に一度大きく羽ばたく、魔力によって強大な威力に底上げされた突風がワタクシに襲い掛かって来ました。
剣を盾にして凌ぎますが、それだけで少し手が痺れます。
しかしその程度。
食らったからと言ってどうとなる攻撃でもありませんでした。
魔法による攻撃でこれでしたので、意外と最初の攻撃も何とかなったのかもしれません。
ポイントによっていくらでも身体能力は強化しているので、オイールにとってはこんなに小さい獲物が、という気持ちでしょう。
姿さえ見えればこちらの物。身体強化の魔法を発動すれば、オイールが羽ばたく間もなくその翼を切り落とすことができました。
「キョエエエエエエ!」
地面に落ちればそのまま頭を潰して終わりです。
神様のプレッシャーに当てられたからでしょうか。必要以上に警戒していたようです。
しかしこの戦闘のお陰で緊張も解れたようです。
そういう意味ではオイールに感謝しなければいけませんね。
再び訪れた村。今回は隠密は使っていません。
ターゲットの居る家まで迷わず進みます。灯りは何一つなく、こんな暗闇の中をわざわざ出歩く村人は居ないでしょう。
ターゲットの家はちゃんと鍵がかけられています。しかし木製の扉やちょっとした鍵はワタクシとって何もないのと同じです。少し力を加えればバキョっと音を立てて扉が枠から外れました。
幸いにも扉を投げ捨てた音を聞いても赤ちゃんが起きる気配はありませんでした。
スヤスヤと静かに寝息を立て、この子が将来世界を脅かす存在になるとはとても思えません。
頬を撫でるとくすぐったそうに顔を逸らします。
「ふふっ……」
思わず笑みも零れます。
このままここへ戻って来た目的を忘れそうになりましたが、
「きゃあっ!」
悲鳴が上がったかと思えば瞬時に赤ちゃんが取り上げられます。
どうやらさっき扉を壊した音でほとんど起きていたようです。起きてすぐに見慣れない人物が赤ちゃんの近くに立っていて、すぐに抱き寄せるとは、愛の深さを教えられます。
転生前はずっと独身だったワタクシにはわからない感覚です。
「なんだ君は!?」
寝ぼけ眼だった父親をすぐに目覚めたようです。
「ワタクシはその子を殺しに来ました」
「……き、君にそんなことができるのか?」
父親の目があちらこちらと動いているのは動揺からでしょうか。声が震えているのでそうかもしれませんし、武器でも探しているのかもしれません。
母親はより一層の力を込めて赤ちゃんを抱き寄せます。
「やらなければ世界が危ないので」
努めて冷静を装って答えます。
本当は殺すことができなかったからこそこうして姿を見せているのですが、そのことはこの二人は知りません。
流石の父親も世界と天秤にかけられては答えに窮するでしょう。
しかし、
「そうだとしても大人しく渡すことはできん!」
「そうでしょうね」
予想通り、そして期待していた通りの答えです。
これで世界が危ないのなら仕方ないです、とか言われて赤ちゃんを渡されても困ります。
「それでは今回は見逃します。しかしもし、その子が世界を脅かすようなことがあれば……わかりますね?」
二人とも無言でうなずきました。
それならもうここに用はありません。変にボロが出る前に帰るとしましょう。
家を出てテレポートの準備をします。テレポートで移動する寸前、堪え切れずに泣き出すような声が聞こえてきました。
これで大丈夫でしょう。
小さな女の子の姿も豪奢なドレスも、雰囲気を作るのに一役買ってくれました。
あの両親は愛情を持って育て、心優しい子に育て上げるはず。
百五十ポイントは惜しかったですが、これも仕方のないことですね。
第3章完結!
なんやかんやであっさりしましたね。
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