第21話
「その歳で冒険者か?」
「ええ。これでもそれなりに依頼はこなしているんですのよ?」
そう言うと、入国の受付をしていた兵士は面食らったような顔をして奥の部屋に引っ込んで行きました。
きっと上司と相談しているのでしょう。
町に入ろうとする度に本当に冒険者なのか疑われ、話をすると子供らしくないと驚かれる。
もう少し子供っぽく話した方が良いでしょうか。しかしお嬢様らしく振舞うのはずっと続けていることですので今更変えることはできません。
そして少し経ち、上司らしき人間を連れて兵士は戻って来ました。
「お嬢さん、ここへ来た目的は?」
「観光ですわ。世界的に有名な宗教の総本山ですもの。信者でなくとも一度は見てみたいと思ってもおかしくないですわ」
「では、冒険者として仕事をしに来たわけではない、と?」
「ええ。ミレーア教の戒律くらいは知っていますので」
それでもすぐに首を縦には振りません。
一応、ミラー教国にも冒険者ギルドはあるみたいですが、それこそ一応、と言った程度。
依頼もほとんどが薬草採取だとか荷運びだとかで、魔物を討伐するような依頼は滅多にないようです。
戒律に従って、魔物が無闇に討伐されないように気を付けているのでしょうが、いくら冒険者とは言えこんな可憐な少女が無闇矢鱈と魔物と倒して回るように見えているなら心外です。
しかしそんなことを思われているはずもなく、
「通って良いぞ」
と通行の許可が下りました。
「ありがとうございます」
一礼して先へ進みます。
町へ入るのに時間がかかるのはいつものこと。
本当に子供なのか、とでも言いたげな視線が背中に刺さるのもいつものことです。
宗教の町ということで町全体の雰囲気もどこか厳かに感じられます。
町を囲う城壁も、魔物の侵入を抑えるために頑丈な作りになっていました。それと同じように町の中の建物も頑強に作られています。
灰色の石やらブロックやらで建てられているからでしょうか。どことなく冷たいような空気が感じられました。メインストリートだからか、警備の兵士が何人も立っています。それが余計に冷たく思えるのでしょう。
人の流れもそう多いわけではなく、通りに活気もありません。自らの信奉する宗教のご本尊がすぐ近くにあると思うと、自然と真面目に粛々となるのでしょうか。
町全体が一つの教会であると思えばこの空気感にも納得です。
それとも軍の基地があるからでしょうか。
それだけに、真紅のフリフリのドレスを着て身長ほどもなる大剣を担いた少女が歩いているのは、悪い意味で浮いてしまっています。
「とりあえず宿を探しましょうか……」
宿場町なのですぐに見つかるでしょう。
今歩いているのは商店街でしょうか。これまで何度も見て来た市場のように、露店で商品を並べているような店は一つもありません。
どの店も画一的な見た目の建物で、唯一の違いと言えば掲げられている看板くらいでしょうか。
これまで無宗教として生きて来たワタクシにとって、宗教国家とはそれだけで居心地悪くなってしまいます。
道の随所に立っている軍の兵士も、少しでも戒律に触れるようなことをすれば飛んで来そうな圧力があります。
ちょっと休憩でもしてから、なんて思っていましたが早々に宿屋で休むことが吉でしょう。
兵士達の視線から逃げるように通りを一本横に逸れると、宿屋がいくつか並んでいる通りに出ました。
その中から、小綺麗でそれほど高そうではない宿を適当に見繕って入ります。
「お嬢ちゃん、お金は持っているの?」
「父が持たしてくれましたので」
たまに想像よりも高い時がありますが、そういう時はこう言っておけば大丈夫です。
貴族の一人娘が見聞を広げるために旅に出ているようにしか思われません。
ポイントで交換できる景品の中にはこの世界の通貨もありました。冒険者としてもそこそこ仕事していることもあって、懐もそれほど寂しくありません。
「そういえば、人を探しているんですがこの方をご存知ありませんか? マイク・ホーザントと言う方らしいのですが……」
似顔絵の書かれた紙を見せます。
宿屋の店主は一瞬顔を顰めた後、
「軍の総団長。一番偉い方だよ。何か用でもあるのかい?」
「父の知り合いなので挨拶でも、と……」
不穏な空気を感じます。少なくとも、マイク・ホーザントという軍人は一般市民に好かれてはいないようです。
「最近は気が狂ったなんて噂でね。生憎だけど会わない方がお嬢ちゃんのためだよ」
「そうですか……。ありがとうございます」
それから宿泊する時の簡単な注意を聞き、部屋に案内されました。
子供が一人で泊まるには広過ぎるくらいの大きさで、十分満足できる部屋です。
店主が部屋から去り、ようやく一息吐くことができます。
大剣を下ろし、ガントレットを外してブーツの紐を緩めます。備え付けの洗面台で軽く顔を洗って長い髪を括れば、スッキリとリラックスできる状態です。
今回のターゲットは軍の総団長。地位も名誉もありそうな人がどうして神様から狙われるまでになったのか。
明日は基地の方を見てみるとしましょう。
最悪の場合、軍全体と戦うことになりかねませんから。




